サービスビジネスでチャンスを掴む地方有力SIerが相次いでいる。岐阜県の電算システムはGoogleとSAPを組み合わせ、静岡県のビック東海は受託ソフト開発とアウトソーシングなどのストックビジネスの営業利益構成比を逆転させる。両社ともに自社のデータセンター(DC)を拡充し、大きなうねりとなって押し寄せるクラウド/SaaSモデルの流れに舵を切る。リーマン・ショックから1年。受託ソフト開発を中心とする古いビジネスモデルの地方SIerが一様に苦戦するなか、いち早くサービスシフトの潮流に乗ったSIerは業績を伸ばしている。
“装置産業化”でシェアがカギ
約50人の規模で前年同期比10.7%増、600人近くの人員を投入して同5.5%減──。これは電算システムのビジネスモデルを端的に示した数字である。同社はガソリンスタンドやコンビニの料金収納代行サービスとSIの二本柱で伸びてきた。今年度中間期(2009年1~6月期)では、不況の直撃を受けてソフト開発が落ち込んだものの、サービス型の収納代行は影響を最小限にとどめた。驚くべきは、両事業に従事する人員の差。サービス型は限りなく装置産業に近く、ソフト開発は労働集約的な側面をみせる。
昨年度まで30期連続増収を成し遂げてきた電算システムの宮地正直社長は、「業績を伸ばすには他社にないビジネスモデルが欠かせない」と、SIビジネスにもサービスモデルの適用を急ピッチで進める。目をつけたのが、クラウドで先行するGoogleとERP大手のSAPとの関係強化だ。Googleやクラウドへの関心の高さをテコに新規顧客へ切り込み、基幹システムはSAPを提案する。クラウドとパッケージの合わせ技で岐阜から名古屋商圏へ進出し、さらに首都圏へと攻め上がる。09年12月期の全社業績は減益見通しではあるものの、連結売上高は前年度比6.1%増の178億円を見込む。サービスビジネスを軸に差別化を進め、早い段階で年商300億円、営業利益率10%を目指す。

通信やCATV事業を担うグループ会社と05年に合併したビック東海は、情報と通信の融合を推進。ソフトの受託開発からアウトソーシングやクラウド/SaaSなどサービスビジネスへと軸足を移してきた。08年3月期は情報サービス事業の営業利益に占める受託開発の比率がサービス型の2倍以上あったが、これを09年3月期にはほぼ五分五分に。11年3月期には逆転させる方針を打ち出す。収益力の向上をテコに全社の10年3月期の連結売上高は前年度比12.3%増の429億円、営業利益は同13.3%増の51億円を予想。早川博己社長は、「早い段階で営業利益を100億円規模へと倍増させる」と鼻息が荒い。
同社では2008年4月に静岡県焼津市の第二DCを稼働させ、クラウドストレージやSaaS型メールシステムなどのサービスメニューを大幅に拡大。先の電算システムは今年7月、岐阜県大垣市にDCを開設し、サービス事業の拡大に備える。しかし、課題はある。クラウド/SaaSを始めとするサービスビジネスは、規模が小さければ利幅が狭くなってしまう。シェアの拡大によって利益を最大化し、DCや通信網への投資を増やす正のスパイラルの構築が必須となる。

電算システムの宮地社長は、「過去において最大の失策は、料金収納代行を全国津々浦々に展開できなかったことだ」と、振り返る。クラウド/SaaS市場の急拡大は、サービス型へシフトする大きなチャンスであると同時に、激しいシェア争いの幕開けでもある。中堅SIerの優勝劣敗、ビジネスモデルをつくり上げる力量の差が、これまで以上に明確化するのは避けられない見通しだ。(安藤章司)
【関連記事】中堅SIerの勝ち残り策
提携、M&Aで規模のメリットを
情報サービス産業は、年商1000億円を超える大手SIerと、100億円未満の中小との二極化が進んでいる。こうしたなか、難しい立ち位置に追い込まれているのが年商数百億円でそこそこの規模をもつ中堅SIerである。需要が限られる地方商圏を地盤とするSIerなら、不況のあおりでなおさら厳しい。
クラウド/SaaSの潮流は、GoogleやAmazonを例に挙げるまでもなく、規模の論理が強く作用するビジネスだ。中小SIerならば、既存のパブリックなクラウドを活用し、周辺サービスの構築で、売り上げを伸ばすことも可能だろう。しかし、すでにある程度の年商規模があり、かつ受託計算などの流れを汲むデータセンター(DC)を自社で抱えるSIerの損益分岐点はそれほど低くない。単純なクラウド/SaaSへの移行では、むしろ伸びが鈍ることも考えられる。既存の資産を最大限に生かしつつ、特色あるビジネスモデルの確立が不可欠だ。一度確立すれば、半導体メーカーのように、売れれば売れただけ、利幅が大きくなる。
首都圏から関西圏まで太い光回線網を構築しているビック東海は現在、DCを保有する地域のSIerとの協業を模索している。装置産業化するクラウド/SaaSビジネスに打ち勝つためには、自社のDCだけでは規模のメリットが十分に発揮できない。光回線の有効活用も含め、同業他社のDCとの連携によるスケールメリットの追求を進める。「すでに5~6社と協業に向けた具体的な話し合いを始めている」(早川博己社長)と、共存共栄の道を探る。
大手もこれと同様の動きをみせている。ITホールディングス(ITHD)はグローバルでDC設備をもつ英ブリティッシュ・テレコミュニケーションズ・ピーエルシー(BT)と提携。M&Aをテコに世界進出を進めるNTTデータと激しい規模の競争を繰り広げる。
中堅SIerも過去の価値観に縛られることなく、全国規模でのスケールメリットを追求する時期に来ている。(安藤章司)