NIerによるSIerグループへの参画やSIerとの統合が進んでいる。そのような状況下、「SIとNIの融合」というキーワードが浮上してきている。NIerによるネットワークインテグレーション(NI)、SIerによるシステムインテグレーション(SI)といった、それぞれ得意分野でビジネスを手がける時代の終焉が間もなく訪れることを物語っているようだ。これまで全く異なる事業といわれていたSIとNIだが、なぜベンダー各社は事業領域を広げることに力を注いでいるのか。両者の融合が台頭することになった経緯と業界の現状を探る。
需要創出の新しいけん引役を期待
シナジー効果は生み出せるか 待ったなしのNIer
合併や子会社化に踏み切る
2006年12月下旬、ネクストコムと三井情報開発の2社が共同記者会見を都内で開催した。発表内容は、「合併」。両社は、07年4月1日付で「三井情報(MKI)」として再スタートを切った。これがNIerによるSIerとの本格的な統合の始まりだ。
合併の経緯は、三井情報開発がネクストコムに対して業務提携を持ちかけたことが発端だ。当時、三井情報開発の社長だった増田潤逸氏(現・三井情報社長)は、「06年夏頃から打診を始めた。提携話を親会社の三井物産に報告したところ、提携にとどまらずに合併で進めるように指示された」と説明。そこで、秋頃から当時のネクストコム社長だった山本茂氏と話し合いを重ねることで「やはり合併することが最適な方法と判断した」(増田社長)。
合併の狙いは、SIとNIの融合による事業領域の拡大だ。ネクストコムは、ネットワーク関連のシステム構築を得意とする。一方、三井情報開発はパッケージソフトを中心にシステム開発やコンサルティングサービスを提供している。ネットワーク技術とコンピュータ関連のシステム構築、運用サービスなどを組み合わせた総合力が武器になるわけだ。「ICT(情報通信技術)関連で、ユーザー企業からシステム案件を長期的に依頼がくるベンダーとして地位を築ける」。合併から数か月が経過して増田社長が発していた言葉だ。

SIerとNIerの融合という点では、日本ユニシスがネットマークスを傘下に収めたことも業界を賑わせた。日本ユニシスグループでは、第一弾としてユニアデックスとネットマークスの連携を強化。ICT基盤構築ビジネス拡大に踏み出した。新ブランド「PowerWorkPlace(パワーワークプレイス)」を立ち上げ、音声やデータなどを組み合わせた「ユニファイドコミュニケーション」分野の製品・サービス提供を順次開始していく。
ネットマークスは、シスコシステムズの製品をベースとしたネットワーク構築で国内屈指の実力を持つ。一方、ユニアデックスはマイクロソフト製品を中心にコンピュータシステムの導入で多くの実績をあげている。両社のノウハウを生かすことで、コンピュータからネットワークまでを網羅した製品・サービスの提供が可能というわけだ。
日本ユニシスの籾井勝人社長は、「これで、SIとNIの融合を見据えたビジネスの確立を果たせる」と断言する。しかも融合ビジネスを拡大するうえで、「ユニアデックスとネットマークス、そして当社を含めたグループ連携が今後も増えていく」としている。ユニアデックスの角泰志常務執行役員は、「グループ3社の協業でSIとNIの融合を進め、法人向けICTシステム市場でトップシェアを目指す」と鼻息が荒い。
ビジネス路線は変えない
SIerとのアライアンス強化

ネクストコムやネットマークスという大手NIerの改革が進む一方、「NIerがやるべきビジネスは、まだまだ多く存在する。当社は、あくまでもNIerとしての地位を確立する」(澤田脩社長)という号令のもと、NI事業を遂行していくのがNIer最大手のネットワンシステムズだ。というのも、「SIとNIの融合ビジネスを手がけていくためには、それぞれが得意分野をさらに深めることが重要。これにより、多くのSIerと協調関係を築いていく」方針だからだ。
同社は、SIerとのアライアンス強化に向けて「ユニファイドコミュニケーション事業推進本部」を今年9月1日付で設置。同事業部では、IP電話機やSIP(呼制御)サーバーをベースとして、音声や映像に関する製品・サービスを法人向けに提供している。当面は、シスコシステムズのLANやWANなどに関連するインフラ機器と、VoIP(音声のIP化)のアプリケーションサービスを組み合わせる。「アプリケーションサービスの拡充にも力を入れる。自社で開発を進めることに加え、アプリケーションベンダーとのアライアンスを積極的に進める」(大塚浩司・ユニファイドコミュニケーション事業推進本部長)考えを示している。加えて、販路としてサービスプロバイダやリセラー経由での拡販も模索している。同社の売上高は1100億円規模。ネットワークインフラの事業領域を広げることで成長軌道に乗せるというわけだ。「これまでも案件ベースでユニファイドコミュニケーション関連の製品・サービスを20社程度に提供してきた。組織を立ち上げ、本格的にビジネスを手がけることで2010年度(11年3月期)までに300社は確実にユーザー企業として獲得できる。この事業で、全社の売り上げ規模を約20%は拡大できる」と言い切る。
厳しい市場環境は続く
生き残り策を模索
NIerによるSIerとの関係強化が深まっているのは、国内ネットワーク機器市場が緩やかに成長しているものの、なかなか利益を確保しにくい商材になっていることが要因だ。IDC Japanによれば、06年の国内LANスイッチ市場は前年比6.6%増の1852億円と増加。この要因は、法人市場でのリプレースや通信事業者の設備増強があったためとしている。また、11年までの平均成長率を2.2%増と予測。しかし、需要創出に向けての新しいけん引役が不足していると分析している。このような環境下、NIerがネットワーク構築だけでは生き残れない状況となったわけだ。
ハードウェアだけでは儲からない時代へと移行したことで、NIer各社はSIビジネスに参入することを視野に入れるようになった。
一方、SIerを取り巻く市場環境も厳しい。ユーザー企業のシステムに対する投資意欲が回復しているものの、ニーズの多様化で競争が激しくなっているためだ。もともとNIとSIは全く異なるビジネスといわれていた。そこで業績が厳しい現状のNIerは、SIerとの統合や傘下に収まるという道をたどったことになる。
ただ、課題も出ている。SIerとNIerの合併で誕生した三井情報では、全社横断的な営業推進や支援業務、新規ビジネス創出の増加に向け、今年9月28日付で営業統括本部内に営業企画部を設置。「統合したからといって、すぐにSIとNIの融合ビジネスを実現できるというわけではない」(石黒太郎・営業統括本部営業企画部長)と認識しているためだ。
NIerが収益モデルを見いだすことが難しいといわれているなか、SIとの組み合わせで、いかに成長路線を描けるかが重要になっている。これを実現したベンダーがICT市場での主導権を握る可能性が高い。(週刊BCN 2007年10月22日号掲載)