BCN(社長・奥田喜久男)は10月14日、宮城県仙台市青葉区の仙台市戦災復興記念館で第6回「BCNフォーラム」を開催した。今回は、NTTソフトウェアの駒谷昇一・エンタープライズ・ソリューション事業グループ営業SE部門ソフトウェアプロセスコンサルティングセンター・チーフエキスパート(ITSSユーザー協会・運営委員兼導入コンサルタント認定委員会委員長)に登場を願い、「ITスキル標準(ITSS)について─ITSSをどう活用したらよいか」をテーマに講演頂いた。講演に先立って挨拶した髙山由・BCN最高顧問(元NEC専務)は、「IT産業が成熟期にあるなか、事業発展のためにはITエンジニアの育成および活用が要になる」と、人材育成の重要性を強調。その後、駒谷氏からITSS導入のメリットや具体的な活用方法などについて説明頂いた。会場には、宮城県内の地元ITベンダー経営者など約70人が詰めかけた。講演要旨をまとめた。(木村剛士●取材/文)

「人材育成・マネジメントがさらに重要に」
■「ITSS」は“メートル原器” 優秀なITエンジニアを多く確保しているだけでは、強いITベンダーとは呼べませんし、生き残っていけないでしょう。エンジニアのITスキルに加え、個人の力を有効活用できる人材管理能力をマネジメント陣が持つ企業が、強いITベンダーです。優秀な人材を育成・確保するだけでなく、エンジニアの能力を見極め適材適所に配置できる人材マネジメント能力もITベンダーには必要です。優秀な人材と人材マネジメント力を持つ企業が強いITベンダーと呼べるのです。
情報システム開発の短納期化が進み、3-6か月で開発するのが当たり前の時代となりました。ITベンダーにとっては、迅速に優秀な人材の確保と各エンジニアの力を見定めてアサインする能力は今まで以上に必要です。
そんななかで、「ITスキル標準(ITSS)」は、エンジニアの育成プランの作成と、企業が自分の会社にはどのような人材・スキルが足らないかを定量的に知ることができる尺度、言わば“メートル原器”なのです。有効活用しない手はありません。
経営者にとっては、ITSSを使い人材マネジメントシステムを構築することで生産性は向上し、赤字プロジェクトも減り、儲かる企業体質を作ることにつながります。エンジニアにとっては、目の前の仕事にかかりっきりで、自分のキャリアデザインを描けていないなか、ステップアップするためにはどうすれば良いかが分かり、仕事に対するモチベーションが上がるでしょう。また、ユーザーは、ITベンダーがITSSに基づいたスキル診断を行っていれば、発注する際の判断材料になります。
■スキル診断ツールの活用を では、実際にどのようにITSSを活用すれば良いのか。何百ページにもなるITSSを見て、独自に人材育成戦略を立てるのは相当のスキルが必要になります。ITSS普及団体であるITSSユーザー協会では、具体的な活用方法や導入事例など、有効活用するためのさまざまな情報を提供しており、そのような情報を参考にするのも良いでしょう。
また、ITSS導入支援コンサルタントを活用するのも1つの手です。ITSSユーザー協会では今、私が中心になってこの導入支援コンサルタントの認定制度を作っている最中です。この制度が生まれることで、優秀なコンサルタントは今後は増えていきます。さらに、エンジニアのITスキルを診断できるツールも登場しており、スキル診断ツールガイドラインへの準拠も行われ、かなり信頼性の高いものとなっています。スキル診断ツールを利用するのも良いでしょう。
ITSS導入・活用コンサルタントやスキル診断ツールを活用することで、当然コストはかかります。ですが、中長期的にみれば、この費用は必ずメリットを生み出すものです。人材育成やマネジメントができなくて、不採算案件を出したり、ビジネスチャンスを逸した経験を考えれば、微々たる投資です。これまで人材育成に悩んでいた時間も解消できるわけです。
■「人材は最大の財産」中小ITベンダーの経営者からは、「ITSSは国が発表した大企業向けの指標なのでは」とよく言われますが、それは大きな間違いです。企業規模に関係なく、どのITベンダーにも活用するメリットがあるのがITSSです。すべてのITベンダーの経営者、エンジニア、そしてユーザーに大きなメリットをもたらします。重要なのはITSSに対して被害者意識で考えないことです。
ただ、ITSSを導入するためには注意も必要です。ITSSを導入すれば必ず成功するわけではありません。ITSSはあくまで指標であり、各企業が人材育成・マネジメント戦略を練っている状態であるからこそ、有効活用できるツールです。何も考えずに、ただITSSを人事評価制度などに反映させて失敗したケースはいくつもあります。導入を検討しているITベンダーは、導入前に経営戦略のなかで、自分の会社が成長していくためには、どのような人材が必要なのかを考え、現在確保しているエンジニアのスキルを分析したうえで、導入することをお薦めします。
ITSSは、来年3月に「ver.2」が発表されます。10月上旬には、「ver.2」の設計方針が政府から公表され、パブリックコメントが求められています。
スキルの区分方法など現状のバージョンでは、いくつか問題点があると私は認識しています。ITベンダーの経営者や人材育成担当者も、再度ITSSの内容を確認し、どのように改善して欲しいかを是非発言して欲しいです。
今後、IT産業において人材は最大の財産であり、ITベンダーにとっては人材育成戦略はさらに重要になります。人材マネジメントの重要性はさらに高まり、ITSSがそのベースになることは間違いありませんから。