その他
定着するか「日本型SaaSモデル」
2007/11/19 14:53
週刊BCN 2007年11月19日vol.1212掲載
国内のITベンダーが「SaaS(Software as a Service)事業」に相次いで参入している。「SaaSビジネス」が具体化するのは「もう少し先」と予測する関係者が多かったが、10月頃から、電子メールや表計算など、企業内個人をターゲットにしたITシステムのフロント部分を手始めに、さまざまなサービスが出現している。直販主体の米国の「SaaSビジネス」と異なり、「従来の商流を維持」するチャネル販売主体の「日本型SaaSモデル」として定着するか注目される。(谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文)
■百花繚乱のSaaS事業
さまざまな国内ITベンダーが、ここにきて日本独自の「SaaS事業」を相次ぎ打ち出している。サイボウズの子会社でSaaS専業ベンダーのフィードパスは10月末、名刺管理ベンチャーの三三と提携。サイボウズのSaaS型グループウェア「サイボウズ Office6 for ASP」に三三の名刺データ化サービス「Link Knowledge」をSaaSプラットフォーム上でデータ連携させ、アドレス帳を自動生成するサービスを開始する。
フィードパスは「企業内個人が利用するアプリケーションをSaaS型で安価に提供するサービスを増やす」(津幡靖久社長CEO)と、サイボウズの製品に限らず、すでに同社のWebメールとセールスフォース・ドットコムのCRM(顧客情報管理)と連携させるなど、他の情報共有製品を提供するITベンダーとのアライアンスを増やす計画だ。最近では、携帯電話のカメラで画像解析して名刺情報をOCRして読み込み管理するサービスが出ている。こうしたサービスが両社の提携で生まれるとSaaSの利用人口が一気に増えそうだ。
■実務利用に耐え得るレベルに
フィードパスと同様に、10月末には、すでにIT業界で実績を残すXML専業ベンダーであるインフォテリアがSaaS子会社としてインフォテリア・オンラインを設立した。インフォテリアの平野洋一郎社長は「当社は中堅・大企業向けに間接販売でデータ連携ツールを提供してきた。SaaSは中小企業・企業内個人向けで別のパートナー施策が必要」と、子会社化した。子会社は第一弾としてオンライン表計算サービス「OnSheet」の提供を開始した。
マイクロソフト出身であるインフォテリア・オンラインの藤縄智春社長は「Excelなど表計算ソフトウェアを使う時間は、1週間に30分というデータがある。(利用量に応じて課金する)SaaSモデルは適している。SaaSは、すでにオモチャではなく、実務で使える」と述べ、企業内個人への利用から、親会社のデータ連携の技術力を生かし、企業全体のITシステムへSaaS型サービスの浸透を狙うようだ。
「OnSheet」の特徴は、Excelでいえば「マクロ」を変更したログを取ることができるところにある。内部統制で求められる「変更管理」など企業向けを意識したサービスだ。このような「スプレッドシート」のサービスは、SaaSの特徴でありITベンダーが「規模の経済」を追求できる「マルチテナンント化」に適した製品ジャンルで、利幅の厚いサービスといえる。
■巨頭が手を組み新サービス展開
今年6月に「SaaS事業」で提携することを発表したKDDIとマイクロソフト。両社が来年3月から提供を開始する施策も、第一弾として企業内個人をターゲットにしたサービスである。パソコンや携帯電話から「Outlook」や「Share Point」を月額980円(1ユーザー単位)で使えるという。
両社ではこれらSaaS型のソリューションを「BusinessPort」と呼び、マイクロソフトが開発した共有型アプリケーション・ホスティングやSaaSプラットフォームを利用して、KDDIのデータセンターで一括提供する。これまでの情報によれば、KDDIの「ezweb」のアドレスは使えなくなることから、企業が社員に支給する携帯電話向けのサービスで、「企業向けモバイル・ソリューション市場が活況を呈する」と、早くも、ITベンダーから期待の声があがっている。
■自由度の高いアプリを実現
日本法人のアドビシステムズ(ギャレット・イルグ社長)は、「脱ブラウザ戦略」を推進している(1月29日号で既報)。インターネットブラウザに依存しない実行環境プラットフォーム「AIR(Adobe Integrated Runtime)」を無償で提供する。この上にフラッシュやPDFなどアドビシステムズのコア技術を使ったアプリケーションを実行できるようにする。WebブラウザやOSの違いによる制限を取り払うことで、より自由度の高いアプリケーションを実現するという。正式版は早ければ今年度中にもリリースされる見通し。アドビのソフトは、将来的にすべてホスティング・サービスで提供されることになりそうで、同社のSaaSへの傾倒が強まっている。
