買い取りがビジネス伸長のカギに
参入企業、仕入ルート開拓に本腰
あれば売れるのにタマがない──。中古パソコンビジネスを手がけるメーカーや卸業者、ショップなどが買い取り事業の強化に躍起になっている。コンシューマ市場で中古パソコンを購入の選択肢に入れるユーザーが増えており、中古パソコンそのものが不足しているためだ。各社とも、リユースをさらに拡大させるため、法人から買い取るだけでなく個人からの買い取りに着手するほか、アライアンスを組むことによる仕入ルートの増加、リースアップ品を買い漁るなどあの手この手で買取量を増やそうとしている。“中古品として流せば売れる”という流れが出てきているなか、中古パソコンの仕入競争に拍車がかかっている。(佐相彰彦●取材/文)
ショップへの中古パソコン卸
メーカー各社、1年強で成果 日本アイ・ビー・エム(日本IBM、大歳卓麻社長)は、11月1日から11月30日までの1か月間、パソコンの買い取りで通常査定価格に一律20%上乗せするキャンペーンを実施している。2000年以降のモデルについては、さらに10%増やして通常の査定価格の30%増しの価格で買い取ることにした。
同社では、企業のリースアップ品を中心に中古パソコンの仕入量が「1か月平均で前年同月の2ケタ増」(安食直也・グローバル・ファイナンシング事業部リマーケティング営業部主任ソリューション・スペシャリスト)と増えている。「コンシューマ市場では、中古パソコンの購入が選択肢の1つになりつつある」ことから、中古品の買い取り事業の強化に踏み切った。
今回のキャンペーンを手始めに、同社の社員を対象とした個人所有の中古パソコンの回収プログラムを近く実施する。「個人からの買い取りを狙った仕組みを作る」(安食スペシャリスト)という。これにより、「買い取り量を数倍に引き上げたい」考えだ。
NECパーソナルプロダクツ(片山徹社長)は、個人ユーザーからのパソコン買い取りに加え、このほど企業顧客からの買い取り事業も開始した。
パソコンを下取りに出したい企業は、ウェブサイト上の買い取りサービスで申し込める。また、販売パートナー経由で、NEC製パソコンから同社製のパソコンに買い替える企業ユーザーは買い取り価格を10%アップする「NEC PCレベルアップ優待制度」が適用される。
小澤昇・PC事業本部保守サポート事業部リフレッシュPC営業グループマネージャーは、「(企業からの買い取りが)軌道に乗れば、買い取り量が数倍に膨れあがる可能性がある」としており、将来的には、「リースアップ品も買い取り品の1つの候補として検討していく」(同)と、買い取り量を増やす方法の開拓を続けるという。
日本IBMもNECパーソナルプロダクツも、2003年7月からパソコンショップへの中古パソコン卸事業に着手し、1年強が経過してビジネスとして定着してきた。日本IBMが20社以上、NECパーソナルプロダクツが15社以上と販売契約を結んでおり、「今後も増えていく」というのが両社の見解。集めただけ売れるため、パソコンの買い取り量を増やす戦略を打ち出しているというわけだ。
中古需要は堅調に拡大
買い取りで競争激化は必至 中古パソコンの卸業者も、買い取り量を増やすことに頭を痛めている。デジタルリユース(木下敬司社長)では、企業からの買い取りと企業への販売だけでなく、中古パソコンをカスタマイズするノウハウを生かして、パソコンメーカーや量販店などのサイトで買い取りパソコンの下取り価格の査定から、パソコンの引き取り、買い取ったパソコンの再製品化までを一貫して行うビジネスを開始。10月末の時点で、買い取り先として販売店など8社と提携した。この買い取り先が販売先にもなる。
木下社長は、「1か月平均で1万台程度だった買い取り量がカスタマイズビジネスを含め、月1万2000-3000台まで増えている。今年度末の時点で1万5000台までは伸びるだろう」と買い取り量の安定増に自信を示す。アライアンス企業数を増やし、中古パソコンのカスタマイズビジネスを拡大することで買い取り量が増え、それとともに販売量も増えるわけだ。「来年度には月2万2000台程度、06年度に3万台まで引き上げたい」としている。
 | | 市場の1割が中古パソコン | | | 中古パソコンがパソコン市場の1割程度を占めるまで拡大している。情報機器関連の民間調査会社であるMM総研によると、国内中古パソコンの出荷台数は2003年度に90万台(前年度比11.1%増)となり、04年度には100万台(同9.9%増)に達する見通し。 中古市場が伸びてきた背景には、インターネットやメールを使うことができる中古パソコンが増えたことにより、2台目以上のサブマシンとして購入するユーザーが増加したことや、子供に中古を買い与えるケースが多くなったことなどがあげられる。 昨年10月から実施されている家庭系パソコンのリサイクル制度も追い風になった。電子情報技術産業協会(JEITA)では、「中古パソコン市場の確立は、中古自動車市場のようにパソコン市場全体を成長させる要素になるだろう」とみている。 | | |
メーカーや卸事業者がリユース事業の拡大を図っているのは、中古パソコンの需要が確実に伸びているため。中古パソコン専門店「じゃんぱら」を運営するサードウェーブエクスチェンジでは、全国の31店舗すべてでパソコンの買い取りサービスを行っており、「最近では、パソコンの上級者だけでなく中級者でも買い替えのために自分のパソコンの下取りで来店するようになった。中古パソコンの購入者の裾野は広がっている」(本間義行・事業部仕入担当)という。今年度(05年3月期)に入ってからは、買い取り量は個人ユーザー対象なので1か月平均で1200-1300台と少ないが、それでも「昨年度より増えている」(同)としており、そのまま販売台数の増加につながっている。
NECパーソナルプロダクツでは、今年9月の時点で買い取りスタートからの中古パソコン累計出荷台数が1万2000台になり、「収支はトントン」(小澤グループマネージャー)という。デジタルリユースの木下社長は、「昨年度は20億円の売上高で、利益が単年度黒字になった。今年度は28億円を見込んでおり、上期の時点で黒字を達成した」という。
中古パソコンの購入者が増えていることで、問題となっているのは絶対的な供給量不足だ。商材が少ないというのは、新品を買い替える個人ユーザーが少ないことと、ユーザーが所有しているパソコンの多くが、一般的に長く使用するため古すぎて中古パソコンとしては商品化できず、廃棄物にしかならない“型落ち”であるためだ。
リユース事業を手がける各社が買い取り量を増やす策を講じているのは、買い替えサイクルを早めることにつなげる目論みもある。ユーザーのパソコン所有期間が短縮されなければ、中古パソコンの仕入は数少ないタマを激しく奪い合うことになる。結果的に買い取り価格をアップして良質な中古パソコンを集めても、中古のために販売価格が頭打ちならば利益幅が圧縮されることになる。リユース、リサイクルの輪を維持し環境問題に貢献するためにも、安定したビジネスモデルの構築が不可欠だ。