中堅・中小企業(SMB)市場向け戦略として、OSやデータベース(DB)を持つ大手ソフトウェアベンダーやミドルウェアを持つ大手ハードウェアメーカーのISV(独立系ソフトウェアベンダー)支援が活発化している。従来のように個々のISVに対する技術、販売両面での支援だけでなく、ISV同士が自主的に協業する仕組みの構築に躍起だ。こうした動きに対し、ISV側はどのベンダーやメーカーの陣営にシフトしようとしているのか、業界でスタンダードとなっているアプリケーションを持つ有力ISV各社の動向を探った。(谷畑良胤●取材/文)
自主的な協業生む仕組みも
■「昔ほど優劣はない」マイクロソフトとオラクルの差 EC(電子商取引)サイト構築パッケージ「SIウェブショッピング」を主力製品に持つシステムインテグレータの梅田弘之社長は、国内データベース市場で2強のマイクロソフト「SQLサーバー」とオラクルDBの差について、「昔ほど、ベンダー2強の技術面や販売支援などで優劣はない」と語る。
梅田社長は1994年、住商情報システム在籍中にSMB向けERP(統合基幹業務システム)「プロアクティブ」の開発で陣頭指揮を執った。ERPがまだ普及していなかった時代だけに、住商情報システムに対し、日本オラクルは新たな市場を見い出そうとSE(システムエンジニア)派遣や技術検証など支援に力を入れた。このため、オラクルDBをベースにした開発は自然の流れだったという。
昨年10月には、梅田社長の呼びかけで、ユーザー系システムインテグレータ8社と共同で事業会社「インフォベック」を設立。そしてウェブベースの国産ERP「グランディット」を開発し、今年5月に発売した。
グランディットはECやCRM(顧客情報管理)、BI(ビジネスインテリジェンス)機能をERPに統合する新たなコンセプトが特徴。「BIが無償で提供されるSQLサーバーを選択し、マイクロソフトのISV支援を受けた」。
ECサイト構築パッケージでシステムインテグレータと競合するソフトクリエイトは、ASP(アプリケーションの期間貸し)型EC構築エンジン「ecビーイング」を、.NETベースに準拠させている。「ECサイト構築では、ユーザー側にマイクロソフトの開発言語『ビジュアル・ベーシック』の技術者が多く、.NETでの利用を希望する率が高かった」(岡本康広・社長室部長代理)と、開発リソースの点で.NETが優位だったと語る。
一方で、ソフトクリエイトは、同社のウェブ伝票作成アプリケーション「エクスポイント」で、オラクルDBを採用した。「日本オラクルのウェブ販売サイト『オラクル・ダイレクト』や、日本オラクルと協業関係にあるCSKの販売チャネルを通じた販売力や業務アプリケーションを使う上でのオラクルDBの安定性が魅力だった」(岡本部長代理)ためだ。
■各社、支援プログラムを用意、Linux対.NETの構図、鮮明に EIP(企業情報ポータル)市場でシェアの高い「パワーエッグ」を開発販売するディサークルは、かつては中小企業市場向けにオラクルDBとSQLサーバーを使い分けていた。だが、中堅企業市場向けには、Javaベースのパワーエッグを製品化している。DBにはオラクルDBとIBMのDB2を、ウェブアプリケーションサーバーでIBMの「ウェブスフィア」とBEAシステムズの「ウェブロジック」を採用していた。
ディサークルは、今年4月に富士通が、ウェブアプリケーションサーバー「インターステージv6」をオープンソースに完全準拠させたことに対応し、インターステージを初めて採用した。「富士通は、昨年6月から、アプリケーションサーバー販売をミドルウェア戦略の中核に位置づけた。オープンソースにも準拠したため、複数のプラットフォームでパワーエッグを利用できる」(西岡毅社長)ことをメリットとしてとらえ、インターステージを利用してビジネス拡大を図るほか、富士通チャネルでの拡販と技術支援に期待をかけている。
パワーエッグはウェブスフィアを採用する一方、DB2の利用を最近停止した。「DB2の技術者が、実は国内に少ないのでは」(濱野宏和・常務取締役開発・技術統括)と考えたためだ。
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は、ISVの持つノウハウを生かして新たなソリューションを構築する「VAP(バリューアデッドパートナー)」を昨年5月に組織化しDB2をはじめとするミドルウェアの拡販を強化した。だが、VAPに登録していたあるISV幹部は、「日本IBMは、セミナー開催など、マスマーケティングは上手い。だが、地方では販売店網が整備されておらず、実際の受注段階となると販売力が及ばない」と指摘する。それでも、「全ミドルウェアのソースコードがシームレスに統一されているため、システムの安定性は日本IBM製品が随一」(あるISV担当者)という評価も厳然として存在する。
業務ソフトベンダー大手のオービックビジネスコンサルタント(OBC)、ピー・シー・エー(PCA)、応研は、いずれも.NETベースのみでERP製品を開発し、販売している。OBCは00年8月、Linux版の新ERPの開発を停止し、すべてをウィンドウズベースとした。「Linuxで提供される開発ツールに比べ、ウィンドウズ版の開発ツールの方が2、3倍の開発生産性を実現できる」(OBCの和田成史社長)というのがウィンドウズ集中の理由だ。
この3社は、「マイクロソフトが技術・販売両面ですべてのサポートを提供してくれる安心感がある」という点で一致しており、オープンソースベースの開発には目もくれない。
これに対し、日本オラクルの三澤智光・執行役員クロスインダストリー統括本部長は、「世界の中堅・中小企業では、Linuxベースの基幹システムが潮流になり始めている。大手業務ソフトベンダーが.NETに傾注する姿勢は、将来的に危険だ」と、警鐘を鳴らす。
マイクロソフトは今年度(05年7月期)、ISV支援として「スルーパートナーマーケティング(TPM)」を提唱している。これまでのように、マイクロソフト側から一方的にISVに対し支援するだけでなく、ISV同士が自主的に協業してマイクロソフト製品上でのソリューションを増やすという作戦だ。
大手ソフトベンダーやハードメーカーにとっては、TPMのような形を成熟させ、各業種で業界標準となりつつあるアプリケーションを持つISVを取り込み、そのISVの技術力向上をバックアップし、さらにVAPとして1社でも多くの有力ISVを陣営に取り込むことを狙う。そしてその成否が中堅・中小企業市場を攻める上で重要になっている。
 | | 戦略上重要なISV支援 | | | 中堅・中小企業市場開拓のためにISV支援を組織化しようという動きは、大手ではマイクロソフトが2001年10月から始めた「全国IT推進会」が嚆矢といわれる。その後、日本IBMがISV向け技術、販売両面の支援を目的にした「VAP」を昨年5月に開始した。 今年に入り、富士通とマイクロソフトがISVアプリケーションとハードウェアを組み合わせて、事前の動作検証を行う支援プログラムを新たに開始した。日本オラクルも、ISVのアプリケーションとオラクルDBなどをセット化したソリューションをウェブ販売サイト「オラクル・ダイレクト」で直接企業に販売する形態を取り入れた。各ソフトベンダーやハードメーカーにとって、ISV支援は戦略上、重要であり、そのための支援内容も急速に充実してきた。 | |