アドビ製品に対してはこれまで、「バージョンアップの頻度が高くて不便を感じる」という声があったが「利便性が高まりそうだ」といった意見や、「提供側の環境に制約されずユーザー環境を提供できるのは、ソフト開発側に有益」──など、利用者、開発者とも多くはAIRの登場を歓迎している。同社はAIRを国内ISVに提供するが、「日本のISVが得意とするユーザーインターフェース(UI)に関わる力を存分に発揮できる」(ISV担当者)と、同社と国内ISVの連携が「SaaS化」というキーワードでさらに深まりそうだ。
そのアドビシステムズは、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)大手であるNECビッグローブと組んで、文書管理サービスを12月から始める。競合のニフティも複数のセキュリティベンダーと組んでオンラインサービスを構築してきた実績があり、今後は「法人向けでも動きが出てくる」という。これまでKDDIやソフトバンクBBなど通信キャリアを中心に国内でSaaS事業が拡大するとみられていたが、企業向けサービスの実績があるISPが参戦することで、競争が激化しそうである。
NECビッグローブが今回始めるSaaS型サービスは、閲覧条件を細かく設定できる電子文書サービス。文書の変更やコピー、印刷などの可否といったポリシーを設定することで閲覧者の権限に準じて制御できる。こうしたサービスは、大手ISPだけでなく、地方でデータセンターを持ちホスティングなどを提供するISPにも波及することが考えられ、これまで接点の薄かったISPとITベンダーの連携が深まりそうだ。
■新参のSaaS製品を担ぐ動きも
これまで、日本市場でSaaSビジネスの拡大をけん引していたのは、セールスフォース・ドットコムである。加えて、同社だけでなく、後発ながら同じく米国発のネットスイートも、ミロク情報サービスと組んで販売会社を獲得してきた。大規模システムを提供する大手SIベンダーは、大多数がセールスフォース・ドットコムと手を組んで大企業に同社のCRMを導入してきた。
一方で、両社以外のSaaS製品を取り扱うSIベンダーが現れた。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、米ライトナウ・テクノロジーズのSaaS型CRM「RightNow8」を10月1日から販売している。当初は、製造業やサービス業を中心に展開し、初年度で1000クライアントの導入を目指すという。
「RightNow8」は、「特にコンタクトセンターでの利用機能が充実しており、Webや電子メールなどの連携がスムーズにできる」と、同社が得意分野とする構内交換機(PBX)や音声応答送付(IVR)、通話録音装置、CTIなどと組み合わせたコンタクトセンターのトータルソリューションを強化する。「RightNow8」は、世界で約1800の企業や政府機関に導入されている。この先、日本では、セールスフォース・ドットコムやネットスイート以外にも、CTCのように自社の強みに合致したモノとして、世界で利用が急増する他のSaaS製品を輸入するSIerが現れても不思議ではない。
それでも、先行するセールスフォース・ドットコムの勢いは止まらない。日本郵政公社などに続き、東京都民銀行楽天支店、光インターネットサービスの中部テレコミュニケーション、マーケティングサービスのネクスウェイが同社のサービスを採用。小田急電鉄では、SaaS型のプラットフォーム上に同社資産の「保険管理システム」を構築した。セールスフォースによれば「開発期間の短さが評価された」という。
「中小企業から先にSaaSビジネスは浸透する」というIT業界の予想に反して、大企業が抱える開発期間の長期化や運用・保守の負担などを解消する手段として、SaaSが大企業に入り込んでいる。
■自治体向けにも入り込む
大規模向けとしては、アウトソーシング事業の拡大を標榜し、SaaS基盤の構築で先行する富士通が、また新たなサービスを自治体向けに提供する。「SaaS型電子申請サービス」として、受け付けや届け出など基本機能や携帯電話からの申し込み、住民票の写し申請の作成などに対応した「電子申請サービス」などを備え、月額550万円から利用できる。全国の自治体が接続する総合行政ネットワーク「LGWAN」を活用して提供。自治体が独自システムを導入する場合に比べ、導入費用と5年分の運用費用合計を「約半分に抑えることができる」という。自治体では現在、レガシーシステムをどうオープン化するか、あるいはその費用をどう捻出するか悩んでいる。その対策として、山梨県甲府市のように、自治体システムをフルアウトソーシングでNECのデータセンターに預ける仕組みも広がるが、SaaS基盤を利用した富士通の新サービスも選択肢に加えられそうだ。
