公開から約8年が経った「ITスキル標準(ITSS)」。情報処理推進機構(IPA、西垣浩司理事長)が中心になって普及促進活動を進めているが、未だ越えられない壁がある。それが、中小企業への浸透だ。大企業の浸透率は9割と成果を上げているものの、中小企業は依然利用率が低い。この状況を打開しようと、今回、IPAはある取り組みを行った。特定地域のベンダーに絞って、地元団体と協力してIT人材育成プランの立案をサポートするというものだ。非効率とも思える策だが、支援を受けたITベンダーの満足度は高い。
IPAがまとめた「IT人材白書2009」によれば、「ITSS」を利用中または利用を検討している企業は、従業員1000人超の大企業では89.8%に達するのに対し、30人超100人以下では34.0%。30人以下では12.0%まで低下する。規模が小さくなればなるほど、その利用率は低下する(図参照)。
国が初めてつくったIT技術者の能力の客観的指標「ITSS」は、2002年12月に公開されて以来、内容や普及速度について賛否両論はあったが、大企業には定着したといっていいだろう。目下の課題は、中小企業への浸透にある。
この状況を打開しようと、IPAは今回、新潟県内4社のITベンダーに焦点を絞り、人材育成プランの立案を地元団体とともにサポートした。
内容は、(1)要求分析(2)活動領域分析(3)機能分析(4)スキルセット構築(5)人材モデル策定(6)現状把握の6ステップ。合計6回の講義・演習で身につけさせるプログラムだ。極めてシンプルで、難しい内容ではない。支援を受けたフジミック新潟の宮澤徹・東京支社長は、「体系立てた人材育成計画を立案・推進しなければと思いつつも、その具体策がなかった。『ITSS』も知ってはいたが、どう生かせばいいかが分からなかった。今回のプロジェクトで、その糸口は明確になった」と説明。成果を実感している。IPAの島田高司・ITスキル標準センター事業グループグループリーダーも、「リテラシーの高い企業が集まったという部分もあるが、地方の中小ITベンダーの『ITSS』適用事例として公開できる内容になった」と話している。
IPAでは今回の内容を「IT人材育成強化ワークショップ実施報告書」として公開。中小ITベンダー「ITSS」のIT導入促進を図るほか、今後も地域を限定して成功事例を増加させる計画だ。「ITSS」はこの8年の間に批評を受け、かなり使いやすく広範な指標になった。中小規模のIT企業に利用を促すために必要なのは、意識改革だろう。IPAのこうした取り組みは、一見地味で非効率な活動のように思えるが、その意義は大きい。事業仕分けの影響で、「来年度以降の活動計画はまだ何ともいえない」(IPA職員)というが、この活動が停止すれば、普及速度はますます低下することになる。(木村剛士)