IP電話や携帯電話、メールなどビジネスコミュニケーションを1つのインターフェースに統合する「ユニファイドコミュニケーション(UC)」分野にビジネスチャンスが訪れようとしている。一般オフィスの導入機運が高まりつつあることが要因だ。そのためベンダー各社は、VoIP(音声のIP化)やネットワークインフラ構築、アプリケーションサービス、サーバーのホスティング、コンサルティングなど、さまざまな切り口からUC関連の製品・サービスを提供、新規顧客の開拓に力を注ぐ。
ベンダーの事業拡張相次ぐ
大塚商会は、従業員500人前後の企業をメインターゲットとして、UCで業務効率化やコスト削減が図れることを提案。高井良英・NW販売2課課長は、「IP電話やウェブTV会議、内部統制など、さまざまな方向から提供していく」としている。UC事業を対応範囲が増やせるビジネスと位置づけ、「従業員100人以下の企業でも需要を増やしていく」方針だ。
日本ユニシスグループでは、ユニアデックスとネットマークスの連携強化でUC事業に乗り出している。シスコシステムズ製品をベースとしたネットワーク構築で国内屈指の実力を持つといわれるネットマークスと、マイクロソフト製品を中心としたシステム導入で定評のあるユニアデックスのタッグで、コンサルティングからシステム構築、ネットワーク運用までの総合サービスを提供できると自信をみせる。UC関連ビジネスとして、現段階では売上高がネットマークスで80億円、ユニアデックスで20億円、合わせて100億円規模を見込む。ユニアデックスの角泰志・常務執行役員は、「今後3年間で、現在の2倍にあたる200億円にもっていく」としている。
ネットワンシステムズは、「ユニファイドコミュニケーション事業推進本部」を今年9月1日付で設置した。同事業部では、IP電話機やSIP(呼制御)サーバーをベースとして、音声や映像に関する製品・サービスを法人向けに提供している。当面は、シスコシステムズのLANやWANなどに関連するインフラ機器と、VoIPのアプリケーションサービスを組み合わせる。加えて、「アプリケーションサービスの拡充にも力を入れる。自社開発のほか、アプリケーションベンダーとのアライアンスを積極的に進める」(大塚浩司・ユニファイドコミュニケーション事業推進本部長)考えを示す。販路については、サービスプロバイダやリセラー経由での拡販を模索。「2010年度(11年3月期)までに300社は確実にユーザー企業として獲得できる」と自信たっぷりだ。
データセンターを強みとし、ネットワークの運用・監視やサーバーのホスティングを切り口にUC事業を手がけるのは日立情報システムズだ。提供形態のひとつとして、「来年4月をめどに仮想化を使ったASP/SaaSを計画している」(迫勝彦・アウトソーシングセンタ事業部第一DC本部主管技師長)という。ほかにも、既存PBXでUC環境を作ることが可能な製品・サービスの提供を進めている。このほどネットワーク分野で通信事業者のAT&Tグループと提携したことから、「顧客への提案の幅が広がった。さまざまな切り口で案件を獲得する」方針だ。UC関連のアプリケーションサービスで、「3年後に売上高10億円規模を見込む」と試算する。
富士通ビジネスシステム(FJB)では“オフィスイノベーション”というコンセプトを掲げ、その一環としてUC事業を手がけている。まずは、昨年8月に280人規模となる同社の関西拠点でテスト的に導入。電子ファイリングによるペーパーレス化、SFAと携帯電話の連携でどこでも業務報告が可能な環境を整え、「1年間で約2000万円のコスト削減につながった」(小林隆・マーケティング本部ネットワーク・セキュリティビジネス推進部長)という。この実績をベースに、ユーザー企業を開拓しており、「ネットワーク関連では今年度(08年3月期)上期の時点で230件弱、前年同期比15%増となった。当面は15-20%増で成長させる」という。今後は、ウェブシステム開発ツール「WebAS Component Framework」と連携させるなど「UC関連ソリューションの拡充を進める」としている。
三井情報は、コンタクトセンター向けIPテレフォニー関連システムの実績をもとにUC事業の拡大を図る。まずは、従業員2000-3000人規模の企業を対象に来年度(09年3月期)上期までに10件の案件獲得を目指す。大型案件の導入事例をもとに、次のステップとして1000人以下の企業にもすそ野を広げ、最終的には「300人前後をボリュームゾーンと捉え、ユーザー企業を増やす」(森山敬一郎・コミュニケーションビジネス第一本部事業推進グループマネージャ)方針。
NECは、大企業を対象に多くのユーザー企業に対する導入実績を持ち、UCに関連した「エンタープライズコミュニケーション事業」で今年度(08年3月期)の売上高を「国内外を合わせて3000億円程度」(石田圭司郎・企業ソリューション企画本部マネージャー)と見込む。現段階では直販がほとんどだが、「来年度以降は、SMBでのニーズも増えるだろう」とみており、販売代理店経由の拡販を図るため、「パートナーシップの強化が図れる戦略を練っていく」としている。
UC事業が主導権を握るカギに
UC(ユニファイドコミュニケーション)事業への参入が相次いでいるのは、アプリケーションを含めたVoIPサービスの導入によるワークスタイルの変革や業務効率化、ビジネスの拡大を図ろうとする意識がユーザー企業に現れ始めているためだ。IDC Japanによれば、国内VoIPサービス市場規模予測は2006年に前年比59.3%増の1720億円だった。さらに、2011年までの年間平均成長率は25.9%で推移すると分析している。
ニーズに対応するため、ベンダー各社は事業の拡張に力を注いでいるが、一方でコンピュータとネットワークの両方を網羅しなければビジネスが成り立たないため、「他社との差別化が図れる」という利点もある。両方の事業を手がけるベンダーにとってはUC事業を通じて情報通信業界で主導権を握れる可能性も秘めていることになる。そのため、従来は異なった事業として手がけていたコンピュータ関連とネットワーク関連それぞれの製品・サービスを組織連携などで総合的に提供するといった動きも出ている。
大塚商会は、ネットワーク事業を手がける企業通信システム営業部NW販売課が中心となってUC関連の製品・サービスを販売している。このたび「Microsoft Office Communications Server(OCS)」が発売され、マーケティング本部テクニカルプロモーション部Microsoftグループによるサポートが可能となり、組織横断でビジネスを手がけられるようになった。下條洋永・Microsoftグループソリューション担当課長は、「UC関連のシステム案件で、ライバルは複数社が組んで動いているのに対し、当社は1社でソリューションを提供できる。この点はユーザー企業にとってメリットが大きい」とアピールしている。
富士通ビジネスシステムでは、現段階でネットワーク・セキュリティの点からUC事業を手がけているが、「今後はマイクロソフトの『OCS』をベースとした提供も増える可能性が高いため、コンピュータ関連の組織と密に連携していく」(小林隆・ネットワーク・セキュリティビジネス推進部長)考えを示す。
マイクロソフトが「OCS」を市場投入したことで、コンピュータとネットワークの距離が縮まり、SIとNIの融合が具現化するとの見方もある。そのため、UC事業の拡大に向け、「OCS」の積極的な販売に意欲をみせるベンダーもある。マイクロソフトがネットワーク領域まで主要事業のすそ野を広げたという点も含め、SIとNIの融合ビジネスがベンダーにとっては成長のカギを握ることになりそうだ。