2007年は、「J─SOX法」の“特需”に沸くとみられていた業務ソフトウェア業界。この予測は、若干期待外れだった。08年前半までこの傾向が続き、後半で好転しそうなため、同業界の天気図は「曇りのち晴れ」との予報。新パソコンOS「Vista」は、企業向けに勢いが出始め、4月出荷の新サーバーOSとの相乗効果を見込むベンダーも増えた。(谷畑良胤●取材/文)

業務ソフト業界では、08年4月以降に「J─SOX法」が適用されるため、同法の対象である上場企業やグループ会社、取引先企業がERP(統合基幹業務システム)などを導入する“駆け込み需要”があると踏んでいた。ところが、業務プロセスの文書化やワークフロー製品で業務フローを明確化するなど、「フロントエンド」の整備が優先され、基幹システムへのIT投資を見合わせる企業が相次いだ。
このため、各ベンダーは「J─SOX法」需要を喚起するモジュールの追加やコンサルティングを強化するなど、「潜在需要」を掘り起こす作業を積極化。インフォベックの三浦進社長は「基幹系の見直し時期は必ずくる」とみており、すでに「見込み案件」が多数発生しているという。
オービックビジネスコンサルタントの和田成史社長も「基幹システムの必要性を感じ、じわじわと需要が広がる」とみて、適用後の需要増に期待を寄せる。
前半が「曇り」なのは、08年中に消費税改正といった会計ソフトなどのリプレースを呼び込む、大きな税制・制度改正が現時点で予定されていないためでもある。ただ、「『J─SOX法』の適用などで、企業のコンプライアンス(法令遵守)に対する関心は高まった」(弥生の飼沼健社長)と、中堅・中小企業を“主戦場”としてきたベンダーはターゲットが拡大したとみて、悲観していない。
一方で、既存の販売パートナーモデルを揺るがし、“諸刃の剣”とみられたSaaS(Software as a Service)に、需要拡大の活路を見い出そうとする業務ソフトベンダーも増えてきた。
ピー・シー・エーの水谷学社長は「中小企業市場は、セキュリティや運用・管理の煩雑さを理由に、クライアント・サーバー型製品の導入を見送る傾向にあり、頭打ちだった」と指摘。こうした中小企業に対し、SaaSが切り札になると強調する。OSKの宇佐美愼治社長も、「中堅・中小企業向けは、SaaSや業種業態に応じたソフトをきちんと出すことで、『晴れ』に転じることができる」と、ソフト開発力を高める体制整備を進める。
また、マイクロソフトの次世代プラットフォームが出揃うことも「追い風」になりそうだ。宇佐美社長は「Vista需要も増えつつあり、新OSとの連携製品で、さらに伸ばせる」とみる。同業界全体としては、さほど需要を冷やす不安要因はないものの、国内経済全体の景気に左右されやすい業界であるため、先行きに慎重さも目立った。

上場大手企業は、早々と「J‐SOX法」対策を講じた。この勢いが中堅・グループ会社に波及すれば、市場は好転する。また、大手製造業を中心に、取引先の企業に対し、コンプライアンスを求める傾向が強まり、内部統制に関する需要も同法対象以外に進むことになれば、業務ソフト市場全体を押し上げる。
「J‐SOX法」の関連では、すでに「見込み案件」が発生している。しかし、システムを提供する側が、その必要性を十分説明できず、他のシステムへの投資が増えれば、現状を打開できず、平行線をたどる可能性がある。そのためにも、各社は上流工程のコンサルティングを強化していく方向にある。
「J‐SOX法」やマイクロソフトの次世代プラットフォームの市場投入など、業務ソフト業界に“特需”を呼び込むトリガーは多い。ただ、単に既存業務にあてるために業務ソフトを提案する方法では、通用しない。各企業に応じた特化ソフトの開発スピードを上げる努力を怠れば、市場は伸びずに終わる可能性がある。