「u-KOREAビジョン」策定にも着手
スピードアップする情報化戦略
韓国政府がIT化をさらに加速している。2004年度からスタートした「IT839戦略」を進めるのと並行して、情報通信部は07年度からスタートする「u-KOREAビジョン」の取りまとめ作業も開始した。90年代から本格化した韓国政府の情報化戦略は、ここにきてさらにスピードアップ。世界最先端のIT国家として追いかける日本などを完全にリードしている。(川井直樹(本紙副編集長)●取材/文)
■経済破綻とIMF管理がきっかけ「情報化」を国策に据える 韓国は、なぜ急速なIT化を進めることができたのか──。その問いに対して、韓国では誰に聞いても同じような答えが返ってくる。つまり、「韓国は経済破綻により、97年からIMF(国際通貨基金)の管理下に置かれることになった」で始まるストーリーである。このIMF管理体制下では、経済の再生のために多くの投資が削減され、国力の停滞を招いた。成長のために、そのなかでも最も投資を必要としないと思われた「情報化」を国策に据え、公共分野や市民生活でのパソコン、インターネットの普及やブロードバンド化を進めてきた、というわけである。
日本で言えば省庁の局長クラスである情報通信部のリー・ソンオク情報化企画室長も、韓国でのインターネット利用が進んだ原因の1つとして、「この時期に日本やドイツではISDN(総合デジタル通信網)の普及に投資を行っていた。韓国はその投資ができなかったので、ADSL化を指向した」と語り、結果的にブロードバンド化で先鞭をつけることができたとしている。
この間、94年には逓信省が情報通信部に改組され、知識基盤社会の到来を予見して、00年度を目指した「情報化推進基本計画(サイバーKOREA21)」をスタートするなど、着々と情報化を進めてきた。
そしてこれらを引き継ぎ、04年度から始まったのが「IT839戦略」だ。
「IT839」とは、8つの新規情報サービス、3つのインフラ、9つの成長動力を示す数字。キム・デジュン政権でスタートした情報化で、目指したゴールが「e-KOREA」だったのに対して、ノ・ムヒョン政権が進める「IT839戦略」の目指すものは「u-KOREA」への基盤作りということになる。
■7月には「協議会」開催、民間のプロジェクト管理を導入 04年度にスタートした「IT839戦略」だが、05年度上期までの成果の確認と、これからの計画実行を検討するため7月1日に、情報通信部の関係者や市民代表、企業の代表を集めた「IT839戦略協議会」が開かれた。「IT839戦略」に関わるのは、情報化企画室と情報通信振興局、情報通信政策局の3つの局のほか、情報通信部傘下の韓国ソフトウェア振興院(KIPA)や政策研究院など。このプロジェクト推進のとりまとめを行う組織として、情報通信部の関係各局や各院、民間企業代表、市民代表などで構成する「IT839戦略協議会」が設けられている。
この戦略協議会は、「定期的な会合を一切行わない。問題が発生したり、新たな課題が出た時に開かれることになっている」(リー・ソンオク情報化企画室長)のだという。そして各プロジェクトは、それぞれにプロジェクトマネージャーを置いて進捗状況を管理している。システムインテグレーション(SI)の進捗が管理できないために、赤字プロジェクトになるケースが増えたことは、日本でも韓国でも同様に大きな問題となり、プロジェクトマネージャーを置くことが必須となっている。大規模な国家プロジェクトを期間内に、決められた予算で遂行するためにもプロジェクトマネージャーが必要である、という考えだ。そして「IT839戦略」では10人のプロジェクトマネージャーが配置されている。
実はこのアイデア、ノ・ムヒョン政権で情報通信部長官となったチン・デジェ氏が持ち込んだ手法。サムスン電子のトップから大臣ポストに移ったチン・デジェ長官が、民間企業でのプロジェクト管理の手法を国家プロジェクトにも持ち込んだというわけだ。
「IT839戦略」と一部並行する形となるが、情報通信部では07年度スタートで、2010年度を目指した「u-KOREAビジョン」の策定にも着手したとリー・ソンオク情報化企画室長は語る。そのプロジェクトの調査費用として、05年度にはすでに20億ウォン(約2億円)の予算を計上している。
情報通信部の入るビルの1階には、「ユビキタスドリーム館」と呼ぶショールームがある。昨年7月に訪れ、今年もまた見学したが、その展示内容が大きく変化していた。たまたま夏休み目前の高校生が教師に引率されて見学に訪れていた。彼らが社会に出る時には、確実に韓国のユビキタス化は進められている。すでに多くの市民が、ユビキタスドリーム館などで“体験”できるところまで来ている。
 | IT839戦略 | | | | | 「IT839戦略」で示される8つの新規情報サービスは、(1)高速ワイヤレス・ブロードバンドインターネット接続のWiBro、(2)デジタルマルチメディア放送のDMB、(3)ホームネットワーク、(4)テレマティックス、(5)RFID(無線タグ)、(6)W-CDMA、(7)地上デジタルテレビ、(8)インターネット電話・VoIP──の8つ。 3つのインフラとは、広帯域統合ネットワークのBcN(ブロードバンドコンバージェンスネットワーク)、ユビキタスセンサーネットワーク、 |  | IPv6ネットワーク──の3つ。 9つの成長動力には、(1)次世代移動通信、(2)デジタルテレビ、(3)ホームネットワーク、(4)SoC(システムオンチップ)、(5)次世代パソコン、(6)エンベッデッドソフト、(7)デジタルコンテンツ、(8)テレマティックス、(9)知能型ロボット──が挙げられている。 これらの基盤整備や技術開発、需要開拓などでさらにITを利用した生活や経済活動を強化しようというのが韓国政府の狙いだ。 | | |