その他
主要SIerの決算 強気の見通し相次ぐ 課題も浮き彫りに
2007/05/28 14:53
週刊BCN 2007年05月28日vol.1188掲載
産業界の堅調なIT投資に支えられ、強気の業績見通しを打ち出すSIerが目立つ。しかし、成長を急ぐあまりに競争力の源泉である技術革新に手が回らない大手SIerや、受注形態に起因するプロジェクトの不採算化の不安が依然として残るなど、解決すべき課題も浮き彫りになった。一方で、得意分野を伸ばそうとする中堅SIerやオンデマンドサービスなど次世代の収益モデルを模索する動きも活発化。M&Aや再編が加速する可能性もある。競争を勝ち抜くための差別化策がより一層求められている。(安藤章司●取材/文)
技術革新に手回らず
■量から質への転換
NTTデータは2010年3月期までの3か年経営計画で、増収増益を堅持しながら営業利益率を10%に高める方針を打ち出した。昨年度(07年3月期)は売上高1兆円突破を目指してがむしゃらに突っ走ってきた。営業利益率は8.6%と業界水準よりは上をいくものの、今のビジネスモデルのままでは“限界”を感じたのも事実だ。今後は量(売上高)から質(利益率)向上への転換を急ぐ。
浜口友一社長は、「これまでの請け負い仕事から、価値創造ビジネスへ転換する」と、受注形態から抜本的に見直す考えを示した。従来は受注金額の大枠が決まってから、詳細設計を詰める手法がまかり通っていたが、今後は設計と開発の2段階において受注契約を結ぶ「フェージング契約」を推進する。ビジネスモデル変革の第一歩である。
詳細設計を先に詰めてしまえば、仕様に基づいた適正な見積もりを出せる。設計が決まらないうちに一括して受注してしまうと、できるだけ多くの機能を盛り込みたい顧客と、採算性を優先させたいベンダーの思惑が衝突。ベンダーが折れれば採算性が悪化し、赤字プロジェクトを誘発しかねない。一方で、ベンダーの意向を押し通せば顧客満足度が下がる。
業界トップのNTTデータでさえ、赤字プロジェクトに怯えるぜい弱なビジネスモデルに依存しているのが実態なのだ。
昨年度、初めて連結売上高3000億円を突破し“3000億円プレーヤー”に成長した野村総合研究所(NRI)。売上高は前年度比12.9%増の3225億円、営業利益同20.4%増の438億円と期初予想を大幅に上回る業績をあげた。だが、藤沼彰久社長は、「目先の仕事に人をとられすぎた。このままでは3年後に悔やむことになる」と、危機感をあらわにする。
大口優良顧客を抱える同社では、「どうしても断れない案件」が出てきやすい。社員や協力会社を総動員して受注した結果、本来やるべき将来に向けた研究開発や人材育成などの投資が十分にできず後手に回った。
データセンターなどハードウェアの投資は増加傾向にあるが、付加価値を生みだす源泉はソフト・サービス。この部分への先行投資をどこまでできるかが、今後の成長を大きく左右する。
■海外サービス網を強化
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、CRCソリューションズと昨年10月に合併。旧CTC、旧CRCソリューションズの両部門ともに増収増益の好調なスタートを切った。
今年度は両社の融合をさらに推し進め、「本格的な相乗効果を出していく」(奥田陽一社長)ことで“3000億円プレーヤー”への返り咲きを狙う。また、「再編やM&Aが活発化する」と業界の二極化が進むと予測する。
今年度の連結売上高は前年度比18.2%増の3480億円、営業利益は13.1%増の288億円の見通しで、とくにSIやシステム開発力の増強に取り組む。昨年度は同事業分野の売上高が550億円にとどまり、競合他社に比べて弱いことを露呈した。まずはこの事業分野を1000億円に高めることで、将来的には連結売上高4000億円を目指す。
商社系のSIerだけに、製品販売はもともと得意とする。サン・マイクロシステムズやシスコシステムズなど海外メーカーの製品販売では多くの実績を持つ。保守・運用サービスも手堅く伸ばしている。
