中国におけるコンテンツビジネスの成長が期待されている。経済発展にともない市場購買力の拡大が急速に進んでおり、ソフトウェアやアニメーションなどのコンテンツビジネスにも大きな注目が集まっている。こうしたなか、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は、上海事務所の開設を記念したシンポジウム「日中著作権ビジネス成功のカギ」(後援・BCN、ビジネスモデル学会日中テクノビジネスフォーラム、アジアフォーラム・ジャパン)をこのほど東京都内で開催した。講演内容をもとに、中国コンテンツビジネスの現状と今後をレポートする。(安藤章司●取材/文)
法的環境は大幅に改善
コンテンツビジネスに好機
■急ピッチで進む法整備
中国でコンテンツビジネスを展開するうえで、これまでネックになってきたのが違法コピーや海賊版など知的財産権の侵害だった。今年4月に上海事務所を開設し、本格的な活動を始めたACCSでは、「違法コピーなどの実態は残っているものの、中国での法整備は急ピッチで進んでおり、すでに国際水準に達している」(久保田裕専務理事)と、著作権関連の法的環境は大幅に改善したと分析する。
現在は、著作権関連法が適用され、コンテンツビジネスの基盤が整いつつある段階にあり、ビジネスチャンスも増えている。世界65余りの国・地域で著作権保護支援などの活動を行っているBSA(ビジネスソフトウェアアライアンス、本部・米ワシントンDC)の石澤一良・BSAメンバー企業日本代表(マイクロソフトゼネラルビジネス本部IT推進統括部統括部長)は、「昨年、中国では著作権侵害の摘発件数が前年比5割増に達するなど、法律に基づく取り締まりが強化されている」と、法律と現実のギャップが縮まりつつあると話す。
著作権保護の機運が高まるなか、中国へ進出している日本企業が率先してコンピュータソフトウェアなどの著作権保護に努める必要性を指摘する声も挙がっている。「中国でコンテンツビジネスを展開するには、まず自国の企業が範を示すべき」(石澤代表)と、もし日本企業が違法コピーなどで摘発される事態が起これば、著作権保護を訴える日本の立場そのものが弱体化する恐れがあると考えられる。ACCSの上海事務所でも日系企業などを対象に、著作権保護の啓蒙活動に積極的に取り組んでいる。
中国でシステムインテグレーション(SI)事業を展開している大塚商会では、「社内のソフトウェアライセンスなどの資産管理の強化」(松田浩行・テクニカルプロモーション部中国プロジェクト課長代理)の必要性を訴える。大塚商会では著作権保護を目的としたIT資産管理に関するソリューションの提供に力を入れている。
■政治への配慮も必要
経済成長に伴い海外コンテンツの購買力拡大が期待されているものの、中国ならでは問題点も残っている。中国コンテンツのビジネスに詳しい技術経営創研の張輝社長は、「コンテンツビジネスは文化産業なのか、政治の領域なのかという議論が頻繁に行われている」と、場合によっては政治への配慮が求められることもあるという。
このため、中国でコンテンツビジネスを展開するには、著作権保護などのビジネス基盤に気を配ると同時に、政治や行政機関の政策を十分に理解することが重要なポイントになる。ACCSの上海事務所では、中国政府や行政機関とも密接に連携をとり、最新の政策情報を日本企業に伝える役割も担っている。著作権保護や中国政府の政策など、中国でコンテンツビジネスを行う上で「欠かせない情報」(久保田専務理事)を収集する機関として今後重要な役割を果たしていく方針を示す。
JETRO講演
根強い人気の日本アニメ
正規の販売ルート構築が急務
■影響力が大きいテレビ
ACCS上海事務所開設記念シンポジウムでは、日本貿易振興機構(JETRO)上海代表処の中澤義晴・コンテンツ流通促進センター長が、「中国におけるエンターテイメントコンテンツ市場の今」と題した講演を行い、アニメーションを中心とした中国コンテンツビジネスの一端を紹介した。
中国で最も影響力の大きいメディアはテレビであり、テレビで放送されるコンテンツが、ファッションや音楽などの関連ビジネスに強い影響を与える。中国のテレビ放送は、日本の地上波放送よりもチャンネル数が多く、上海の一般家庭で視聴可能なチャンネルはおよそ66チャンネルもあるという(ケーブルテレビなどを含む)。
上海で視聴されている番組をジャンル別に見てみると、ドラマが36.7%、ニュース・時事が8.8%、ドキュメンタリーが8.1%、映画が6.9%と、ドラマの視聴割合が高いのが特徴だ。上海市民のドラマ好きがよく表れている。
しかし、ドラマの視聴割合が高いのに比べて、日本が得意とするアニメーションの視聴割合は、上海で3.0%しかない。中国でアニメーションは「子供番組」とされ、子供向けのアニメーションが番組の中心を占めていることなどが、視聴割合の低い背景にあるという。
■アニメ育成に注力する中国 中国政府は、中国国内におけるアニメーション産業の育成に力を入れており、主要都市のチャンネルにアニメーション専門のチャンネルを新設するよう働きかけている。上海では、すでにアニメーション専門チャンネルが開設された。ただし、中国国内のアニメーション産業保護の観点から、海外のアニメーションが放送される比率はそれほど多くないという。
一方、テレビでの視聴割合が低いにもかかわらず、日本のアニメーションは上海で根強い人気を誇っている。支持層の中心は20-30代の若い世代で、テレビ放送では規制などにより見る機会が少ないため、インターネットのファイル交換や海賊版のビデオ、DVDなどのメディアを通じて日本のアニメーションを入手することもあるという。
上海では、生活水準の向上に伴い、アニメーションなどエンタテインメントに対する需要が高まっており、日本のアニメーションに対するニーズも大きい。JETRO上海代表処では、中国の政府機関や上海のアニメーション制作会社や教育機関、コンテンツショップなどとのパイプをさらに強化し、著作権が守られた正規の販売ルートの構築に取り組んでいく方針だ。
ACCS上海 ACCSでは、日本のコンテンツ関連企業の中国ビジネスを支援するため今年4月、上海事務所「電子計算機軟件著作権協会上海事務所(ACCS上海)」を開設した。中国での情報収集や関係機関などとのパイプづくり、広報・啓発活動などを行っている。住所は、中国上海市楊浦区楊樹浦路2310号白麗大厦805室(電話+86-21-6121-1136、FAX+86-21-6121-1137、電子メールshanghai@accsjp.or.jp)。