愉快犯から金銭目的の組織犯へ

　情報セキュリティ大手2社の調査レポートによると、「クラッカー（コンピュータ技術を不正利用するIT技術者）の種類が、愉快犯から金銭目当ての組織犯に変化している」という分析結果が出ている。

　従来のクラッカーは、コンピュータウイルスなどの不正プログラムを世界中のコンピュータにばらまき、混乱を引き起こすことが目的で、言わば愉快犯が大半だったという。しかし、この1─2年でその傾向は変わったというのだ。

　不正プログラムを埋め込むことで、インターネットユーザーの個人情報を盗み取り、その情報で金銭を得る目的の攻撃が急増しているという。

　シマンテックの野々下幸治・エグゼクティブシステムエンジニアは、「金銭目的の攻撃者は確実に増えている」と断言する。その裏づけとして、シマンテックが発表した2005年1─6月のワールドワイドにおけるインターネット利用の脅威レポートでは、悪意のあるコード（不正プログラム）の報告件数上位50件のうち、74％が個人情報などの機密情報が盗まれる可能性のあるコードであることが分かった。この数字は、04年7─12月の半年間に比べ37％増加していることになる。

　セキュリティサービス大手、ラックの西本逸郎・取締役執行役員SNS事業本部長も、「クレジット番号などの個人情報を知らぬ間に取る不正プログラムが増えている。今のクラッカーの目的は金」と、シマンテックの野々下エグゼクティブシステムエンジニアと同意見だ。

　また、総務省が発行する「情報通信白書（04年度版）」のなかでは、インターネット利用による架空料金請求トラブルに関する相談件数は、04年度（04年4月─05年3月）は前年度に比べ1467件増え、5586件にのぼったという。

　確かに各調査レポートをみれば、金銭を得るために、個人情報などの機密情報を取得するプログラムが急増していることが分かる。それでは、金銭目的の不正プログラムとは何を指すのだろうか。シマンテックとラックの見解は共通している。それは、フィッシング（インターネット上の詐欺）サイトと、知らぬ間に個人情報を盗むソフトのスパイウェアの2つだ。

　フィッシングサイトに関して、シマンテックの調査レポートによると、フィッシングサイトへのアクセスを誘導するメールの受信件数は、1日に最大1300万件にのぼり、1日あたりの平均受信数は570万件。この数値は、125通のうち1通はフィッシングメールという「驚異的な数字」（野々下エグゼクティブシステムエンジニア）になった。

　一方、全世界に蔓延する不正なスパイウェアの数は把握できないとしているが、ユーザーが知らぬ間に情報を盗み、「盗まれたことも分からない」（西本ラック取締役）ため、クラッカーにとっては個人情報を盗み取るための最適なツールになっているという。

　フィッシング対策は、各ユーザーのセキュリティへの意識に依存する部分が多い。そして、スパイウェアは「ワクチンソフトをかいくぐって侵入する場合もある」（同）としており、スパイウェア対策専門ソフトも必要になるケースがある。

　被害を受けた場合の損失がコンピュータの不具合や故障から金銭に変化してきたことで、情報セキュリティに対して、より一層の注意をユーザーは払わなければならない時代に入ってきたようだ。 木村剛士●取材／文