鳥取県の携帯電話エリア、ブロードバンドの整備状況、地上デジタル放送エリアのカバー状況などは、100%に近い数値を示しているものの完璧というわけではない。未だ通信インフラが未整備の中山間部が残っている。その問題解決の一助にしようと、県の職員が構築したのが、携帯電話不感地域の住民がグーグルマップを使ってキャリアに基地局設置の要望を申請できるサービスだ。(鍋島蓉子●取材/文)
サイトで住民の要望を吸い上げる
■整備状況9割以上も課題山積 中山間地などへの対策急務 鳥取県の企画部情報政策課ではケーブルテレビやブロードバンドの整備、携帯電話不感地域の解消やテレビ難視聴対策などの格差是正事業などインフラに関わる施策を打っている。
現在の鳥取県の状況を見てみると、携帯電話の世帯カバー率は99.4%(全国平均99.8%=2006年度末)、ブロードバンドは98.5%(全国96%=同年度末)、地上デジタル放送エリアについては95%となっている(08年4月現在)。県内の9割がたの整備は終わっている状況ではあるが、「(携帯に関しては)残りの0.6%にあたる、人口の少ない中山間部への対応が急務となっている」(鳥取県企画部地域づくり支援局、情報政策課の安田敦・地域情報化担当 企画員)と状況を語る。
地デジとブロードバンド環境を同時に整備するのに有効な手段として、ケーブルテレビのネットワーク網を使ったものがある。現在、鳥取県のCATV世帯普及率は都市部を中心に92.2%まで整備が進んでいる。
■グーグルマップで状況を把握 通信キャリアの競争あおる 携帯電話の不感地域も、地デジ未対応エリアと重なっているところが多い。「場所によっては市町村が基地局を立てて、通信事業者に貸し出している」(同)。だが、中山間地域においては住民世帯が1ケタのところもある。こうした地域への対応は、採算がとれないのでキャリアが敬遠するということもあって、なかなか進まないのが実情だ。利用場所によっては、戸外では携帯電話を使えても、家の中では使えないこともある。こうしたデジタルディバイドの解消は、どの地方自治体も抱える悩みだ。

そこで、鳥取県は携帯不感地域の把握・解消のための一助として、昨年、県庁ホームページ内にグーグルマップのAPIを使って住民の要望を受け付けるサイトを立ち上げた。そのサイトには、施策の狙いが記されている。
「あなたのお住まいの地域や職場、出かけた観光地などで携帯電話が利用できなくて不便を感じたことはありませんか? そのような地域への携帯電話エリア拡大の要望をおよせください。
およせ頂いた要望は、市町村や携帯電話事業者の方々と共有し、今後の県内の携帯電話エリアの拡大に活用させていただきます」という内容。外部に発注するのではコストがかかるため、同課の小畑正一・地域情報化担当企画員が空き時間を利用して2か月ほどで作ったサイトだ。
住民はこのサイトで不感解消を要望する地域をグーグルマップを使って指定する。その後、エリア拡大を希望する携帯電話キャリアと現在使っている携帯電話キャリアを指定し、使用状況などを入力したうえで送信する。受け付けた情報を蓄積し、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイルの3キャリアと市町村に公開している。キャリアや市町村が閲覧できる管理サイトでは、グーグルマップ上に住民が指定した場所にキャリアごとに色分けされたアンテナマークが表示されているため、グラフィカルに情報を把握することができる。また、絞込み検索が可能なほか、要望をExcelファイルで出力することも可能だ。「要望については、半年間で700ほど集まった」(小畑企画員)と話す。全キャリアがすべての情報を閲覧できるようにしたのは「不感地域解消の対応において、各キャリアの競争心をあおる意図もある」(小畑企画員)と、狙いを明らかにする。
こうした不感地域の要望情報をキャリアに公開した結果、あるキャリアから中山間地域への対策に前向きな姿勢を示す返答も得るなど、良好な結果をもたらした。小畑企画員は「今後は地上デジタル放送でも同様のサイトを立ち上げて、住民の要望を受け付けたい」としている。
グーグルマップを使ったアイデアは、他県も注目し、問い合わせがきたという。県下のある自治体では、パソコンを使うことができない住民に対し、入力を代行するサービスを行うなど、情報化への取り組みに対する鳥取県の強い意気込みがうかがえる。