リコー（近藤史朗社長）は、世界の「プロダクションプリンティング（大量印刷）」市場へ本格的に参入する。ここ3年間は、得意分野の一般オフィスプリンタに加え、「成長領域」として日立製作所と米IBMから相次ぎプリンタ部門を買収。基幹／POD（プリント・オン・デマンド）プリンタを自社製品群に組み入れたことで、高速プリンタ「連帳／カット紙」などを含めた製品群を米ゼロックスと同等に揃えた。リコーは販売・サポート体制の整備やSIerとの連携を強化し、2010年度（11年3月期）に単年度で世界の売上高を2500億円に到達させる計画。両社の競争が激しさを増しそうだ。（谷畑良胤●取材／文）

■買収などで製品群を拡充

　リコーは04年10月、日立の子会社で高速プリンタ事業を展開していた日立プリンティングソリューションズの全株式を取得し、「リコープリンティングシステムズ（RPS）」を設立。07年1月には、米IBMの「プリンティング・システム事業部」を基盤とした合弁会社の設立に合意。同年6月、合弁会社「InfoPrint Solutions Company」は、世界に約1200人の社員を抱える会社として営業を開始している。さらに、同年4月にはリコー内組織として「プロダクションプリンティング事業部」を立ち上げた。リコーは来年度（09年3月期）中に、これらの会社が持つ技術を融合した高速プリンタの新製品を製品群に揃える計画だ。

　ここにきて、「成長領域」の1つとして取り組んできた「プロダクションプリンティング」事業を本格的に展開できる体制が整ったことから、このほど、具体的な事業計画が明確になった。それによると、同事業の領域を4つに分類して、各領域別の製品と販売の基本戦略を策定。特に大手企業の基幹システムや商用印刷向け構築を得意とする国内と世界のSIerなどとの協業を加速する。村田巳晋・事業戦略室長は「当社にとって経験の少ない『ITの本丸（基幹システム）』に攻め込む分野。この領域のシステム構築に強みを持つベンダーとのアライアンスが必須となる」とみて、協業ベンダーの協力を仰ぎつつ、ITシステム全体を包含する「トータルプリンティングシステムプロバイダ」を目指す意向だ。

　同社は「4つの領域」を次のように分類している。①請求書や財務諸表などを印刷する大企業の業務出力センターなどを指す「Data Center」（基幹系）②製品マニュアルや教育資料などを出力する企業内コピーセンターとなる「In Plant」（POD）③コピー店やビジネスコンビニで印刷を行う「PFP（Print for Pay）」（POD）④印刷やDM（ダイレクトメール）事業者などの「Digital Printer」（基幹系とPOD）。この分類を基に、基本戦略を立てた。

　当面は、「Data Center」領域向けに基幹系プリンタの印刷とLP（レーザープリンタ）やMFP（デジタル複合機）を融合した分散印刷の2つを拡大しつつ、請求書などに販促資料などを同時印刷する「トランスプロモ」の需要が旺盛になっていることから、この領域を攻めていく。

■SIerとの協業を積極展開

　同社の製品群である既存のローエンド機やMFP、「連帳／カット紙」プリンタ、買収で得たハイエンド機などと、グループ内の「ITサービス」力で新市場の需要獲得を狙う。村田室長は「InfoPrint社が米IBMから譲り受けたホストとプリンタに関する技術の1つに、基幹システムとプリンタを結んで大量出力の仕分けや出力結果管理ができ、ページや印字のロストや抜けを防止する通信言語『AFP／IPDS』という優れた仕組みがある。協業するSIerは、こうした技術にひと味加え、顧客にシステムを提供することができる。国内の商用印刷関連企業では、過当競争から淘汰の時代が続いているが、新規印刷需要として基幹系やPOD印刷の開拓に取り組む会社が増えており、当社にもチャンスが訪れる」とみる。

　同社では、「プロダクションプリンティング」の市場規模が2013年に世界で約2兆円になると予測。このうち、国内市場は10分の1程度を占めると分析している。プリンタベンダーのうち、オフィス印刷から産業用印刷、基幹系印刷、商用印刷までのすべてを製品群に揃えているのは米ゼロックス（国内では富士ゼロックス）だけ。この米ゼロックスの“牙城”を崩すため、リコーはこの先、販売競争だけでなく、大企業などの基幹システム構築を手がけるSIerなどの獲得合戦に挑むことになる。