日本では1970年の大阪以来35年ぶり、今世紀に入ってからは初の国際博覧会となる愛知万博(愛・地球博)がこのほど、名古屋市東郊の長久手・瀬戸の両会場を中心に開幕した。「自然の叡智」と「豊な交流」を縦横の糸として、地球の全ての「命と未来」を考える場とすることが今回のテーマ。そのテーマを身近に感じさせ、理解を促進させるための「有効な仕掛け」として用いられているのが「IT」だ。各パビリオンが、それぞれに最先端技術で工夫を凝らした展示により、驚き、楽しみながら、地球の将来を考えさせてくれる内容となっている。(山本雅則・大阪駐在)
■コンピュータ技術の粋を駆使
今回の万博で目を惹くのは、CG(コンピュータグラフィックス)などを活用し、リアリティのある映像でコンセプトを伝えるアトラクションが多いことだ。85年の「つくば科学博」でも映像を用いたアトラクションには驚かされたが、技術水準の違いには改めて目を見張らざるを得ない。もちろん、その背景にあるのは、この20年間のコンピュータや映像技術の進展だ。
長久手会場中央の日本ゾーン、長久手日本館にある世界初の360度全天球型映像システムでは、12台のプロジェクターと最先端の映像調合技術を駆使することで、高精細な映像を体感できるようになっている。地球と一体化し、文字通り「今、自分がどこにいるのかを忘れる」ほどの臨場感で迫ってくる内容で、地球の生命力の素晴らしさを味わうことができる。
映像技術の進歩は、会場へのアクセスの主役である国内初の磁気浮上式リニアモーターカー「リニモ」の万博会場駅と連絡する北ゲート周辺の企業パビリオンゾーンで、より実感できる。
■CGを使った多彩なアトラクション
早くも話題となっている三井・東芝館のアトラクション「グランオデッセイ」は、観客自身が映画の登場人物になって活躍できる。観客は初めに3D(3次元)スキャナ「フューチャーキャストシステム」により、顔情報を取り込んでもらう。顔情報は瞬時にCG化され、目の前で展開される映像の中に登場人物となって現れるという仕組み。客席のあちこちから「あっ、私」「ほら、あなたよ」との声も聞こえてくる。
日立グループ館は、入場時に携帯機器向け燃料電池とHDD(ハードディスクドライブ)、ミューチップリーダを一体化した情報表示端末「ネーチャー・ビューワー」を貸し出してくれ、自分が知りたい稀少動物の情報を手に入れることができる。さらにメインショーでは、ジオラマと3DCGを融合させた映像技術「ミックスド・リアリティ」により、アドベンチャースコープを通して見た映像の中で、自分の手の上にCGの鳥がとまったり、動物に餌をあげることができる。ちょっとしたイタズラも仕組まれているが、これは会場でのお楽しみ。
このほか、JR東海の超電導リニア館では迫力とスピード感満点の超電導リニア(リニア新幹線)の3D映像、三菱未来館@earthでは地球にとっての月の重要性を美しい映像によって学ぶことができる。

■会場内には様々なロボットが
映像と並ぶ技術の目玉は、ロボット。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などが運営するロボットステーションでは、万博会場内で活躍する様々なロボットを集めて展示するほか、子供達がNECのチャイルドケアロボット「PaPeRo(パペロ)」と身近に触れ合えるスペースも用意されている。
トヨタグループ館も、ロボットや未来型ビークルで人気を集めそう。楽器演奏ロボットとDJによるラップのセッション、2足歩行型モビリティ「i-foot(アイフォト)」や未来コンセプトビークル「i-unit(アイユニット)」とダンサーによる華やかなパフォーマンスが展開される。
愛・地球博の表向きの主役は、こうした広義のIT技術によるアトラクションだが、ICチップを使った入場システムや様々な携帯端末を用いたユビキタス・サービスがしっかり支えている。地球環境に思いを馳せる一方で、実用段階から将来に至るまでのIT技術の重要性も十分に学べる万博といえそうだ。