吹き荒れる減収減益の嵐
売り上げか、利益か──。景気好転はいつになるかというタイミングが掴みきれないなか、大手SIerの経営戦略の違いが目立ち始めた。NTTデータは向こう4年間で連結売上高を3600億円積み上げる計画を打ち出す一方で、「大幅な売り上げ増は当面期待できず、利益重視でいく」とする大手SIerも少なくない。市況悪化を“チャンス”と捉え、果敢に売り上げを伸ばす戦略に出るのか、あるいは手堅く利益重視に向かうのか。ここ数年の動きが今後のSI業界の勢力図に大きな影響を与えそうだ。
受注環境の悪化で、大手SIerの業績は軒並み悪化している。かねてから収益性に疑問符がついていた客先常駐型や単純な受託型のソフト開発、ハードウェアの販売・保守の落ち込みは大きく、こうした事業の構成比が大きいSIerほど深いダメージを受ける。不況の影響は“弱い部分”によりくっきり現れた形だ。
ITホールディングス(ITHD)グループのインテックの昨年度(2009年3月期)売上高は、前年度比1.9%減、営業利益20.0%減と苦戦。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の昨年度連結売上高も同3.8%減、営業利益同13.3%減と落ち込む。インテックは、顧客から見てコスト構造が見えやすい客先常駐型のビジネスなどが低調に推移した。CTCは主力のサン・マイクロシステムズ製のハードウェア販売が落ちた。また、特定の業種に強いSIerも打撃を受ける。証券に強い野村総合研究所(NRI)や、製造や金融に強い新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、証券・製造不振の直撃を食らった。
こうしたなか、SIerトップを独走するNTTデータは、2013年3月期に連結売上高を国内で1200億円、海外で2400億円伸ばす中期経営計画を発表。国内分だけをとっても年商数百億円クラスの中堅SIer5-6社分はある驚異的な数字だ。これまで10年3月期に連結営業利益率10%を目指すとしていた3か年経営計画を見直し、売上高を昨年度(09年3月期)比で約1.3倍余りに伸ばす野心的な計画に変えた。グローバルの年商ランキングで現在15位の同社は、“上位5位以内に入る”ことを目標に据える。これには年商1.5兆円以上が必要になるという計算である。ユーザーからの値下げ圧力が強まるなか、「へたに利益を求めるより、M&Aなどを積極的に行って売り上げを伸ばしたほうが将来的に有利」(山下徹社長)と、グローバルでの存在価値を高める方針をとる。
追随する大手SIerも、引き離されまいと必死だ。国内SIerの“年商3000億円クラブ”の一員であるITHDは、当初計画を1年延期し、12年3月期に連結売上高4000億円、営業利益350億円を掲げる。3000億円クラブ入りを目指す日立情報システムズは、今期(10年3月期)は減収減益の見通し。ただし、年商3000億円の目標は取り下げず、達成時期の延期にとどめる。「年商3000億円は国内トップグループの地位を得るためには必須」(原巌社長)だからだ。
一方、利益重視の姿勢を打ち出すSIerも少なくない。日本システムディベロップメント(NSD)は、優良顧客と安定的な取引を行うことで生産性を高める「垂直型ビジネスを拡大させる」(今城義和社長)と、従来からの方針を変えない。CTCは「当面、売り上げは伸ばしにくい」(奥田陽一社長)と漏らす。住商情報システム(SCS)は「成長軌道を再構築する」(阿部康行社長)と、付加価値重視で経営に臨む。規模の経済を追求する戦略と、収益重視の方針との違いが顕著に現れている。
不況の底とみられる09年度を“失われた1年”にするのか、“チャンスの1年”にするのかで、今後の勢力に差がつくのは明らか。トップのNTTデータといえども、「流通・小売業で言うところの“既存店ベース”では減収減益」(山下社長)と、直近のM&Aで増やした分を除くと厳しい状態。それでも「ピンチはチャンス」と捉え、拡大路線に打って出る。守勢に回れば縮小均衡に陥りかねないだけに、大胆な施策が求められる。(安藤章司)
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下請け中小SIerへの打撃懸念
大手SIerが厳しい受注競争を強いられるなか、下請けの中堅・中小のSIerへの影響も深刻化している。インパクトが大きいのは、大手SIerによる外注費削減と、中国などオフショア開発の拡大だ。受注減で社内の開発人員の余剰感が強まり、内製化が加速。さらに開発費低減に向けて海外での開発を拡大させる動きが、今回の不況をきっかけとして強まっている。
野村総合研究所(NRI)は、証券業などの需要急減により中国でのオフショア開発が昨年度(2009年3月期)は一時的に減少。開発コストの低減や中国進出を見越した現地のビジネスパートナーとの関係強化などを理由に「今期は再び拡大させる」(藤沼彰久会長兼社長)とオフショア拡大に意欲を示す。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、外注費の低減を掲げると同時に、協業関係にあるインド大手SIerのウィプロ・テクノロジーズとのビジネスを増やす方針を示す。ユーザー企業からの値下げ圧力に応え、かつ利益を確保するために、海外での開発比重を増やす大手SIerが増えそうだ。
ほかにも、日本システムディベロップメント(NSD)は、08年3月期に67億円ほどあった外注費が、09年3月期には約60億円に減少。10年3月期には51億円に減る見込みだ。外注を使わなくても「社内でこなせるようになった」(今城義和社長)のがその理由だ。日立システムアンドサービスは、直近で約5900人月の外注関連人員の規模を今年度(10年3月)約10%削減する見通しを示しており、外注費削減の動きは当面続く様相である。ただ、大手SIerの多くは、「選別を強化する」(CTC)、「特徴ある重点パートナーへの発注は継続」(日立システム)などと、“一律に外注費を削る”方式ではない。特徴あるパートナーとの関係は引き続き重視する。中堅・中小SIerは、強みをいかに明確化できるかが勝ち残りの条件となる。(安藤章司)