大手メーカーの販売パートナーなど販売系システムインテグレータ(SIer)業界の天気は「薄日が射す」が、まだ頭上の「薄雲」は消えたわけではない。
IT投資拡大でシステム販売好調
ソリューション事業への脱皮に課題
景気好転で確かにこれまで抑制気味だった設備投資は活発化している。「顧客企業も、景気好転に押される形で設備投資を抑えきれなくなっている」(都築電気・都築東吾社長)。主力のシステム構築案件も「拡大傾向にある」(NECネクサソリューションズ・松本秀雄社長)と顧客からの引き合いは増加している。
PCサーバーの販売台数も「順調に伸びている」(日本ビジネスコンピューター・石黒和義社長)といい、今年から来年にかけてシステムの買い換え、買い増しが拡大しそうだ。
しかし、急速な需要拡大に販売体制が追いつかず、顧客の経営問題を解決するソリューションの整備や人材育成が間に合わないという側面もあり、手放しでは喜べない。
とくに顧客がITベンダーに求めるソリューションのレベルは、00年のITバブル期に比べて明らかに高まっている。ITはすでに経営のインフラとして定着した。セキュリティや個人情報保護、内部統制の強化など経営の根幹に関わる部分を広範囲にカバーする総合的な提案力・システム設計の力量が問われていると言えよう。
こうしたコンサル型の営業展開が販売系SIerにとって理想的な差別化要素だが、顧客の要望を満たせる人材は社内でもごくひと握りにすぎない。
激化する競争のなかで、システム開発の生産性を高めずして受注に走れば、巨額な赤字プロジェクト発生の陥穽にはまり込む。赤字プロジェクトは大手販売系SIerにおいても深刻化しており、システム構築案件が急増する拡大基調の過程で不採算案件を抱えれば、「経営そのものが揺るぎかねない」(大手SIer幹部)と危機感を高めている。
需要拡大は地方経済にも及ぶ見通しだ。ITバブル以降、需要は首都圏への一極集中が進んできたものの、ここにきて大阪や名古屋など地方都市でのIT需要の回復が「より確実になってきた」(大阪に拠点を置くSIer幹部)と手応えを感じる。そうした意味では、薄曇りから晴れ間は着実に見え始めている。
ただし3大都市以外は依然として厳しい状態で、大都市部と地方都市との格差が広がる恐れも指摘されている。
販売系SIerはメーカーや地場系SIerなどと協力し、需要動向に対応した地方拠点の再編を迫られる可能性がある。
ソフト開発の生産性の向上、プロジェクト管理能力など、いずれも高度なスキルを備えた人材育成が必要だが、景気好転でIT業界の人材確保は厳しい。
就職戦線では他の業界へと流れる動きが表面化し、有名大学でもIT系学部は定員割れの状態。バブル期の負の資産からの脱却は進んだが、労働集約型の開発環境からの構造転換が求められる時期にきている。
●日本ビジネスコンピューター(JBCC)がディストリビューション新会社「イグアス」の設立を決定。設立時期は2006年4月。
●NECネクサソリューションズがパッケージをベースとしたシステム構築を拡充。主要都市圏への営業力を強化し、地方はNEC本体との連携を進める。
●富士通ビジネスシステム(FJB)は成長市場・成長分野を中心に自社ソリューションの充実を図るとともに首都圏への営業力強化を進める。地方は社員1人あたりの生産性を高める。
●都築電気がウェブを使った新しい販売形態「ヒューチャーコンテンツソリューション(FCS)」を立ち上げ、プル型の営業を強化。
●アイティフォーが海外でも0円で内線通話ができる無線IP電話「MoIPサービス」を本格化。IP電話ビジネスの拡大狙う。
産業全体で見れば、明らかに“晴れ”の年。景気好転の中で業績を伸ばさなければ、伸ばすチャンスはない。攻めの年と位置づけて積極的な営業展開を推進していく。
景気回復で、基本的にSIerの仕事はたくさんある年になるだろう。仕事を獲る気になれば、獲れる状況にあると思う。ただし、各社とも生産性を高めており、競争そのものは激しくなっている。上流工程の業務コンサルティングや見積もりの仕方を誤るとすぐに赤字プロジェクトに転落するので注意が必要。
IT業界に限ってみれば、やっと2000年のITバブル期の水準に戻ってきた程度。特定の業種、企業が経済を牽引している印象を受ける。IT業界が本当に優良業種になれるかどうかは、これからが勝負。失敗すれば不良業種への転落もあり得る。