通信事業者が、法人向けのSaaS(Software as a Service)ビジネスに着手し始めた。サービス強化でブロードバンドや携帯電話など回線の法人加入者を増やしていくことが狙い。業務アプリケーションの領域まで事業を広げるため、SIerやアプリケーションソフトメーカーなどとのアライアンス強化にも力を注いでいる。通信事業者としてネットワーク側からコンピュータと融合したビジネスの展開を模索する。
ITベンダーとのアライアンス強化へ

KDDIは、法人向けSaaS事業の着手にあたりマイクロソフトと協業した。マイクロソフトの通信事業者向けSaaSプラットフォーム「CSF」を基盤にアプリケーションサービスを提供。共同でアプリケーションサービスを創造していく。KDDIの田中孝司・取締役執行役員常務ソリューション事業統轄本部長は、「今後は、ユーザー企業のなかでネット経由でアプリケーションサービスを受けるという意識が高まる。そのため、事業着手に踏み切った」としている。来年3月には、本格的なサービス提供を開始。現段階では、「Office Outlook2007」などマイクロソフトの統合ソフトをKDDIの携帯電話「au」で使えるようにするほか、携帯電話で社内のメールアドレスが使えるようなサービスを予定している。
ソフトバンクグループでは現在、ソフトバンクBBの流通事業でセールスフォース・ドットコムの販売代理店となり、SaaSプラットフォームを販売している。加えて、ソフトバンクモバイルがスマートフォンを市場投入していることから、SaaSプラットフォームとスマートフォンを組み合わせることができる。ソフトバンクBBの高瀬正一・コマース&サービス統括コーポレート事業推進本部長は、「スマートフォンとSaaSを組み合わせ、さまざまなアプリケーションに対応させることで、早期に事業の柱の1つとして成長させる」方針を示しており、流通側からモバイル関連製品・サービスの創造を模索している。加えて、ヤフーがグループ企業であることから、ネット側からSaaSの提供も可能。すでに、ヤフーではコンシューマユーザーに対してSaaS型サービスを提供しており、法人向けにもサービスインできる基盤が整っている。流通部門では、「サービスやストックビジネスの売り上げ比率として30%を目指す」(高瀬本部長)としており、グループ連携による法人向けSaaSビジネスへの参入は十分に可能性がある。

通信事業者がSaaSビジネスを確立するために力を注ぐのは、ITベンダーとのパートナーシップだ。KDDIでは、今年10月までにSIerとの販売代理店契約やアプリケーションメーカーとのアライアンスを進める。現段階では、大塚商会やオービックビジネスコンサルタント(OBC)など7社のITベンダーがパートナーとして賛同しているが、「確実にパートナーになってもらうため、パートナーシップを組むITベンダーをサポートするプログラムを策定する。また、賛同パートナーをさらに増やしていきたい」(田中執行役員常務)考え。ソフトバンクグループは、「SIerなど販売代理店とパートーナーシップを深めることは、今に始まったことではない。今後も、さらに売りやすい環境を整えていく」(高瀬本部長)という。
しかし、ネットワークを牛耳る通信事業者がアプリケーションサービスの提供にまで手を出すとなれば、SIerのシステム構築領域を奪いかねない。アプリケーションメーカーにとっても、パッケージやライセンス販売との兼ね合いを含めて競合する可能性はある。
しかも、KDDIでは「SaaSでアプリケーション市場に参入したい。法人ユーザーに対して、回線からアプリケーションまでを網羅したワンストップソリューションの提供で新しい成長基盤を整える」(田中執行役員常務)と構想している。ITベンダーのビジネスモデルを視野に入れたアライアンスを組まなければ、新しい事業領域に踏み込んでもアプリケーションの充実が果たせないといった“手痛いシッペ返し”を食う恐れもある。