景気後退が買い替え時期を先送りに

　今年前半（1－6月）は堅調に推移していた法人PC市場が、通年ではマイナス成長に転じる可能性が出てきた。ユーザー企業・団体がIT投資抑制の矛先をPCにも向けたことが影響する。調査会社IDC Japanでは、1－6月では4％増で成長したものの、第3四半期（7－9月）にマイナスに転じ、通年でも昨年を下回る実績になるとの新たな予測を示した。大手コンピュータメーカーの第2四半期（7－9月）PCビジネス業績も思わしくない。PCはユーザー企業が買い替え時期を計画的に決めているため、比較的景気に左右されにくいといわれるが、景気後退の影響はPCにも例外なく押し寄せている。

　法人向けPCの今年1－6月の出荷状況は、台数ベースで4％増、金額はほぼ横ばい（IDC Japan）。法人向けPC市場は2006年、07年と直近2年間ともに前年を下回るマイナス成長で元気がない。一転、今年の前半戦は好調で、3年ぶりのプラス成長に転じる可能性があった。

　しかし、7月以降にその状況は一変することとなった。IDC Japanの片山雅弘・PCsグループマネージャーは、7－9月の出荷状況について、現在詳細を分析中と前置きしたうえで、「台数、金額ともにマイナス成長に転じる可能性が高い」との感触を表明する。円高の影響などが実体経済に影響するとみて、ユーザー企業・団体がITコスト削減を従来以上に意識し買い替え時期を先送りするという理由からだ。片山グループマネージャーはこうも指摘する。「10月以降も買い控えの流れは止まらない。結果、08年通年では台数、金額ともに昨年を下回るだろう」。

　PCは一般的に景況感に左右されにくい商品といわれる。ユーザー企業はPCの買い替え・入れ替えサイクルを事前に見積もり、数年後まで予算化。全社員に貸与する重要なITハードインフラとの認識もあるため、IT予算が減額されても影響を受けにくいからだ。つまり、ITベンダーにとっては、底堅いIT商品というわけだ。加えて、今年から来年にかけては、03年前後に「Windows XP」搭載マシンを導入したユーザー企業のリース切れ時期。市場が盛り上がるのは事前に予想されていた面もある。2年間減少していたものの、今年はある程度の出荷は見込めていた。それだけにマイナス成長に転じれば、IT業界に与えるインパクトは大きい。

　メーカー上位陣のPC業績はどうか。トップシェアを誇るNECは、今年度上期（4－9月）の出荷台数が前年度に比べて5000台落ち込んだ。個人向けモデルも含んだ数値だが、法人向け製品の台数減少が響いたともみられる。7月に、部品調達難による3週間の出荷停止が発生した影響だ。事実、4－6月では昨年同期比で7万台増だったのに対し、7－9月では同7万5000台減少している。一方、富士通も厳しい。4－9月の売り上げでみると、前年同期比マイナス成長となった。海外市場で価格競争に巻き込まれた影響が大きいが、国内もマイナスで、その理由として第2四半期の企業向け需要伸び悩みを挙げている。NECの場合、出荷停止事故がなければプラス成長も考えられたが、国内PC市場の二大メーカーもやはり苦戦している。

　では、厳しくなった環境を打開する提案とは何か。

　一例を挙げれば環境対策だ。ある大手PCメーカーの法人市場担当者はこう話す。「消費者には環境対策は響かないが、法人に対してはかなりのキーメッセージになってきた。環境に配慮している点だけでなく、それで電気代がどれだけ削れるかについてまで説明すると、ユーザーの関心は一気に高まる」。IDC Japanの調べによると、今年1－6月の数値で全体に占めるノート型の比率がデスクトップ型を初めて上回った。無関係な事柄に思われるが、これも実はユーザー企業が環境を意識していることを裏付けている。ユーザー企業がノート型を選ぶ理由は、資産管理の容易さや価格が下がった点があるが、消費電力がデスクトップに比べて少ない点が大きいという。一般的にデスクトップ型の消費電力はノート型の約3倍にもなるからだ。前述の片山グループマネージャーも環境対策がノート型の比率を高めている要因と認めている。

　プラス成長に転じるとみられた法人向けPC市場だが、思わぬ社会情勢の変化で一転、厳しい環境になった。エコ対策は一例だが、買い替え時期、予算に左右されにくいという環境に安穏としてはいられなくなっている。