米アドビシステムズ(ブルース・チゼン社長兼CEO)は、デジタルイメージングソフト「アドビ・フォトショップ」シリーズの需要拡大に力を入れている。デジタルカメラの普及にともない、デジタルイメージング市場の成長が続いており、ユーザー層はプロのクリエイティブ分野から、法人やコンシューマにまで裾野が広がっている。同社のデジタルイメージングおよびデジタルビデオ部門を統括するブライアン・ラムキン上級副社長に、デジタルイメージングの製品戦略およびシェア拡大策について聞いた。(佐相彰彦●取材/文)
「フォトショップ」の拡販に注力
■プロからコンシューマまでカバー
──デジタルイメージングソフト市場の拡大が続いている。
ラムキンデジタルイメージングソフト市場は、印刷物にカラーを頻繁に活用するという1980年代からの第1フェーズを経て、ウェブパブリッシングが盛んになる第2フェーズに突入、着実に成長している。そして00年以降は、デジタルカメラの爆発的な普及により、デジタルイメージングソフトの需要がさらに高まっている。
当社では、3つの大きな分野でデジタルイメージングソフト「アドビ・フォトショップ」の拡販に力を注いでいる。第1の分野は、プロフェッショナルなクリエイティブの分野だ。カメラマンやデザイナーなどの多くは、フォトショップの利便性を理解している。その結果、この分野で圧倒的なマーケットシェアを誇っている。第2の分野は、一般企業や官公庁、教育機関などの法人分野だ。この分野では、業務でフォトショップを活用している。そして第3の分野が一般的なコンシューマ市場だ。ここでもフォトショップの利用が進んでいる。
──具体的なニーズは。
ラムキン この3つの市場がそれぞれ異なった姿で成長している。クリエイティブ分野では、一眼レフのデジタルカメラの登場で、デジタル画像のメリットを最大限に引き出し、一段とインパクトの強い画像処理が求められている。
一方、法人分野では、営業担当者が会議や取引先との商談などで映像や画像を用いたプレゼンテーションに活用したり、エンジニアが開発段階でイメージを湧かせるための高解像度画像の活用、社内作業で画像を使うことによる業務の効率化といったケースが増えている。また、コンシューマ市場では、個人の楽しみとして、デジタルカメラで撮影した画像をより良い写真で印刷することが主流になっている。
こうしたニーズにより、デジタルイメージングソフトが幅広い層に活用されるようになってきている。この傾向はますます加速していくだろう。
■顧客ニーズに合わせた製品を開発
──デジタルイメージングソフト市場の成長で、参入企業間の競争は激化してくるといえるが。
ラムキン 多くの企業が参入し、競争が激しくなっているのは確かだ。しかし、プロフェッショナル、法人、コンシューマのいずれの分野でもフォトショップがトップシェアを獲得している。今後も当社がリーディングカンパニーとして存在していくと自負している。
他社の追随を許さないためには、顧客ニーズに合わせた製品の開発が必須となる。このほど、コンシューマ向けに発売した「アドビ・フォトショップ・エレメンツ3.0」は、画像の修正など高度な画像編集を初心者が簡単に行えるようにしたほか、写真整理機能を統合するなど、オールインワンソフトに仕上げている。
この製品は、プロ向けに開発した機能をコンシューマでも簡単に使えるようにしたのが特徴だ。技術を進歩させることが革新的な製品を生み出すことになる。
──販売面での差別化策は。
ラムキン販売戦略は実にシンプルだ。良い製品を供給できるチャネルを構築し、多くのユーザーに購入してもらうだけ。販売面では、デジタルイメージングソフトだけでなく、ドキュメントソフト「アドビ・アクロバット」など幅広い製品を揃えている。豊富な製品ラインアップと各企業とのパートナーシップが製品の拡販につながっている。
当社では、製品を顧客のニーズに応えた完全な形で提供する「コンプリートソリューション」を掲げている。これは、“複数のアプリケーションをシームレスに活用する”というコンセプトを実現するものだ。たとえば、日本ではコニカミノルタと提携し、編集したデジタル画像のプリントをオンラインで注文できるサービスを開始した。フォトショップが持つアプリケーションをパートナーとのアライアンスで技術の追加や拡大を行っていくことがカギといえる。
■日本市場の声を製品に反映
──アドビシステムズのビジネスの中で、日本市場をどうとらえていくのか。
ラムキン 日本は、ワールドワイドで需要を増やしていくための重要な市場と考えている。デジタルイメージングに対するニーズが高く、ワールドワイドに効果をもたらしている。日本での売上高は、当社全体の20%を占めている。今回の「フォトショップ・エレメンツ3.0」では、年賀状などのポストカード作成をサポートする機能を搭載したり、使いやすさをイメージしてパッケージをシンプルなものにするなど、日本発のニーズを製品に反映している。しかも他地域に先駆けて新製品を市場に投入している。今後も、日本におけるユーザーの声を反映した製品を開発していく。
その一方で、東欧や中国は技術やニーズなどの面で他の地域より遅れている。しかし、これからデジタルイメージングの需要が出てくるポテンシャルは高いとみている。
──04年度(04年12月期)第3四半期の売上高は前年同期比27%増の4億370万USドル(約425億3700万円)と好調だった。デジタルイメージングビジネスは拡大したのか。
ラムキン 当社では、売上高が年率20%以上で成長している。デジタルイメージングの具体的な数値は明かせないが、成長していることは確かだ。フォトショップを中心に販売が好調に推移すると確信している。