ネットワーク関連機器メーカーのH3Cテクノロジーがワールドワイドでのシェア拡大に積極的だ。中国ファーウェイテクノロジーズと米スリーコムの合弁で2003年11月に設立された同社は現在、H3Cとスリーコムの2ブランドで製品を販売している。欧米ではスリーコムブランドが中心。H3Cブランドでのビジネス展開は主に中国だが、浸透していない地域でのブランド向上に力を注ぐ。シェア拡大に向けて重視しているマーケットは日本だ。(佐相彰彦●取材/文)
■仮想化でリード許す 強み生かし差別化へ 同社の昨年度(06年12月期)売上高は7億1200万ドル(約780億円)で、年間平均70%もの成長率で伸びている。
ワールドワイドでの体制は、社員数が計4500人。オペレーションセンターを中国・杭州に置き、中国国内30か所と米国、日本、英国、ドイツなどに営業拠点を構えている。北京と深、杭州、インドにR&D(研究開発)センターを持ち、R&Dへの投資比率は売上高の15%。4000種類以上の特許やライセンスを有している。生産面では、EMS(電子機器の受託生産)会社の活用でコストを抑え、競合他社より低価格で販売できる体制を築いており、本社と同じ敷地内にある工場ではコア部分の生産のみを手がける。
製品面ではIPにつながる製品を幅広く市場投入している。ネットワークとストレージ、セキュリティなどを中心に、ITとIPを統合するコンセプト「IToIP」を提唱。IPインフラストラクチャ、アプリケーション・アーキテクチャ、ITビジネス・プロセス・アプリケーションの3階層で製品を提供することに力を注いでいる。
ワールドワイドでのスイッチ市場では30%近くのシェアを獲得しており、設立から4年でシスコシステムズやジュニパーネットワークスなど米国の大手ネットワーク関連機器メーカーと肩を並べるメーカーとしての地位を固めている。業績が好調なのは、中国ファーウェイテクノロジーズと米スリーコムの合弁会社としてH3Cブランドとスリーコムブランドの両輪でビジネスを手がけていることがポイントといえよう。欧米でスリーコム、アジア地域でH3Cのブランドで製品を販売。各地域で馴染みのあるブランドでビジネスを手がける戦略が功を奏している。
■グローバル事業の速度が課題 アライアンスを積極的に  |
| H3Cテクノロジー | ネットワーク機器メーカーの米スリーコムと中国ファーウェイの合弁で2003年11月に設立。設立当初は、ファーウェイが51%、スリーコムが49%という出資比率だったが、その後にファーウェイ51%、スリーコム49%と比率が逆転。今年春にはスリーコムがファーウェイの持株すべてを買収して100%子会社化した。現段階では、ファーウェイがある程度の株を買い戻すという話も出ている。 もともとは、「ファーウェイスリーコム」の社名だったが、今年に入ってから「H3Cテクノロジー」に変更している。スリーコムの100%子会社になったことで、オペレーション面などで米国の外資系企業的な要素が現れ始めている。これにともない、H3Cテクノロジージャパンも社内組織が設立当初と比べて格段に強化されている。 日本のネットワーク業界では、マーケットで知名度を浸透できるかどうかに注目が集まっている。 | | | |
こうした成果を出している一方、課題に掲げるのはグローバルビジネスだ。グローバルでの戦略やアライアンスを担当するローズ・チェン上級副社長は、「設立から4年が経過し、グローバルビジネスの速度が落ちたのは事実」と打ち明ける。確かに、これまでのビジネスは本拠地の中国とスリーコムブランドが浸透している欧米が中心だ。それ以外の地域では知名度が高いとは言い切れない。ブランドが浸透していない地域で、いかにビジネスの拡大を図れるかが課題となる。
なかでも、着目している地域の1つが日本市場だ。チェン上級副社長は、「ワールドワイドのブランド向上に向け、日本は戦略的なマーケット」としている。同社の設立前は、日本で「ファーウェイ」と「スリーコム」の両製品が市場に出回っていた。設立後はブランドを統一。しかし、日本法人の体制や日本での知名度が低かった点などから、なかなかシェアが伸びていない。そこで、「日本法人が迅速にビジネスを伸ばせる体制を整えなければならない」と判断している。
日本法人のH3Cテクノロジージャパンでは、昨年後半から組織体制を強化している。ネットワーク機器業界を渡り歩いてきた陳宇耀氏を代表取締役に据え、スタッフの多くはシスコシステムズやジュニパーネットワークス、アライドテレシスなど大手ネットワーク機器メーカーからの転職組だ。日本市場で本格的なビジネスを手がけられる布陣を敷いた。次のステップとして重視しているのは販売代理店とのパートナーシップ。チェン上級副社長は、「さまざまなアライアンスを組むことが重要。日本では、パートナーシップの深耕に向けた投資は惜しまない」としており、日本法人の権限を拡大することも明らかにしている。
ディストリビュータの1社として、過去にスリーコム製品を取り扱ったこともあるネットワールドでは、このほど杭州にあるH3Cテクノロジー本社と工場を視察したことで、「視察前とは考え方が大きく変わった」(塩田侯造社長)と感想を述べる。日本で出回っていない製品を海外から調達し、“仮想化”など他社と異なったソリューション提案が行える同社にとっては、これまでH3Cテクノロジーは数あるメーカーの1社にすぎなかったといえよう。ところが、視察を通じて「H3Cテクノロジーのオペレーションは非常にしっかりしている」ことを目の当たりにしたことで、「今後は、販売パートナーと力を合わせて日本でH3Cブランドを浸透させる」と意欲をみせる。視察にはネットワールドの販売代理店も参加し、「拡販していく気になった」と話していたSIerもいたほどだ。
H3Cテクノロジージャパンは、「まず近い将来に日本市場でシェア2位を目指す」(陳代表取締役)ことを掲げている。最近では、欧米のネットワーク機器だけでなく、台湾などアジア地域のネットワーク機器メーカーが日本市場に参入するという動きが顕著になっている。“日本で成功すれば世界で通用する”という見方が強いからだ。中国で圧倒的なシェアを確保、欧米ではスリーコムのブランド名で堅調にビジネスを伸ばすH3Cテクノロジーにとっては、販売代理店とのパートナーシップがシェア拡大のカギを握る。