米国とは異なり、販売会社を介した従来の「商流」を活用した「日本型SaaSモデル」は、加速度的に普及することは間違いなさそう。そして、ITシステムの「所有から利用へ」の時代が日本にも到来する。ただ、日本でSaaSが定着するまでには、まだ時間を必要とするだろう。ASPがそうであったように、利用が進めば問題点が浮き彫りになる可能性があるからだ。しかし、SaaSは「マルチテナント」方式であってASPの「シングルテナント」方式と異なり、利幅の厚い「規模の経済」を追求できる。SaaS事業に取り組むSIベンダーが顧客の利便性などに配慮したアイデアを発揮できるかどうかが、日本のSaaSビジネスの成否を分けることになる。
「SaaS型CRMは急成長」と予測
調査会社の矢野経済研究所がまとめた「CRM/SFAソリューションに関する市場調査レポート」によると、SaaS型のCRM(顧客情報管理)ソリューションは今年、対前年比73.7%増で推移。56億1200万円規模に成長すると予測している。
CRMおよび類似ジャンルに位置づけられるSFA(営業支援システム)システムは、一般的に高額な製品が多く、使いこなすにはかなりのスキルが必要とされている。そのため、利用企業は中堅から大企業のユーザーが多く、中小企業の利用は、価格とスキルの面から障壁が高い分野だった。
しかし、初期費用の負担が小さくてすむSaaS型モデルの登場で、中小企業を中心にこれまでCRMやSFAを導入していない企業が体験を希望していると同社では分析している。
また、OSS型CRMを提供するSIベンダーが徐々に販売チャネルの構築を進め、急速にユーザーを獲得しているようだ。
なお、CRM全体のライセンス売上高は一貫して右肩上がりで推移し、今年は200億円規模、2010年には350億円規模に成長するとみている。
この業界に異変あり! “現在進行形”の「SaaS」特集
SaaS専業ベンダー設立相次ぐ まずは、フロント系から
■百花繚乱のSaaS事業
さまざまな国内ITベンダーが、ここにきて日本独自の「SaaS事業」を相次ぎ打ち出している。サイボウズの子会社でSaaS専業ベンダーのフィードパスは10月末、名刺管理ベンチャーの三三と提携。サイボウズのSaaS型グループウェア「サイボウズ Office6 for ASP」に三三の名刺データ化サービス「Link Knowledge」をSaaSプラットフォーム上でデータ連携させ、アドレス帳を自動生成するサービスを開始する。フィードパスは「企業内個人が利用するアプリケーションをSaaS型で安価に提供するサービスを増やす」(津幡靖久社長CEO)と、サイボウズの製品に限らず、すでに同社のWebメールとセールスフォース・ドットコムのCRM(顧客情報管理)と連携させるなど、他の情報共有製品を提供するITベンダーとのアライアンスを増やす計画だ。最近では、携帯電話のカメラで画像解析して名刺情報をOCRして読み込み管理するサービスが出ている。こうしたサービスが両社の提携で生まれるとSaaSの利用人口が一気に増えそうだ。
■実務利用に耐え得るレベルに
フィードパスと同様に、10月末には、すでにIT業界で実績を残すXML専業ベンダーであるインフォテリアがSaaS子会社としてインフォテリア・オンラインを設立した。インフォテリアの平野洋一郎社長は「当社は中堅・大企業向けに間接販売でデータ連携ツールを提供してきた。SaaSは中小企業・企業内個人向けで別のパートナー施策が必要」と、子会社化した。子会社は第一弾としてオンライン表計算サービス「OnSheet」の提供を開始した。
マイクロソフト出身であるインフォテリア・オンラインの藤縄智春社長は「Excelなど表計算ソフトウェアを使う時間は、1週間に30分というデータがある。(利用量に応じて課金する)SaaSモデルは適している。SaaSは、すでにオモチャではなく、実務で使える」と述べ、企業内個人への利用から、親会社のデータ連携の技術力を生かし、企業全体のITシステムへSaaS型サービスの浸透を狙うようだ。
