地域貢献の取り組みも

　地場だからこそ、かゆいところに手が届く、きめ細やかなサポートができる。鳥取県は日本一人口が少ない県だが、一方で産学官連携による地域活性化を図るなどITの利活用に積極的な部分がうかがえる。県内のIT需要をみると、地元に本拠を置く大手ユーザー企業が限られているため、中小SIerの事業も規模が小さくなる。東京から案件を持ってくるベンダーがいる一方で、地場の需要を独自施策で獲得しているベンダーも存在する。地場で需要を獲得するのに重要なのは独自性をもって「自ら仕事を提案できる力」だ。（鍋島蓉子●取材／文）

■メインフレームの置き換え図る　OSS生かしたシステム提案で

　「地元に本拠を置く大手企業が少ないため、（下請けとなる）中小企業も少ない」と、システム開発を手がけるエッグの下士良代表取締役は話す。同社は印刷業を営んでいたが、システム開発に業容を広げ、地場に根ざした展開を行っている。経済状況の悪化により、ユーザーのシステム投資も低調になってきている。そんな状況下で重要なのは「自ら仕事を提案できる力」だと主張する。

　同社は、Linux系OS、PHP、PostgreSQLなど、オープンソースソフトウェア（OSS）に注力。ウェブベースのシステム開発も得意としている。だが「鳥取県下の大手製造業などには、いまだにメインフレームから脱却できていない企業も多い」とも現状を語る。民間企業もさることながら、電子化を進めている自治体にもまだオフコンは存在しており、潜在需要はまだまだ見込める。

　その一方で成長しているユーザーは、すでにウェブベースのシステムに切り替え始めているという。エッグはこれまでに、農業協同組合向けの受注から発送までを一貫して処理する直販オンラインショップシステムや、工場の部品発注システムなど、幅広い業種・業態に対応した多様なシステムの開発実績がある。

　自治体にも起案決裁稟議システムを納入した。起案、承認、決裁、保管に至るまでのワークフローと文書の電子化により、文書管理を容易にして事務処理の時間を短縮する。同社はこのシステムをSaaS／ASP方式で提供している。「メインフレームからのダウンサイジングは、OSSで安価に実現可能だ。ASPで提供すれば運用費も削減できる。メインフレームからのリプレースを進めるのは大変だが、これを導入すれば『運用費がこのくらいにできる』など、メリットを明示できる」（下代表取締役）。

　エッグではシステム納入だけでなく、積極的に地域貢献を行っている。県下の地域医療改善の取り組みにも協力しているのだ。その成果である遠隔診療システムは、皆生療育センターですでに3年間運用している。このシステムは鳥取大学との産学連携により開発したものだ。今年8月には同大学と医療関連の合同会社「アヴィスコ」を設立した。アヴィスコは「特定健康診査、特定保健指導」の指針を提供することを目的としている。例えば山側の地域、海側の地域など、居住地域の特性を考慮して、専門家の分析のもとメタボリック症候群などの検診・指導を行う。

■技術と収益だけ地元へ持ち帰る　東京⇔大阪⇔鳥取、3拠点で活躍

　八頭郡に本社を置くアクシスは、まったく地場にバックボーンのない形で1993年に設立されたシステム開発会社だ。このアクシスの設立前までさかのぼると、IBMとエービーシ（ABC、現富士ソフト）の合弁会社のエー・アンド・アイシステム（A＆Iシステム）に行き着く。91年、A＆Iシステムは福島県や喜多方市、福島商工会議所などの自治体・団体と合弁で喜多方市に「アクシス」を設立する。目的は福島での技術者の育成、Uターンの受け皿などの地域貢献だった。その成果をあげた頃、地域貢献の第2弾として、鳥取の「アクシス」創業に携わったのが現社長の坂本直氏だ。坂本社長は、ABCからA＆Iに出向し、（鳥取の）アクシス設立を担当。福島との相違点は鳥取県、鳥取市、鳥取商工会議所などの出資が得られなかったところだ。坂本社長は設立後、いったんは鳥取のアクシスを離れたが、その後舞い戻ることとなる。「正直、4期連続赤字の瀕死状態で地域貢献どころではなかった」と当時を振り返る。今度は社長として経営に携わる一方で、旧知の企業の大阪支社責任者も2年間兼任していた。そのため東京や大阪で幅広い人脈を形成できた。現在、鳥取、東京、大阪の3拠点で精力的に仕事をこなしている。

　IT産業の首都圏集中が進み、地場のユーザー企業が大手ベンダーにシステムを発注する傾向があるが、坂本社長は「山を越えてきた大手ベンダーからは、結果的に高くてまずいITサービスしか提供されない」と指摘する。地場ベンダーだからこそ、地場のユーザーに対して十分な対応が可能になるとの主張だ。

　同社は鳥取県下の大学などから新卒採用し、若い技術者を東京、大阪に配属している。早い段階からコンペティターや顧客の実状に触れさせ、スキル向上を図っている。鳥取には「技術と収益は持ち帰っても、仕事は持ち帰らない」姿勢を貫く。

　アクシスは特別得意な業界やシステムを持たず、製薬、物流、金融からFA（ファクトリーオートメーション）まで、データベースとネットワークを使ったオープン系システムであれば、幅広く受注する。特色を持たないことが大きな特色といえる。業務ノウハウは、最終的にはエンドユーザー企業が持っているもの。同社はこのノウハウを教わりながら、設計、構築、運用・サポートまで、ITに関連するものはワンストップで提供していく。　今後目指すのは、さらに上流工程の戦略立案から現状分析など、IT化戦略を提言できるコンサル人材を育成するとともに、ソフトの品質やプロジェクトの品質向上を図ること。さらに「システムのシステム」である運用、変更管理などソフトウェアの資産管理についても強化したいと構想を語る。その次のステージで待ち受けているのが、いよいよ地域、首都圏の他ベンダーとの連携だ。

　地方ベンダーでも、特色あるベンダーは地場での需要を確実に獲得している。ユーザーのニーズに合わせたきめ細かく、幅広く対応できるシステム開発と、自ら提案する力を高めることが地方での需要獲得の一つのキーワードと言えそうだ。