沖電気工業（篠塚勝正社長）は、顔の動きを検出するミドルウェア「組込用顔画像処理ミドルウェアFSE（フェイス センシング エンジン）」でIPAのソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー（SPOTY）2007のグランプリを受賞した。同社では、エンジンを活用したサービス、製品などで外部とのアライアンスを進めていくとともに、ゆくゆくは自社の既存事業などと連携させることでシナジー効果を高めていく考えだ。（鍋島蓉子●取材／文）

自社既存システムとのシナジーも

■携帯インカメラ向けで開発

　「組込用顔画像処理ミドルウェアFSE」は動画像、静止画像から人の顔を高速で検出する。
2001年、携帯の内側に「インカメラ」を搭載した、NTTドコモのFOMAが登場した。01年当初は、ITシステム需要が伸び悩むなかで、携帯電話の需要が拡大していたことから、「今後はインカメラで取り込んだ画像処理のソリューションがマーケットを伸ばしていく」（井上清司・情報グループ インキュベーション本部 事業推進リーダ）と踏んだ。

　その後、キャリアと共同でテレビ電話のソリューション開発を進め、「Face Communicator（フェースコミュニケーター）」の提供を開始した。「Face Communicator」はインカメラで捕らえた人の表情を検出し、画面に映し出した、「通話者の分身」であるCGキャラクターの表情に反映し、コミュニケーションするツールである。

　その後、「Face Communicator」のエンジン部分を切り出して「組込用顔画像処理ミドルウェアFSE」を開発。05年には顔認証機能を付加し、携帯向け「組込用顔画像処理ミドルウェアFSE Ver2.0」を商用化した。

　携帯端末のアクセス制限にはパスワードでのロックが使用されているが、解除が面倒なことなどで使い勝手が悪い。そこで、「インカメラを使った顔認証機能によるアクセス制限を導入することによって、入力する手間を省き使い勝手を向上させた」（同氏）ソリューションだ。同年、ボーダフォン（現ソフトバンク）に提供を開始した。

■デジカメなどに提供広がる

　ただ、「インカメラはキャリアの意向で搭載されているもので、市場が限られていることや、3Gサービスを提供していなければ搭載されていない」（同氏）という事情があり、海外に展開しようと考えた際に、携帯の外側に搭載された「アウトカメラ」に対してソリューションを提供することで、今度は端末メーカーに対して拡販しはじめた。

　06年に販売を開始した「顔画像処理ミドルウェアFSE Ver3.0」では、画像から特定の人物の顔検出と、本人の照合を実現した。従来、携帯電話のカメラで撮影したファイルは日時を付加し、保存・管理している。FSEの提供する、写真を人物の顔で分類する機能を使うことで、撮影中の画像から複数の顔を同時に検出し、あらかじめ登録しておいた人物の顔と照合。人物を特定したうえで、ファイル名や内容情報に名前などを付加することで、保存する際に写真の自動振り分けや、撮影後の写真検索を実現した。

　昨年から今年にかけては携帯以外の端末にも展開している。コンシューマ向けサービス「顔ちぇき！～誰に似てる～」やカシオ計算機製のデジタルカメラ、携帯ゲーム端末などに採用され、実績をあげている。

■ライセンスビジネス確立へ

　性能、精度に関しては端末の用途などによって変わってくることから、同社は05年から受託ベースで、マーケットにあわせながらエンジン開発を継続している。

　同社では「収益性を高めるため、組み込みソフトのライセンスビジネスを確立するほか、ネットワークサービスでの安定的なソフト提供を図っていく」としている。現在は外販によるアライアンスビジネスのほか、エンジンの精度をあげて、防衛や金融関連など、自社の既存サービス、システムなどとのシナジー効果を高める方向も模索している。エンジンは海外展開も行っていることから、中長期的に、海外の売上比率を全売り上げの50％にまで引き上げていきたい考えだ。