「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」でIT市場が拡大しそうだ。厚生労働省はメタボリックシンドローム該当者の減少を目的に、「特定健康診査(特定健診)・保健指導」を医療保険者に対して義務化し、4月1日からスタートさせる。医療保険者や健康保険組合は、健診と指導情報管理のために、情報システムの導入を余儀なくされる。病院などの医療機関も、同制度開始を機にシステムの導入・刷新を検討し始めた。調査会社によると、情報システム関連だけで4000億円強のマーケットになると予測されている。数年前に流行語となった“メタボ”が、IT需要を喚起する起爆剤として再び脚光を浴びそうだ。
「情報システム関連だけで08年は4097億円のマーケットに成長する」 調査会社、矢野経済研究所の加藤正嗣・上級研究員チームリーダーはこう予測する。「受診率95%と仮定した場合の数値だが、『特定健診・保健指導』の義務化で、医療保険者などはデータ管理のための情報システム投資を確実に増やすだろう。医療機関が今回の制度開始を機に、電子カルテやレセプト診断システムを導入・刷新する可能性も高い」。
「特定健診・保健指導」は、生活習慣病と重症化予防のために、厚生労働省が全国の医療保険者に対し義務付けた制度。医療保険者は、4月1日から医療保険加入者に対し「メタボリックシンドローム」該当者・予備群かどうかを調べる(特定健診)とともに、該当者・予備群に改善指導(保健指導)を行わなければならなくなる。
対象となる医療保険加入者は、全国に約5600万人。膨大な医療保険加入者の健診・指導情報を管理するためには情報システムが必須で、IT投資につながるわけだ。また、病院などの医療機関も新制度の開始に触発され、電子カルテやレセプトシステムの導入・刷新を検討し始め、さらに需要を押し上げる。“メタボ”関連では情報システム以外に、食品や家庭用健康機器の需要拡大、フィットネスクラブの会員増加など、業界横断的にさまざまなニーズが生まれるというが、加藤チームリーダーはそのなかでもデータ管理のためのシステム需要の伸びをかなり高くみている。
実際、すでにメタボ関連投資が生まれている。約1520の健康保険組合(健保組合)で構成する連合組織の健康保険組合連合会(健保連)は、健保組合が特定健診・保健指導データの蓄積・管理にはITが必要と判断。管理するシステムを健保組合が個別に開発するのは負担が大きいとみて、オンラインで共同利用できるシステム「特定健診・特定保健指導共同情報処理システム」の開発を決めた。NTTデータと三菱電機が一般競争入札で落札し、開発を進めている最中だ。
今後の需要増加を見込んで、商品を揃えたSIerも。医療・福祉機関に強い日本事務器(NJC)は、実際に診査・指導を行う健診センターに目をつけた。診査データを入力すると、受診者に対し、どのような保健指導を行えばよいかが分かるシステム「ヘルスケアマスター」を国立健康・栄養研究所と共同開発。「同等の機能を提供する競合はいない」と末永義昭・取締役医療・福祉ソリューション事業本部本部長は出来栄えに自信をみせる。健診センターは全国に約3000か所ある。代理店を募集し間接販売も手がける計画で、「2年間で1000か所に導入したい」と意気込む。
一方、日本ビジネスコンピューター(JBCC)は、新制度開始が病院などの医療機関のIT需要を喚起するとみる。三星義明・医療ソリューション事業部理事事業部長は、「新制度は健診・保健指導システムだけにとどまらないだろう。医療機関も影響を受けるはずで、電子カルテシステムなどを売り込む。この2年ぐらいが勝負」と話す。100-300床の中堅病院をメインターゲットにし、2-3年以内に医療機関向けビジネスを今年度(08年3月期)見込みの約3倍にあたる30億円に引き上げようと目論む。
特定健診・保健指導は、メタボリックシンドロームという言葉を再び流行らせるだけでなく、IT業界に特需をもたらす存在にもなりそうだ。

「特定健康診査・保健指導」
国民の生活習慣病発症と重症化の予防を目的に、
厚生労働省が打ち出した新制度。「メタボリックシンドローム」の該当者とその予備群を抽出するのが「特定健康診査(特定健診)」で、該当者・予備群に生活習慣改善のために指導するのを「保健指導」と位置付けている。今年4月1日から医療保険者に実施を義務化し、医療保険者は、医療保険加入者(国民健康保険などの被保険者・被扶養者)に向けて特定健診・保健指導を行わなければならない。対象は40歳以上74歳以下の医療保険加入者で、全国に約5600万人いるといわれる。厚労省は、2015年度までにメタボリックシンドローム該当者・予備群を25%減少させることを目標に掲げている。13年度からは、医療保険者ごとの達成状況に応じて、「後期高齢者医療支援金」の加算・減算を実施する計画だ。