IT投資拡大基調の落とし穴
大手ITベンダー、SIの2005年3月期決算で明暗分ける
大手ITベンダーやシステムインテグレータ(SI)などの2005年3月期決算が出揃った。緩やかなIT景気回復のなかで、クローズアップされたのがシステム開発での不採算プロジェクトの問題だ。収益を上げるために多くのプロジェクトを抱えながら、工数の拡大や納期遅れといったトラブルで、多くのSIが不採算プロジェクトに苦しむことになった。「利益重視」と各社トップは口を揃え、プロジェクト管理の強化を明らかにしているが、不採算に陥るタネが一掃されたわけではない。(川井直樹(本紙副編集長)●取材/文)
■日立の損失額約432億円、契約の不備や低い見積もり精度が要因 ハードウェア単価の大幅な下落をはじめ、メーカーやSIの利益率を押し下げる要因は多い。収益力の高いソフト・サービス事業の強化は、業績アップのためにどうしても必要になる。幸い、IT化の波は企業や政府、自治体をはじめとした公共分野にも押し寄せ、需要は堅調に推移している。緩やかな回復基調にあるIT需要だが、そこに落とし穴は潜んでいた。
不採算プロジェクトは、無理なスケジューリングや仕様書の詳細を詰めないままでの受発注などが主な原因とされる。なかには「赤字は織り込んで受注しなければならない案件もある」(大手ベンダー首脳)という場合もあるが、赤字プロジェクトの多くは「手がつけられなくなって表面化してくる」(SI首脳)のだという。プロジェクトの受注段階だけでなく、進行中にも頻繁にチェックを入れるなど徹底したプロジェクト管理を行わなければ、容易に赤字転落する危険が潜んでいるという。05年3月期でも不採算案件の影響を受けた企業は多い。
富士通のソフトウェア・サービス部門の05年3月期の連結業績は、売上高2兆704億円(前期比1.1%減)となった。売上高のうちソリューション/SIは9207億円(同5.1%減)、インフラサービスは1兆1497億円(同2.3%増)という内容。しかし、営業利益は1130億円で前期に比べ257億円減少した。
富士通の場合、「05年3月末で不採算案件の75%は完了した」(小倉正道専務)ものの、05年3月期決算では第4四半期完了分の不採算損失が40億円増加し、さらに06年3月期にもかかってくるプロジェクトの追加損失として110億円を計上した。また、05年3月期中に不採算プロジェクトの納期と品質確保のために開発リソースを配分したことで、ソリューション/SI事業全体の効率が悪化し、3月末に集中するプロジェクトの収益が予想を120億円下回ったという。
日立製作所の不採算案件の損失額は約432億円と大きい。ソフトサービス事業の売上高は前期に比べ3%伸びたものの、営業利益は同14%減の486億円にとどまった。これについて日立では、「上流のコンサルティングサービスとプロジェクトマネージャーの不足」(三好崇司・執行役専務財務部門長)を不採算化の原因に挙げる。
日立グループの日立ソフトウェアエンジニアリングは、不採算プロジェクトにより創業以来の赤字に転落。小川健夫社長は、「受注段階では一括受注案件での契約の不備や見積もり精度の低さが原因。開発段階では、想定外の作業工数の発生や品質確保のための追加作業が発生した」とその原因を語る。
同社の場合、営業損益段階でのマイナス要因としてシステム開発の価格低下が108億円であるのに対して、不採算案件の増加が147億円のマイナスインパクトとなり、結果的に営業損失が91億円と前期に比べ180億円のマイナスとなってしまった。これに対し、不採算案件がなかった日立システムアンドサービスは、「不採算案件撲滅のために見積もりを徹底し、受注段階でシステムエンジニア(SE)が入ってプロジェクト管理を徹底した」(中村博行社長)とし、同じグループ内でも明暗を分ける結果となった。
IT系ではない大手製造グループであっても、情報システム会社は苦闘している。JFEスチール系列のJFEシステムズの場合、安定しているJFEスチール向け以外の事業で不採算案件が発生。05年3月期の営業利益は7億9400万円と前期に比べ43.7%も減少してしまった。
SRAの05年3月期は、売上高343億円(前期比12.8%増)に対し、営業利益は前期比2倍の17億円と好調だった。しかし、「常時500件以上のプロジェクトが走っている」(鹿島亨社長)というなかで、05年3月期も第4四半期に2件、すでに06年3月期の第1四半期でも1件の赤字プロジェクトが見つかっている。今期にその損失額を計上するために、06年3月期の営業利益は今のところ前期並みの16億5000万円と見ている。
■プロジェクト管理の徹底や“あいまい受注”を排除 不採算案件を抱えてきたITベンダーやSIの多くがすでに対策を打ち出し、着実に収益構造の強化に取り組み始めている。
05年3月期に不採算案件が発生しなかったニイウスは、「売上総利益率5%以下の案件を排除し、利益率を改善した」(末貞郁夫社長)と売り上げより利益を重視したことが奏功した。04年3月期の赤字決算から05年3月期に黒字転換したアルゴ21は、「口頭内示や先行着手を厳禁にした。発注書を明確にし、受注基準を厳格にした」(佐藤雄二朗会長兼社長)。それだけでなく、昨年から3000万円以上、5人月以上の案件に関してはプロジェクト管理を徹底してきた。
このほか、「不採算プロジェクト防止のために開発面でPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を新設」(河合輝欣・TDCソフトウェアエンジニアリング社長)、「見積もり段階から、ソフトウェア開発全般におけるリスクマネジメントとプロジェクト管理を強化した」(冲中一郎・日本システムデベロップメント専務取締役執行役員)など、未然に不採算プロジェクトの発生を防止する策に出ている。
当面、多くのITベンダー、SIは受注基準の見直しやプロジェクト管理を徹底することで不採算案件の発生を未然に防ぐことに注力している。「売り上げより利益」。不採算プロジェクト一掃の特効薬というわけだ。
 | 情報システムへの理解不足も | | | | | プロジェクトマネジメントの徹底や受注基準の精査などで不採算プロジェクトを防ぐ──というのが一般化している。その一方で、赤字プロジェクトの発生原因が別のところにあるという指摘もある。 「発注する側の情報システムに対するノウハウ不足とSIの業務知識の不足」を指摘するのは、マーキュリー・インタラクティブ・ジャパンの小將弘・技術部ディレクター。「日本型のシステム開発は、開発しながら仕様がどんどん変化していく。発注者はシステムインテグレータのやり方に任せる。受注した側は仕様も固まらない状態で開発を |  | スタートする。これでは、上手くいくはずがない」と力説する。システムのことは業者任せで、開発中にも仕様書が変わる、アレコレと追加の仕様が出てくる。発注者と受注者という力関係から、必然的に不採算化が生じる。 発注側はIT投資を最小限で食い止めたい。受注側は情報システムの効果を発揮させ、客のビジネスに貢献しなければ次はない──。そうした関係のなかで、互いのノウハウ不足が落とし穴になるという指摘だ。こうした危険性は、情報システム構築ビジネスが続く限り、落とし穴として潜んでいる。 | | |