「OnSheet」の特徴は、Excelでいえば「マクロ」を変更したログを取ることができるところにある。内部統制で求められる「変更管理」など企業向けを意識したサービスだ。このような「スプレッドシート」のサービスは、SaaSの特徴でありITベンダーが「規模の経済」を追求できる「マルチテナンント化」に適した製品ジャンルで、利幅の厚いサービスといえる。
■巨頭が手を組み新サービス展開
今年6月に「SaaS事業」で提携することを発表したKDDIとマイクロソフト。両社が来年3月から提供を開始する施策も、第一弾として企業内個人をターゲットにしたサービスである。パソコンや携帯電話から「Outlook」や「Share Point」を月額980円(1ユーザー単位)で使えるという。
両社ではこれらSaaS型のソリューションを「BusinessPort」と呼び、マイクロソフトが開発した共有型アプリケーション・ホスティングやSaaSプラットフォームを利用して、KDDIのデータセンターで一括提供する。これまでの情報によれば、KDDIの「ezweb」のアドレスは使えなくなることから、企業が社員に支給する携帯電話向けのサービスで、「企業向けモバイル・ソリューション市場が活況を呈する」と、早くも、ITベンダーから期待の声があがっている。
■自由度の高いアプリを実現
日本法人のアドビシステムズ(ギャレット・イルグ社長)は、「脱ブラウザ戦略」を推進している(1月29日号で既報)。インターネットブラウザに依存しない実行環境プラットフォーム「AIR(Adobe Integrated Runtime)」を無償で提供する。この上にフラッシュやPDFなどアドビシステムズのコア技術を使ったアプリケーションを実行できるようにする。WebブラウザやOSの違いによる制限を取り払うことで、より自由度の高いアプリケーションを実現するという。正式版は早ければ今年度中にもリリースされる見通し。アドビのソフトは、将来的にすべてホスティング・サービスで提供されることになりそうで、同社のSaaSへの傾倒が強まっている。アドビ製品に対してはこれまで、「バージョンアップの頻度が高くて不便を感じる」という声があったが「利便性が高まりそうだ」といった意見や、「提供側の環境に制約されずユーザー環境を提供できるのは、ソフト開発側に有益」──など、利用者、開発者とも多くはAIRの登場を歓迎している。同社はAIRを国内ISVに提供するが、「日本のISVが得意とするユーザーインターフェース(UI)に関わる力を存分に発揮できる」(ISV担当者)と、同社と国内ISVの連携が「SaaS化」というキーワードでさらに深まりそうだ。
そのアドビシステムズは、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)大手であるNECビッグローブと組んで、文書管理サービスを12月から始める。競合のニフティも複数のセキュリティベンダーと組んでオンラインサービスを構築してきた実績があり、今後は「法人向けでも動きが出てくる」という。これまでKDDIやソフトバンクBBなど通信キャリアを中心に国内でSaaS事業が拡大するとみられていたが、企業向けサービスの実績があるISPが参戦することで、競争が激化しそうである。
NECビッグローブが今回始めるSaaS型サービスは、閲覧条件を細かく設定できる電子文書サービス。文書の変更やコピー、印刷などの可否といったポリシーを設定することで閲覧者の権限に準じて制御できる。こうしたサービスは、大手ISPだけでなく、地方でデータセンターを持ちホスティングなどを提供するISPにも波及することが考えられ、これまで接点の薄かったISPとITベンダーの連携が深まりそうだ。
■新参のSaaS製品を担ぐ動きも
これまで、日本市場でSaaSビジネスの拡大をけん引していたのは、セールスフォース・ドットコムである。加えて、同社だけでなく、後発ながら同じく米国発のネットスイートも、ミロク情報サービスと組んで販売会社を獲得してきた。大規模システムを提供する大手SIベンダーは、大多数がセールスフォース・ドットコムと手を組んで大企業に同社のCRMを導入してきた。
一方で、両社以外のSaaS製品を取り扱うSIベンダーが現れた。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、米ライトナウ・テクノロジーズのSaaS型CRM「RightNow8」を10月1日から販売している。当初は、製造業やサービス業を中心に展開し、初年度で1000クライアントの導入を目指すという。
