中堅SIerのアルゴ21に対するTOB（株式公開買い付け）に成功したキヤノンマーケティングジャパン（キヤノンMJ、村瀬治男社長）は、グループのITソリューション事業の拡大を急ピッチで進める。今後3年余りで情報サービス産業のトップグループ入りの目標を掲げるものの、実現には経営戦略のより一層の明確化などクリアすべき課題は多い。トップグループの一角を占める総合SIベンダーに成長するためには、さらに踏み込んだ改革が不可欠だ。

踏み込んだ改革が不可欠
抜本的な見直し必要の声も

■立ちはだかる“高い壁”

　キヤノンMJグループのITソリューション事業で中核的役割を担うキヤノンシステムソリューションズを巡っては、ここ1年余り、大きな動きが目立つ。

　昨年4月にキヤノンMJが主力とするドキュメントソリューションのSE部隊を数百人規模で受け入れ、さらに医療向けシステム開発のFMSも昨年買収した。本業のSI事業も好調なことから昨年度（2006年12月期）の連結売上高は約430億円、前年度比約18％増と高い伸びを達成。アルゴ21とは来年をめどに事業統合することで、意思決定を迅速化し、ビジネス拡大を狙う。

　今回のTOB以前に立てたキヤノンシステムの経営計画では、増収路線を堅持することで2年後の09年度に620億円余りの売上高を想定。TOB以前のアルゴ21は09年度（10年3月期）に350億円の売上高を目指していたことから、双方の数字を合計すれば約970億円規模になる。キヤノンシステムの武井尭社長は、「統合によって1000億円は射程内」との感触を得る。

　ただ、これだけでは2010年のITソリューション事業の売上高目標である年商3000億円にはまだ距離がある。一翼を担うキヤノンソフトウェアの昨年度（06年12月期）の連結売上高は約190億円。今年4月に通信ソフトなどを開発する蝶理情報システム（現キヤノン情報システム）を買収したものの、売上規模でみればまだ小振りだ。

　キヤノングループ全体を見渡せば、キヤノン本体の子会社であるキヤノン電子が昨年末にSIerのイーシステムを子会社化。イーシステムと資本提携するCRM（顧客情報管理システム）パッケージソフト開発のエンプレックスとの関係も強化している。パッケージソフトではアルゴ21の子会社で会計・給与などの売れ筋ソフトを持つエス・エス・ジェイが新たに戦力に加わる。

■シナジー効果を発揮できるか

　課題は、増え続けるグループ企業のシナジー効果をどう高めていくかだ。今年3月までキヤノンシステムの社長を務め、ITソリューションに精通した浅田和則氏が、現在はキヤノンMJの専務取締役としてITソリューション部門を担当。村瀬社長と組んでグループ全体の事業戦略の検討を進めているところだ。年内をめどに「抜本的な見直しも視野に入れつつ、一定の方向を示す」とグループ幹部は打ち明ける。

　キヤノンMJグループ全体のITソリューション事業の売上高は昨年度実績で1400億円強。これを2倍余りに伸ばすというのだから、ハードルは高い。アルゴ21とは金融業に強い点でキヤノンシステムと共通するものの、重複する顧客は少ない。売り上げは増えても、人員のシフトによる効率化、コスト削減がすぐさま達成できる状況とはいえない。また、キヤノンソフトなど兄弟会社との役割が多少重なる部分もあることから、再編の必要性が出てくる可能性もある。

　キヤノンMJグループの強みはドキュメント管理の領域である。この分野でのブランド力は極めて強い。だが、トップグループの一角を占める総合ITベンダーに成長するには2本目、3本目の事業の柱をいち早く打ち立て、これに沿った再編、M&A戦略をダイナミックに展開する実行力が求められる。