パッケージソフトビジネスが厳しさを増している。今年8月下旬、CD/DVD書き込みソフト「B's Recorder」を開発していたビー・エイチ・エーの自己破産が明るみに出た。コンシューマ向けパッケージソフトの市場全体をみても落ち込みが激しく(図参照)、販売不振は特定企業だけの問題ではない。コンシューマの動向が一定のタイムラグを経てビジネス市場にも波及する経験則からすると、個人・法人の双方でビジネスモデルの変革が強く求められる時だ。
B'sRecorderは、パソコン好きなら一度は名を聞いたことのある有名ソフトだが、Windows Vista以降のOSに標準でCD/DVDへの書き込み機能が搭載されたことが響いた。過去のインターネット黎明期にも、OSがインターネット接続機能を標準で装備するようになり、通信関連のソフトが軒並み打撃を受けたことがある。
しかし、こうしたパッケージソフトベンダーの不振は、OSだけが原因ではない。最大の弱点は、国内パッケージソフトベンダーの経営戦略が少なからず失敗している点にある。ユーザーが「これなら対価を支払ってもいい」と思う商品や仕組みをつくる戦略が見えてこない。
インターネットによるソフト流通も日増しに存在感を増す。先のCD/DVDへの書き込みのジャンルでも、すでに高性能なソフトがフリーで出回っている。オープンソースソフト(OSS)での開発が先行するケースも増え、同方式によるソフトの代表例ともいえるLinuxは、今や企業の基幹業務システムを支えるまで成長した。
では、企業がパッケージソフトで儲けるのは、もう不可能なのか? 答えは「否」である。DTP(デスクトップパブリッシング)で伸びてきたアドビシステムズは、PDFやFlashでデファクトスタンダードを獲得し、今や企業の業務システム分野でも勢力を拡大している。Googleはクラウド方式を採用して文書作成や表計算ソフトを無償で公開。マイクロソフトの稼ぎ頭であるOfficeを脅かす存在になりつつある。クラウドを支える仮想化ソフトのヴイエムウェアも急成長した。
伸びるベンダーは、ソフトの品質もさることながら、経営戦略の面でも大きくリードしている。アドビはフォーマット争いで勝ち、Googleはクラウドを前面に打ち出し、ヴイエムウェアはクラウドの潮流を巧みに活用した。
“ソフトをつくれば売れる”時代は終わった。すぐれたソフトはOSSも含めてネット上に山ほどある。ソフト開発を軸としながらも、緻密な経営戦略に基づく新しいビジネスモデルの創出がなければ、生き残りは難しい。ソフトの存在意義が薄れたのではない。ソフトビジネスの近代化、高度化に向けた改革が必要なのだ。(安藤章司)