「RightNow8」は、「特にコンタクトセンターでの利用機能が充実しており、Webや電子メールなどの連携がスムーズにできる」と、同社が得意分野とする構内交換機(PBX)や音声応答送付(IVR)、通話録音装置、CTIなどと組み合わせたコンタクトセンターのトータルソリューションを強化する。「RightNow8」は、世界で約1800の企業や政府機関に導入されている。この先、日本では、セールスフォース・ドットコムやネットスイート以外にも、CTCのように自社の強みに合致したモノとして、世界で利用が急増する他のSaaS製品を輸入するSIerが現れても不思議ではない。
それでも、先行するセールスフォース・ドットコムの勢いは止まらない。日本郵政公社などに続き、東京都民銀行楽天支店、光インターネットサービスの中部テレコミュニケーション、マーケティングサービスのネクスウェイが同社のサービスを採用。小田急電鉄では、SaaS型のプラットフォーム上に同社資産の「保険管理システム」を構築した。セールスフォースによれば「開発期間の短さが評価された」という。
「中小企業から先にSaaSビジネスは浸透する」というIT業界の予想に反して、大企業が抱える開発期間の長期化や運用・保守の負担などを解消する手段として、SaaSが大企業に入り込んでいる。
■自治体向けにも入り込む
大規模向けとしては、アウトソーシング事業の拡大を標榜し、SaaS基盤の構築で先行する富士通が、また新たなサービスを自治体向けに提供する。「SaaS型電子申請サービス」として、受け付けや届け出など基本機能や携帯電話からの申し込み、住民票の写し申請の作成などに対応した「電子申請サービス」などを備え、月額550万円から利用できる。全国の自治体が接続する総合行政ネットワーク「LGWAN」を活用して提供。自治体が独自システムを導入する場合に比べ、導入費用と5年分の運用費用合計を「約半分に抑えることができる」という。自治体では現在、レガシーシステムをどうオープン化するか、あるいはその費用をどう捻出するか悩んでいる。その対策として、山梨県甲府市のように、自治体システムをフルアウトソーシングでNECのデータセンターに預ける仕組みも広がるが、SaaS基盤を利用した富士通の新サービスも選択肢に加えられそうだ。
米国とは異なり、販売会社を介した従来の「商流」を活用した「日本型SaaSモデル」は、加速度的に普及することは間違いなさそう。そして、ITシステムの「所有から利用へ」の時代が日本にも到来する。ただ、日本でSaaSが定着するまでには、まだ時間を必要とするだろう。ASPがそうであったように、利用が進めば問題点が浮き彫りになる可能性があるからだ。しかし、SaaSは「マルチテナント」方式であってASPの「シングルテナント」方式と異なり、利幅の厚い「規模の経済」を追求できる。SaaS事業に取り組むSIベンダーが顧客の利便性などに配慮したアイデアを発揮できるかどうかが、日本のSaaSビジネスの成否を分けることになる。
「SaaS型CRMは急成長」と予測
調査会社の矢野経済研究所がまとめた「CRM/SFAソリューションに関する市場調査レポート」によると、SaaS型のCRM(顧客情報管理)ソリューションは今年、対前年比73.7%増で推移。56億1200万円規模に成長すると予測している。
CRMおよび類似ジャンルに位置づけられるSFA(営業支援システム)システムは、一般的に高額な製品が多く、使いこなすにはかなりのスキルが必要とされている。そのため、利用企業は中堅から大企業のユーザーが多く、中小企業の利用は、価格とスキルの面から障壁が高い分野だった。
しかし、初期費用の負担が小さくてすむSaaS型モデルの登場で、中小企業を中心にこれまでCRMやSFAを導入していない企業が体験を希望していると同社では分析している。
また、OSS型CRMを提供するSIベンダーが徐々に販売チャネルの構築を進め、急速にユーザーを獲得しているようだ。
なお、CRM全体のライセンス売上高は一貫して右肩上がりで推移し、今年は200億円規模、2010年には350億円規模に成長するとみている。

国内のITベンダーが「SaaS(Software as a Service)事業」に相次いで参入している。「SaaSビジネス」が具体化するのは「もう少し先」と予測する関係者が多かったが、10月頃から、電子メールや表計算など、企業内個人をターゲットにしたITシステムのフロント部分を手始めに、さまざまなサービスが出現している。直販主体の米国の「SaaSビジネス」と異なり、「従来の商流を維持」するチャネル販売主体の「日本型SaaSモデル」として定着するか注目される。(谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文)
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
