日立製作所(庄山悦彦社長)が住宅のIT化ビジネスを積極的に進めている。ITマンションをコンセプトに、専用端末で地域情報の閲覧や家電製品のコントロールなどが行えるシステムの提供で成果を上げている。さらに競合他社に先行し、ITマンションだけでなく戸建の案件にも対応を開始した。今や新築物件は通信インフラの整備が当たり前。入居者がITを活用して快適に暮らせることが、選択基準の1つの要素になりつつある。同社では、IT住宅ビジネスが拡大していることに着目し、本格的にビジネス強化に乗り出した。(佐相彰彦)
■各戸に情報端末を用意 
日立製作所がITマンション関連ビジネスに参入したのは2001年。エレベータ機器の販売やサービスを中心に手がける都市開発システムグループとユビキタスプラットフォームグループが連携することで実現した。スタート後、約1年はビジネスモデルの構築や顧客となるデベロッパーの開拓などに専念。02年3月に完成したマンション「グランフォーレ戸塚」(横浜市戸塚区)に初めてITマンションシステムを導入した。
グランフォーレ戸塚は、地上10階建てのマンション2棟で総戸数が206戸、7基のエレベータが設置されている。日立では、共有部分であるエレベータの管理や保守などのほか、ICカードを用いた施錠管理や、緊急時にカスタマーセンターが対応するなど、住民の利便性と安心を提供するシステムを実現した。
最大の特徴は、各戸に情報端末「FLORA-ie55mi」を装備していることだ。同端末は、タッチパネル式で操作でき、コミュニティ情報や管理人からの連絡、宅配ボックスの着荷通知などを配信しているほか、電子回覧板や電子掲示版などの役目を果たす。シアタールームやキッチンスタジオ、来客用の宿泊施設、ゲストルームなど共有施設の予約と課金が行えたり、部屋からエレベータを呼び出したりすることも可能だ。火災時には、マンションの何階で発生しているのかを表示するといった緊急時にも対応している。
山田康行・都市開発システムグループソリューション統括本部ビルソリューション本部ビルソリューション部エンジニアリング第二グループGL主任技師は、「入居者に対して1年後に実施したアンケートを見て、評価の高さを実感した」と自信をみせる。
■屋外から給湯器や照明を操作 昨年には、大阪府内のマンションで情報端末の標準装備に加え、屋外から携帯電話を用いて家電機器をコントロールできるシステムを提供した。室内にいなくても給湯器や床暖房、照明などの電源を遠隔操作できる。
しかし、システムの導入は未だテスト的なもので、フルメニューでサービスし切れていない。というのも、同社が推進している、複数の家電を統合的に管理するネットワークシステム「エコネット」に対応した製品が、「完全に普及しているとは言えない」(山田主任)ためだ。エコネット対応の製品が市場に多く出回ることにより、「付加価値が高いサービスとして本格的な活用段階に入るだろう」(同)とみている。
また、同社では戸建の案件にも対応している。02年10月には、東急不動産が区画整備事業として手がける「あすみが丘エリア」(千葉県千葉市)の東地区で、約400戸に対して情報端末の標準装備に乗り出した。「1400戸に端末を導入する」(安藤肇夫・ユビキタスプラットフォームグループソリューション統括本部システムフロントセンタ部長代理)ことが決定しており、将来的には東急不動産が担当する5600戸すべてに導入する方向性も出てきている。
同端末で提供するサービスは、昨年4月から稼働している地域情報サイト「ライフサポートシステム(LSS)」。LSSでは、掲示板による住民や団体からのお知らせをはじめ、医療・福祉関連や学校などの情報を配信している。「地域の情報インフラとして、住民間の情報交流などコミュニティの形成や活性化を促進していく」(安藤部長代理)サイトとして位置付ける。運用は、地元のNPO(特定非営利活動)法人が担当し、日立がシステム面の支援を行っている。
■年間1万戸の導入を目指す 日立では、今年9月末の時点でマンションと戸建を含め約6000戸のIT化に取り組んできた。
山田主任は、「消費者は、通信インフラが整備されており、なおかつ利便性の高いITを活用できるマンションを購入の理由に挙げるケースが増えてきた」と、ITマンションへのニーズが高まっていることを強調する。
同社の売上全体でみれば、「IT住宅の売り上げは微々たるもの」(山田主任)だが、ブロードバンドの急速な普及により、今後は確実に伸びる市場といえる。ビジネス規模が急拡大するポテンシャルを秘めているということだ。
一方、すでに参入している企業がシステム拡販に向けた強化策を打ち出していることに加え、新しいプレーヤーの登場などで、「競争が一段と激しくなることは確か」(山田主任)という。そのため、「当社は、ハードウェアやソフトウェア、コンテンツなどを持っており、さまざまなソリューションを提供できると自負している。住宅購入者の利便性を考えたソリューションを実現し、IT住宅のデファクトを作っていく」(安藤部長代理)方針を示している。当面は、1年間で1万戸への導入を目指す。