グループウェア(情報共有システム)の市場は外資系大手の攻勢が続いている。セールスフォースやグーグルは着実に市場を開拓し、マイクロソフトはクラウドサービスプラットフォーム「Azure Services Platform」を推進。クラウドで出遅れていた日本IBMは、クラウドで提供する「LotusLive」の新サービス群を10月23日に発売した。国産ベンダーはといえば、サイボウズが「単独での事業展開に限界を感じた」(青野慶久社長)として、マイクロソフトとグループウェア製品の開発・販売で業務提携することを表明しており、エンタープライズ領域の攻略に本腰を入れ始めた。今後は日本IBMのクラウド参入で、グループウェアをめぐる勢力争いは激しさを増しそうだ。
プラットフォーム握る外資
マイクロソフトやグーグル、セールスフォースは、スケールメリットと豊富な販社網を駆使し、とくにエンタープライズの領域では広く受け入れられている。国産ベンダーとの大きな違いは、PaaSを提供するプラットフォーム戦略を打ち出している点だ。
日本通運の営業人員約6000ユーザー規模のセールスフォース製CRM(顧客情報管理システム)を受注し、来年3月までに本格稼働させる予定のキヤノンマーケティングジャパンは、「CRMというアプリケーションのみならず、セールスフォースのSaaSアプリが稼働するクラウド基盤“Force.com”に大きな可能性を感じる」(市川修・流通サービス営業本部第三営業部長)と指摘。将来的にForce.comと連携したフロントオフィスシステム構築を視野に入れる。
マイクロソフトのサイボウズとの業務連携は、クラウド基盤との連携に向けた布石と受け取れる。サイボウズは、「SharePoint」をベースにしたグループウェアを開発することを発表。「Microsoft Office Share Point Server」を拡販したいマイクロソフトの考えと、マイクロソフトの販社網を活用し、SMB中心からエンタープライズ領域への事業拡大の足掛かりを築きたいサイボウズのもくろみが合致したという経緯があるのだ。グローバル展開するマイクロソフトの樋口泰行社長は「日本の文化や商習慣にきめ細かく対応するには、付加価値をもつパートナーとの連携が不可欠」と、今後もパートナー企業の拡大を進める構えだ。セールスフォースは、サイボウズのスケジュール管理など一部機能と同期させる機能を実装し、他社アプリケーションとのデータ連携も推進している。導入期間を短縮し、「最小限の運用コスト」(米セールスフォースのマーク・ベニオフ会長兼CEO)で利用できるのが特長だ。
クラウドで先行するマイクロソフトとグーグル、セールスフォースに宣戦布告する日本IBMが発表した「LotusLive」の新サービス群は、プロフィールやプロジェクト・タスクの管理、ファイル共有などのコラボレーション機能と、Web会議やビデオ会議などのオンライン会議の機能を実装する「IBM LotusLive Engage V1.0」などを揃える。森島秀明・Lotus事業部新規事業開発兼ブランド戦略担当部長は「企業間を超えての連動性や個々のモジュール間の連動性が高いところはIBMならでは」と自信を示す。
国産ベンダーは、生き残りをかけて低価格を売りにクラウドサービスを展開している。「desknet's」を開発・販売するネオジャパンは、経済危機を理由にユーザー企業の案件凍結が目立つなかで「安価」を前面に出し、競合他社製品のリプレースも提案。クライアント/サーバー型のグループウェアがリプレース時期を迎え、引き合いが増えているという。国産ベンダーの多くは顧客層がSMB中心で、ネオジャパンも例に漏れない。グーグルやマイクロソフト、セールスフォースなど、外資系大手に対しては「あくまで彼らが主眼としているのはPaaS。当社はSaaSに力を入れる。顧客の要望があれば、J-SaaSに限らず、マイクロソフトのAzureなど他のプラットフォーム上での提供も視野に入れる」(中沢仁・マーケティング統括部プロダクトマーケティング担当執行役員部長)と、PaaSに対しては慎重な姿勢を崩さない。あくまでも国内のSMB向けに注力し棲み分けを図る考えで、ライバルのサイボウズとは対照的な戦略を打ち出している。(信澤健太)
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ベンダーは敵対から共存へ
国内のSMB向けに注力するネオジャパンと、エンタープライズ市場でのシェア拡大に加え、再度の海外進出という目標を掲げるサイボウズは対照的なベンダーにみえる。現在グループウェアを取り巻く状況はといえば、国産ベンダーを取り込んで、プラットフォームを拡大し続ける外資系大手がスケールメリットで攻勢をかけている一方で、国産ベンダーは自前か提携かで選択を迫られているところだろう。サイボウズが危機感を抱き、マイクロソフトとの業務提携の道を選択したのは、こうした背景があったからに違いない。
「LotusLive」は、セールスフォースやLinkedln、Skypeなどと連携し、「ジョイントする関係」(日本IBMの三浦美穂・ソフトウェア事業ロータス事業部事業部長)であるように、ベンダー同士は敵対から共存する関係に移りつつある。プラットフォームを握る外資系大手は、パートナー企業の得意分野やノウハウを十二分に活用し、シェア拡大をもくろむ一方、パートナー企業はスケールメリットを享受し、エンタープライズ領域への本格的な参入に乗り出している。
プラットフォームに加わらずに、独自に事業展開を継続するベンダーにとっては対抗策を打ち出すことが緊急の課題だろう。ネオジャパンは、クラウド関連でビットアイル、アクセルビットと協業。アプリケーションのオンデマンド提供支援基盤を開発するなど、クラウドに対して積極的な姿勢を見せる。国産ベンダーの間で意識の差は大きいが、変化の早いグループウェアの市場で現在の事業領域に固執すれば、足下をすくわれることになりかねない。
「LotusLive」の販売は、パートナー企業経由のライセンス販売とパートナー企業が自社のアプリケーションを加えた独自サービスで展開する。SIerにとっては、スケールメリットを享受しながら、いかに独自性を打ち出していくかがカギを握る。(信澤健太)