日立系SIer5社と連携強化
中堅ERPシェア3位入り目指す
日立製作所の中堅向けERP(統合基幹業務システム)事業がようやく立ち上がり始めた。これまで中核製品の「ジェムプラネット」の開発やグループ会社が独自に展開するERP関連製品とのすり合わせに手間取り、予定より大幅に遅れていた。だが、ここへきて日立系主要SIer5社と連携を強化。地域SE子会社の開発体制の整備にもめどがついたことで、シェア拡大に向けて大きく動き出す構えだ。今後3年程度で中堅ERPシェア上位3位以内に入ることを目指す。(安藤章司●取材/文)
■2年越しの「完成」 これほど時間がかかるとは思わなかった──。日立系有力SIer幹部はため息を漏らす。2年半ほど前の2004年末、日立製作所は中堅企業向けERP「ジェムプラネット」を全面的に刷新し、日立グループ各社が開発する業務ソフトを「ジェムプラネットファミリー」としてシリーズ化すると発表。しかし、ウェブへの対応やSOA(サービス指向アーキテクチャ)の適用など製品開発に予想以上の時間がかかってしまった。
生産や販売管理は比較的早くできあがったものの、人事や労務管理モジュールの完成は昨年10月、SOA対応に至っては今年4月まで待たなければならなかった。
ファミリー化構想の柱である製品連携にも手間取る。グループ各社が採用するアーキテクチャが異なったり、投資計画の時期が合わないなど調整が難航。日立製作所は各社と個別に調整を続け、ようやく昨年3月にファミリー化構想を推進するワーキンググループ「パッケージビジネス推進委員会」の新設にこぎ着けたという状況だ。
主要メンバーは日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの株式上場3社に日立エイチ・ビー・エム(日立HBM)、ニッセイコムを加えた5社。
日立情報システムズの主力ERP「テンスイート」が販売・生産管理の領域で連携したのに続き、日立ソフトの文書管理システム「活文」、日立システムの就業管理システム「リシテアシリーズ」、日立HBMの主力業務ソフト「ハイコアシリーズ」のなかの就業管理モジュールなども連携できるようになった。
■5社連携で販売増狙う ジェムプラネットのターゲットは年商100億円以上の中堅企業だ。富士通のERP「グロービアシリーズ」や住商情報システムのERP「プロアクティブシリーズ」などと競合する。日立製作所ではグループの販売力とシステム構築力を結集することで先行する国産ERPベンダーを追撃する構えだ。
上場3社の昨年度の年商を単純合算すると4500億円余り。これに日立HBM、ニッセイコムが加わることで販売力はさらに増強される。システム構築では東名阪の都市部は日立システムが主に担当し、その他の地域は日立東日本ソリューションズなど東日本や中国、四国、九州に展開するSE会社を活用する体制を整えた。
昨年度(07年3月期)の受注数は約180セットで前年度よりも約50セット増えた。遅れていたモジュールが昨年秋に完成したことを受けて、「下期から急速に受注が増えた」(日立製作所の東正之・GEMPLANETソリューションセンタ部長)という。今年度はグループ5社連携を強化していくことで300セットの受注を目指す。
3年後には中堅向けERPの販売シェアで「上位3位に食い込む」と鼻息は荒いが、課題は多い。ジェムプラネットの強みは日立製作所と5社連携の相乗効果にある。だが、見方を変えればここがアキレス腱になることも考えられる。
■結束力が成否決める  |
| 日立系上場3社+2 | | アウトソーシングや中堅市場に対する営業に強い日立情報システムズ、強力なSE力を持つ日立システム、情報漏えい対策の「秘文」などのヒット商品を生みだす開発力に長けた日立ソフト--。ややもすればそれぞれ違う方向へ進んでいるようにみえるが、実はアウトソーシング、SE、開発と緩やかな役割分担がある。これに日立直系を自負する日立HBM、中堅・中小企業に強いニッセイコムが続く。ジェムプラネット事業でも各社の得意技を生かすフォーメーションを組むことで事業拡大を図る。 | | | |
日立製作所では「グループ外の販売チャネルの開拓も進める」というが、主要なSIerはすでに何らかのERPを担いでいる。当面は会計や給与など比較的“手離れ”がいいモジュールに限られる可能性もある。
そうなると、まずは日立グループで実績を積むのが先決だろう。日立製作所としてもジェムプラネットのフレームワークをベースに、少なくとも中堅向けのERPに関連する領域ではグループの結束力を高めたい意向である。だが一方で、「グループのERPを大統合するのもいいが、市場の動向も見ていく必要がある」(日立系SIer幹部)と、慎重論も聞こえてくる。
今後、ERPはオンデマンド化が急速に進むことも考えられる。日本IBMがSAPのオンデマンドサービスを始めたのは、つい最近のことだ。市場が大きく動くタイミングで先手を打てばシェア転換の可能性も出てくる。すでにウェブ対応を済ませていることから技術的なハードルも低く、「ジェムプラネット陣営にとってはビジネスチャンス」(東部長)とみる。
ただ、実用化するには多数のデータセンターを運用し、アウトソーシングを得意とする日立情報システムズの協力は欠かせない。SaaS型サービスで業績を伸ばすセールスフォース・ドットコムなどと提携してオンデマンドサービスのノウハウを蓄積する日立ソフトの、より深い参画も必要になる。さらに、システム構築には日立システム抜きには語れない。
ジェムプラネット事業の成否は、日立グループの結束力をどこまで高められるかにかかっている。