同社では、保守・運用、SI・開発、製品販売の3つの事業セグメントの売上高をそれぞれ4割、3割、5割の比率にすることが、「CTCらしいユニークなビジネスモデル」をつくりだすバランスと位置づけ、弱点の解消に取り組む。
持続的な成長に向けた海外進出を模索する動きも活発化している。業界トップのNTTデータでは日系グローバル企業へのサポートを軸とした拠点網の整備を進めることで、グローバルサービス体制の強化を打ち出す。海外進出を積極的に展開する国内大手グローバルカンパニーを顧客として取り込んでいくためには、国内だけに限られたサービス網では対応できないからだ。
商社系SIerで親会社やグループ企業が海外ネットワークを展開する住商情報システムも、グローバル展開を狙う1社だ。今年度、新たにグローバル事業を推進する部門を設置し、海外子会社の拡充も進める。阿部康行社長は、「日系企業のグローバルオペレーションの支援」を掲げる。
情報サービス産業も規模が大きくなるにつれ、すでに海外でのサービス網を展開するIBMやNEC、富士通といったメーカーとの競合も激しさを増す。こうしたメーカーとの競争で、どう優位に立っていくかが大手SIerの今後の課題として残る。
■得意分野を伸ばす中堅
SaaSなど新たなオンデマンド型ビジネスの模索も本格化している。オンデマンド型のCRM(顧客情報管理)サービスを提供するセールスフォース・ドットコムが日本郵政公社や三菱UFJ信託銀行など国内大手ユーザーを獲得。システムの納入にはNTTデータや日立ソフトウェアエンジニアリング(日立ソフト)などの大手SIerが携わった。
しかし、SIerにとって“他社サービスの再販売”だけでは収益の柱になり得ないことは明らかだ。
日立情報システムズは、オンデマンドサービス化を目指した「プール化構想」のロードマップを作成。2010年度を目標に積極展開を図る中期経営計画を立てる。オンデマンドサービスへの需要が高まっているのは間違いなく、今後どう収益モデルをつくり出すかがカギになる。
中堅SIerも勝ち残り策を模索する。アルゴ21はキヤノンマーケティングジャパンの傘下に入ることで成長を目指す。日本システムディベロップメントは優良顧客に「しっかり食い込む」(冲中一郎社長)ことで昨年度、過去最高益を更新した。営業利益は前年度比19.8%増の75億円、営業利益率は業界最高水準の18.3%に達する。
組み込みソフトに重点を置くコアは、ワンセグ放送対応の携帯電話の開発などが追い風となって、業績を伸ばした。「携帯電話の進化はとどまるところを知らない」(井手祥司社長)と手応えを得る。富士ソフトはデジタル放送へ移行する2011年に向けた「デジタルテレビ(DTV)向け製品の開発を、活発化させる」(野澤宏会長兼社長)など、需要は当面拡大基調が続きそうだ。ただ、組み込みソフトへの新規参入組が増えるなど競争が激化。より一層の差別化策が求められる分野でもある。
大手はより大きくなり、少数がトップ集団を形成する。中堅は得意分野をより伸ばす二極化構造が急ピッチで進んでいる。中途半端な売り上げ規模や総花的な施策では勝ち残れない。
【チャンスの芽】
・ソフト・サービス投資の持続的拡大こそ収益の源泉
・他社にないユニークなビジネスモデルをつくれ
・たとえ大手でも手が出せない得意分野を深掘りせよ
産業界の堅調なIT投資に支えられ、強気の業績見通しを打ち出すSIerが目立つ。しかし、成長を急ぐあまりに競争力の源泉である技術革新に手が回らない大手SIerや、受注形態に起因するプロジェクトの不採算化の不安が依然として残るなど、解決すべき課題も浮き彫りになった。一方で、得意分野を伸ばそうとする中堅SIerやオンデマンドサービスなど次世代の収益モデルを模索する動きも活発化。M&Aや再編が加速する可能性もある。競争を勝ち抜くための差別化策がより一層求められている。(安藤章司●取材/文)
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