日本IBM(大歳卓麻社長)は、これまで大量の同社ソフトウェアを販売した実績のあるビジネスパートナー(BP)だけに適用していた報奨制度を見直し、案件を独自に発掘・成約したSIerやISVなどにも販売報奨金として仕入額の5─20%をキャッシュバックする新制度を4月1日から開始する。
既存ミドルウェアに加え、買収で得た業務アプリケーションを今後日本市場に拡販するチャネル体制を築くため、新規パートナーの拡大が必要と判断。販売報奨金を得られるBPの条件を大幅に緩和した。特に従業員1000人以下のSMB(中堅中小企業)の顧客を発掘・成約したベンダーには「プレミアム報奨」を与え、金額を上乗せする。同社は新制度の実施で、今年度(2007年12月期)のBP経由のソフト売上高が前年度比20%以上伸びると期待している。
新制度は、昨年3月に米本社が発表した報奨制度「ソフトウェア・バリュー・インセンティブ(SVI)」で、すでに欧米や豪州、韓国で実施されている。報奨制度は「案件発掘報奨金」と「販売(案件成約)報奨金」に区分。前者は、同社が認知していない独自顧客を最も早く発掘したベンダーに対し、仕入額の5%をキャッシュバックする。加えて、発掘からソリューションを提案して成約に成功したベンダーには、さらに5%を上乗せし計10%を支出する。後者のうち、日本IBMが最初に案件を発掘、特定のBPに支援を要請して成約に至った場合も、5%をキャッシュバックする。
新制度はさらに、SMB案件の獲得に対するインセンティブを設けた。案件発掘と案件成約の受注先がSMBであった場合は、上記にプラス各5%を支出する。新規SMBを発掘・成約して受注したBPは、最大20%を手にすることができる。販売報奨金は、案件を発掘してIBMのウェブサイト「SVI案件登録システム」に最も早く登録したベンダーに優先的に支出する。
SVIの参加資格は、世界で展開する「IBM PartnerWorld(IPW)」のメンバーであることが条件。現在国内には約6000社が登録している。IBMが指定するソフト認定資格者を3人以上登録しているベンダーだ。ただし、有資格者を自社に揃えるには、人材育成に必要な養成資金が伴うため、「新制度の初段階では、無料でSVIを体験して良さを味わってもらう」(伊藤昇・ソフトウェアパートナー事業部長)と、9月までの期間中は、試用期間として有資格者を揃えるという条件をなくし、広範にSVI参加者を募る。
同社は「相互のコアとなる強みを生かし、連携し合えるさまざまなBPを呼び込む」(伊藤事業部長)と、販売系SIerや開発系SIer、ISVを問わず幅広くSVI参加者を増やす。特に、「これまで当社の懸案事項であったSMB市場に強みをもち、なかでも独立系ローカルキングや大手メーカー系ベンダーと協業を促進したい」(同)と、地域の有力SIerの獲得を目指すほか、「当社のミドルウェアを組み込んだ自社ソフトで、新規顧客を獲得しているベンダーがかなりいる」(古長由里子・ISV&デベロッパー事業推進部長)と、有力ISVにインセンティブを付加する施策でもあると強調している。
IBMミドルウェアは、ウェブアプリケーションサーバー「WebSphere」や運用管理ソフト「Tivoli」、企業ポータル(EIP)「Lotus/Notes」、データベース「DB2」などが、国内市場で高いシェアを獲得している。ただ、安定的にトップを堅持するミドルウェアはないことから、ITが成熟途上のSMB市場を開拓して、軌道に乗せる。また、05年3月に買収した旧アセンシャル・ソフトのデータ統合ソフトやBI(ビジネス・インテリジェンス)を本格的に販売する前に、販売チャネルの足場固めを図る狙いもある。
これまで、同社の販売報奨制度は複雑で登録条件が厳しく、参加を希望するベンダーにとって敷居が高かった。SVIを開始することで、こうした評判を払拭して、幅広いチャネルを獲得しようとしている。SVIの開始により、今年度はBP経由のソフト売上高を前年度比20%プラスし、このうちSMB向けを同1.5倍に増やす計画だ。
