ソフトバンクBBの孫正義社長が2003年末に宣言した「ユーテリティコンピューティング戦略」の法人向けビジネスが、ようやく具現化してきた。同社は2月、米ソフトリシティ(ハリー・ルーダCEO)と日本国内における販売代理店契約を結び、さまざまなアプリケーションをサーバーで一元的に管理し、サーバーからクライアントパソコン(クライアントPC)に一元的に配信する次世代型アプリケーションマネージメントプラットフォーム「ソフトグリッド・プラットフォーム(ソフトグリッド=SoftGrid)」を発売したが、同製品を核に法人向けビジネスの再活性化を図る。既存のパートナーを通じたソリューション販売を本格化させるほか、今後、ASP(アプリケーションの期間貸し)サービスや業務ソフトベンダーとパッケージの共同開発も開始する意向だ。本来の基幹事業である流通卸の活性化を狙ったこの戦略は、同社の法人向けビジネスの将来を占う意味で“試金石”となりそうだ。
「ソフトグリッド」核に複合販売目指す
■IT運用・管理が容易になる ソフトグリッドは、必要に応じてアプリケーションをサーバーからクライアントPCへストリーミング技術を利用して配信するソフトウェア。クライアントPCにはアプリケーションソフトをインストールせず、ユーザーのログイン時にアクセス権限のあるアプリケーションを配信する。動作は快適で、あたかもインストールソフトを使う感覚で使用できるという。
ソフトグリッドを利用すれば、業務系のアプリケーションをサーバー側で集中管理できる。アプリケーションの利用権限やバージョンアップ、セキュリティに必要なパッチ適用、ソフト資産管理(ライセンス遵守)などが容易になり、IT運用の管理コストが大幅に削減できると同時に、情報漏えい防止型のネットワークを構築できる。
TCO(総所有コスト)の削減はかねてから大きな課題になってきたが、ここにきて、企業では、パソコン台数の増加やアプリケーションの肥大化、異なるベンダーのソフトの混在などから、アプリケーションの配布・アップデート・削除、ライセンス遵守などに多額のコストがかかり運用管理も複雑化し、その対策が改めて注目を集め始めている。
昨年後半から、プロセッサやメモリ、ハードディスクなどをブレード状のボードに搭載してセンター側で集約管理、エンドユーザーにはシンクライアント端末などを持たせる「プレードPC」の新製品が相次いで登場しているが、これもTCO削減とセキュリティ対策を正面に出している。ブレードPCの総出荷台数が来年度(2005年4月-06年3月)10万台規模に達するとの予測もある。
「日立製作所が社内のパソコンを全廃して、サーバー集約型のシステムに切り替えたが、セキュリティ確保やIT運用管理費の削減を大きな目的としていると聞く。こうした点からも、セキュリティ確保やIT運用管理費の削減ニーズが高まり、サーバー側でアプリケーションを集中的に管理するソフトグリッドの需要は確実に拡大する」と語るのは、溝口泰雄・流通事業統括統括担当である。
ソフトバンクBBは、ソフトグリッド拡販の第1段階として、ソフトリシティと共同で提案活動を行うほか、既存パートナーのなかから「ソフトグリッドを扱ってくれる認定パートナーを5-10社開拓する」(仲畠太士・流通営業本部ソリューション事業統括部BBソリューション推進部企画課課長)意向で、新たなパートナー戦略を立ち上げる計画だ。
次段階では、法人向けにASPサービスを開始するほか、ソフトベンダーとのアライアンスも強化する予定。
ハード、ソフトを問わず既存製品とセット販売できる体制の整備も検討している。将来はそれを一歩進め、既存の業務ソフトベンダーなどと協業関係を組み、ソリューションやパッケージの開発をしていく予定という。
企業のIT投資が回復のきざしを見せていると言われているが、もはやサーバーやパソコンなどITインフラの単体売りでは利益確保が難しくなっている。大手ディストリビュータは、ソフトとハードの複合的な販売方法にシフトしている。ソフトバンクBBは、ソフトグリッドを核にした複合販売で活路を見い出そうとしていることになる。(企画編集取材班)