2005年3月末、佐賀市の新基幹システムが本稼働した。オープンシステムの採用、ソースコードを市に公開することなどを条件に提案公募が行われ、韓国のサムスンSDS(金弘基社長)が受注したことで話題になったシステムである。地方自治体におけるIT調達改革は、その進捗状況も改革の手法も自治体によってかなり異なっている。しかし、この佐賀市の事例は、全国の自治体のIT調達改革の動きにかなり大きな影響を与えるだろう。今週の前編では開発の背景や経緯を中心に、次週の後編では注目点と成功要因を中心に、プロジェクトの全容をお伝えする。(前川 徹●取材/文)
韓国サムスンSDSが受注
自治体のIT調達改革に大きな影響
■オープン系にダウンサイジング 佐賀市は基幹システムのダウンサイジングを当初から考えていたわけではない。当然かもしれないが、従来の基幹システムが稼動していた汎用機を、より能力の高い上位機種へリプレースすることが有力な案であった。
基幹システムの担当者は、「大量のデータ処理や大量印刷は汎用機でしかできないと思っていた」と語っている。しかし、市長と情報政策担当者が、韓国のソウル市江南区の電子自治体構築の視察を行ったことなどを契機に、オープン系のシステムにダウンサイジングする案が浮かび上がってきた。
佐賀市は、03年6月の補正予算で電子自治体構築のマスタープラン作成の予算を確保し、7月に提案を公募している。この結果、イーコーポレーションドットジェイピー(廉宗淳社長)がマスタープラン作成を受託し、市町村合併を実施する前に新基幹システムを構築するという計画を提案した。
佐賀市は、この計画に基づき、03年10月に新システム構築の提案書を公募した。新システム構築の主な条件は、OSはUnixで開発言語はJavaであること、ソースコードは市に公開すること、05年3月までに完成させることであった。
10月27日の期限までに提案書を出した企業は5社。うち1社はソフトウェア開発というよりハードウェア中心の提案となっていたため、実質的には4社の提案が検討対象となった。しかし、OSはUnix、開発言語はJava、ソースコードは市に公開するという条件を満たしている提案は1つしかなかった。それがサムスンSDSだったのである。
■開発は予定通り進まなかった サムスンSDSとの契約が締結されたのは、03年12月である。契約金額は約8億7000万円。対象業務が、印鑑登録、住民基本台帳管理、土地課税や住民税などの税事務、高齢者福祉などの福祉業務、国民健康保険、米の生産調整などの農政業務、給与業務など多岐に渡っていることを考えると、この金額はかなり安い。
サムスンSDSは、まず適当な業務を選んで「プロトタイプ」を開発し、次に一度すべてのシステムを開発し(ビルド1)、市職員のチェックを経て、再度すべてのシステムを開発(修正・機能強化)する(ビルド2)という計画を立てた。つまり、要求定義→設計→開発→テストという工程を2度繰り返すというスパイラル型の開発手法である。また、要求定義、設計とテストは日本で行うが、プログラムの開発は韓国で行うという計画だ。
最初は計画は順調に進んでいるように見えた。03年12月から翌年の3月にかけて業務ヒアリングを行い、4月にはプロトタイプとして印鑑登録業務システムを開発した。そして、7月末までに対象業務すべてのシステム化が一通り終わるはずだった。

しかし、佐賀市が8月上旬に市の職員25人を韓国に派遣し、システムの完成度をチェックしたところ、ビルド1は完成していないことが判明した。一部の業務システムでは、画面はできていても中身ができていなかった。また完成していてもその完成度が低いものもあった。主な要因は、日本語の仕様書をコンピュータで韓国語に翻訳してプログラム開発に利用していたために、要求仕様が曖昧になってしまったことにある。コミュニケーションの問題が開発スケジュールの遅延を招いたのである。また、日本と韓国の地方自治体業務の違いも影響した。韓国の地方自治の仕組みは日本によく似ていると言われているが、韓国では転居した場合、転入処理はあっても転出処理はないなど細かな点ではかなり異なっている。
このままでは予定通り進まないと判断した佐賀市は、サムスンSDSに対して、システム開発拠点を佐賀市に移すように要請した。
■5年間で3億円のコスト削減 サムスンSDSは、8月に佐賀市の要請に応じて開発拠点を佐賀駅近くのビルに移し、佐賀市職員と密接なコミュニケーションを持ちながらビルド2の開発を行った。韓国からやってきたソフトウェア技術者は、最も多い時で約120人。市職員とのコミュニケーションのために数人の通訳も雇われたという。
05年1月、旧システムと並行稼動させながら不具合を修正するという作業に入った。しかし、かなり多くの不具合がみつかり、本稼働の予定日は、当初の1月上旬から2月上旬、3月上旬と延期され、最終的には3月22日に窓口オンラインの切り替えに成功した。サムスンSDSとの契約は3月末までであったので、無事に契約期間内に完成したことになる。
新基幹システムのハードウェアは、サン・マイクロシステムズのサーバー17台で構成され、OSはSolaris、DBMSはオラクル9iを使用している。ハードウェアは、ソフトウェアの開発とは別に入札が行われ、2億9500万円で落札されている。佐賀市は、汎用機をレベルアップした場合に比べて5年間で3億円のコスト削減が可能になったと試算している。
前川 徹
1978年に通産省入省。機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO New York センター産業用電子機器部長、情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長(兼、技術センター所長)、早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員教授などを経て2003年9月から富士通総研経済研究所主任研究員。著書として『ソフトウェア最前線』などがある。
・(後編)に続く