パソコンOS市場に食い込めるか

　パソコン向けLinuxの開発・販売に力を注ぐターボリナックス。同社が新たに開発・発売したLinuxOS搭載の“手のひらパソコン”と呼ぶ「wizpy（ウイズピー）」が順調な滑り出しをみせている。3月に店頭販売を開始したが、その前の予約販売は同社の予測よりも大幅に時期前倒しで完売。今月から本格的な店頭でのプロモーション活動を始めた。

　ターボリナックスは、競合他社がサーバー向け製品を主軸とするなか、一貫して個人向けパソコン用Linuxの販売を重視してきた。しかし、「パソコン＝Windows」という、大半の一般消費者がイメージする固定概念を崩すのは容易ではない。LinuxがパソコンOSで広く認知されて伸びているとは言い難い状況が続く。

　「wizpy」はこの環境を打破しようと、ターボリナックスが新たに投じた新コンセプトの製品で、類似商品はほかにない。「wizpy」とは、簡単に表現すれば持ち運べる超小型パソコン。重量約60グラムで、携帯電話よりも小さい寸法のなかにOSやアプリケーション、データなど一連のパソコンシステムを格納している。USBでパソコンに接続すれば自動的に「wizpy」内のシステムが稼働し、自分のパソコン環境になる。接続するパソコンのOSはWindowsでも構わない。インターネットカフェ、友人のパソコンなど「『Wizpy』を差し込めば、いつでも・どこでも自動的に自分のパソコン環境に変わる」（矢野広一社長）という仕掛けだ。加えて、筐体には液晶モニタを搭載し、動画や音楽を再生する機能も備えた。

　今後、「wizpy」にはさまざまな付加サービスが加わる。現在はオンライン上にデータを格納できる「ネットストレージサービス」があるが、さらに電子アニメや音楽、動画配信サービスを始める計画。長期的に配信するコンテンツに広告を掲載するビジネスも手がけていくそうだ。単なるハードの販売だけでなく、サービスビジネスにも結び付けようと矢野社長は青写真を描く。単なるLinuxディストリビュータから完全に脱皮しようと目論む。

　これまでターボリナックスは、自社のLinuxをWindowsの乗り換え用OSとしてアピールしてきた。Windowsにはない機能や堅牢性、安定性、Windowsとの互換性を追求し、あくまでWindowsに代わってパソコンにインストールさせることを狙ってきた。だが、「wizpy」ではその戦略とは一線を画した。「実際に操作するOSにこだわらず、60グラム以下のパソコンをWindowsの上で動かす」という新概念を持ち込んだのだ。

　メインマシンはWindowsで、持ち運び用のセカンドマシンとして「Wizpy」を使ったり、家庭に1台のWindowsパソコンを備えて、家族は1台ずつ「Wizpy」を持つといった使い方をターボリナックスは提唱。2万9800円（2GBモデル）という戦略的価格設定で挑む。ターボリナックスが出した新たな戦略商品の売れ行きは、LinuxがWindowsに迫れるかだけでなく将来のパソコン環境の姿がどう変化するかの試金石にもなるだろう。