トレーニングや営業支援不足が露呈

　「個人情報保護法」の完全施行などで情報セキュリティ対策市場は相変わらず活況だ。これまで大企業が中心だった情報セキュリティ対策が、「中堅・中小企業（SMB）にも広がってきた」（大塚裕司・大塚商会社長）ことがその要因の1つにある。

　しかし、パートナー経由の間接販売を手がけるセキュリティソフトメーカーに話を聞くと、顧客層がSMBに広がることを、手放しに喜ぶわけにはいかないという。顧客層が広がったことで生まれた新たな問題があるというのだ。

　ある情報漏えい対策ソフトメーカーのトップは、「顧客がSMBにも広がっているなか、『売りたい』という2次、3次代理店も増え、販売パートナーも広がっている。しかし、これまでセキュリティ製品を扱ったことがなく、導入に対する知識やスキルが不十分なままで販売するため、後々になってトラブルが発生するケースが出てきた」と、表情を曇らせる。その結果、「製品とメーカーに対する信頼が落ち、トラブル解決に自社の技術者を派遣しなければならず、技術者の負担も大きくなる」という泥沼にはまり込む。

　間接販売の場合、メーカーは一般的に1次代理店には厳密な認定資格制度を設け、資格取得企業には営業支援やトレーニングなどのサポートを提供する。だが、1次代理店傘下の2次、3次代理店へのサポートは1次代理店任せで、直接サポートしないケースも少なくない。「2次代理店がどんな顧客に販売しているか把握できない」（セキュリティアプライアンスメーカートップ）ケースもあるほどだ。

　エンドユーザーに直接販売するのは2次、3次代理店である場合が多いにも関わらず、メーカーにとって1次代理店以外のパートナーの存在は遠く、しっかりとした教育やサポートを提供しないままでパートナーが販売してしまうことがトラブルの原因となっている。

　特に、市場が急拡大している情報漏えい対策ソフトは、セキュリティやネットワークの知識だけでなく、顧客の情報管理体制やセキュリティポリシーを把握したうえでの販売・導入が必須なだけに、広範囲で高いスキルが求められる。問題が発生しやすい分野なのだ。

　直接販売に加え間接販売を手がける、あるセキュリティメーカーのトップも、この問題に悩んでいる。「売り上げとしてはパートナー経由の販売比率の方が高い。だが、提案・販売・導入までパートナーがすべてできるケースはまれ。結果的に、自社の営業やシステムエンジニア（SE）が出向かなければならず、これが利益率を下げている。何のためにパートナービジネスを手がけているのか分からない」と憤りを隠さない。

　そこで、トラブル防止のために、2次、3次代理店への直接サポートを始める企業や、パートナーの数を絞り込む企業も出てきた。パートナーの負担を軽くするため、導入が容易なアプライアンスを開発するベンダーもあり、対策は焦眉の急だ。

　市場に幅広くアプローチするためには、パートナーの力が不可欠なのは確かだ。しかし、売りたいという要望から、トレーニングや営業支援もせずに単純に販売を任せていては、逆にユーザーからの信頼を失いかねない。高まる需要のなかで、目先の利益を求めて一気に販売パートナーを増やすのではなく、しっかりとした販売体制を構築したうえで市場開拓を図る方が、中長期的にみればビジネスメリットは大きいはずだ。 木村剛士●取材／文