企業情報システムの保守サービスビジネスに変革が求められている。コンピュータメーカーや、OA機器の保守サービスベンダーが保守サービスの対象範囲を広げたことで、価格競争はさらに激化し、サービス単価の下落が止まらない状況だ。各社は打開策の1つとして、CE(カスタマーエンジニア)に技術力と営業力の両方を求めはじめ、“営業兼CE”の育成に力を注いでいる。「高収益・安定的なビジネス」と言われた保守サービス事業にも、ビジネスモデルの見直しが必要になってきており、CEのあり方も変わりつつある。(木村剛士●取材/文)
CEに営業スキルを求める動き高まる
■「2年間で60億円のコスト削減」強まる顧客からの低価格要求 「1000人規模の人員最適化費用で50億円の特別損失を今年度(2005年3月期)に計上する」。NECフィールディングの富田克一社長は、10月1日に開いた今年度中間業績の見通し修正説明会で、こう語った。200人を対象にした早期退職優遇措置の実施や、250人の派遣会社への転進支援などの人員最適化費用として、50億円を投じる判断を下した。
併せて、人員配置の見直しも進める。保守関連部材の調達効率化など、2年間で60億円のコスト削減にも打って出る。今年度通期の連結業績見通しは、期初予想に比べ、売上高で103億円下回る2517億円とし、経常利益は53億円下回る116億円に下方修正した。富田社長はその主な理由として、「想定以上の保守サービスの価格下落と、ハードの性能向上による安件数減少」をあげた。
「ここ数年を見ても、保守ビジネスのサービス価格は確かに下落しており、業績には織り込み済みだった。だが、当社が予測していた案件単価は、前年度比で約5%減。今年度は約10%も下落している」(富田社長)と説明。「前年度比10%減という数字は今後も続く」(同)という予測も示した。
富士通サポート&サービス(Fsas)の保守ビジネスも、この厳しい環境の中にある。
Fsasの保守事業の連結業績は、02年度(03年3月期)は売上高480億円、営業利益69億円と、ともに01年度の実績を上回ったが、03年度(04年3月期)は売上高468億円、営業利益58億円と前年度実績を割り込んだ。今年度(05年3月期)の見通しも、03年度実績を下回る数値に設定しており、減少傾向が続く。Fsasの前山淳次社長は、「保守対象機器の低価格による単価下落」と、やはりサービス価格下落を業績縮小の理由にあげる。
しかも、「競合が増えたことで、顧客からの低価格要求がさらにきつくなっている」と、低価格化の加速を説明する。「保守サービスベンダーだけでなく、デルがハードウェアに無償で保守サービスをつけるなど、外資系コンピュータメーカーも保守サービスを付加価値として提供する動きが目立ち、競合となっている」という。
■ITインフラ全体の面倒を見る、ニーズの変化への対応が必要 競合は、外資系コンピュータメーカーだけではない。OA機器の保守サービスを手がけてきたベンダーも、コンピュータやネットワーク関連の保守ビジネスを徐々に拡大させ、競争激化に拍車をかけている存在として見逃すことはできない。Fsasの前山社長は特にパソコンの保守サポートについて、「基本的に交換が中心のハードだけに、コンピュータの高いスキルやノウハウがなくても、手をつけられる。この分野でOA機器の保守サービスベンダーと競合になるケースは多い」という。
リコー製OA機器の保守事業からスタートし、コンピュータ、ネットワーク関連保守サービスにも進出、ネットワーク構築事業にも強いリコーテクノシステムズ(RTS)の中西誠・ITサービス事業本部事業統括部部長は、「コピー機やプリンタ単体の保守だけではビジネスにならない。OA機器だけでなく、コンピュータやネットワークなどを含んだITインフラ全体の面倒を見ることが、保守ビジネスには不可欠」と、ニーズが変化していることを説明する。そのうえで、「OA機器からコンピュータネットワークまで保守サービスを提供できる体制を整えたことで、営業フィールドが広がった。OA機器の保守で培った既存顧客との関係を活用し、新たな案件を提案していく」と、コンピュータ系保守サービスベンダーにはない強みを強調する。
ハードウェアの価格と保守サービスの単価は比例するだけに、ハードの低価格化は、保守事業のビジネス拡大の足かせになり、性能向上によりトラブルが少なくなったことで保守契約をしない場合もある。壊れたら交換すればいい、というわけだ。加えて、保守サービスを手がける企業も、ジャンルを超えて増えたことで過当競争がし烈になっている。安定的事業と言われてきたビジネスモデルを揺るがす要因が、一気に押し寄せている。
保守サービスベンダーは、打開策としてCE(カスタマーエンジニア)の存在に注目している。修理・交換という従来の保守業務だけでなく、顧客のITインフラを把握し、新たな提案ができる“営業兼CE”を育成することで、顧客単価を上げる考えを共通の戦略として掲げている。
RTSは現在、“営業兼CE”の役割を果たすCEが50人いるが、「07年度には10倍の500人に増やす」(RTSの追川肇・マーケティング本部副本部長兼マーケティング推進室長)計画。Fsasも「人材育成投資を加速させる」(前山社長)方針。NECフィールディングは、人員最適化施策のなかでも、「CEは増やす考え」(富田社長)を示している。保守サービスのビジネスモデルに改革が必要になってきたとともに、求められるCEのスキルも変わってきた。
 |  | ハードの保守サービス低迷の理由は、メインフレームなどの高額なハードが少なくなり、低価格サーバーで情報システムを組むユーザーが増えているためだ。保守サービスの単価はハードの価格と比例するだけに、自然と売り上げも減る。低価格なハードを導入する傾向は今後も続き、ハードの保守サービス市場の拡大は難しいだろう。 また、保守サービス市場全体が低迷する理由としてあげられるのは、システム全体の運用をITベンダーに任せるユーザーが増えていることだ。ハードとソフトを揃え、インテグレーションし、さらに保守契約を結ぶよりも、システム全体をアウトソーシングして、運用・保守も任せる方がコストを削減できると考えるユーザーは、ますます増えていく。 | | マイナス成長が続く | | | | IDCジャパン ITサービスシニアマーケットアナリスト 柏木成美 保守サービス事業全体は、マイナス成長が続くと見ている。 ソフトウェア関連の保守ビジネスは、セキュリティや運用管理ソフトなどが順調に販売を伸ばしており、それに付随する保守サービスも増え、プラス成長が中長期的にも期待できる。だが、保守サービス市場全体の約半分を占めるハードウェアの保守サービスが低迷することが大きく影響する。 | |