アルゴ21(現キヤノンITソリューションズ)創業者で情報サービス産業協会(JISA)元会長の佐藤雄二朗氏が3月4日に永眠された。多重下請けやソフト・サービスの国際競争力の低さなど、情報サービス業界が抱える構造的な課題を鋭く指摘し、強い問題意識をもって解決に取り組んだ英傑である。JISA会長在任中、2003年1月31日号の本紙インタビューをもとに、SIerの地位向上に多大な功績を残した佐藤氏の想いを記す。
“新しい情報サービス業界”を創る
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| 在りし日の佐藤雄二朗氏 |
佐藤・元JISA会長は、経済産業省のシステムインテグレーション登録制度や、情報処理技術者試験を多国間で相互認証する仕組みなど、SIerの地位向上や国際的に通用する人材育成に尽力。こうした功績が評価され2005年11月に藍綬褒章を授与されている。03年1月の本紙インタビューでは、「社会全体が情報システムへの依存度が増すなか、総合的な技術力や知見によって社会の信頼に耐えうる情報サービス産業でなければならない」と強調。また、「SIerの多くが開発中心の下流工程に甘んじている」と、産業のぜい弱性に危機感をにじませていた。
今、佐藤氏が提起した課題は、どれほど解決できているだろうか──。当時は、まだハードウェアの比重が大きく、数十億円規模のシステム案件でも、ソフト・サービス部分は「ほとんど無価値で見積もられる」(佐藤氏)ようなケースがまだあった。まずはハード主体の価格で提示し、その後の保守契約でソフト・サービスの代金を回収するというモデルの名残りだ。この点では、クラウド/SaaSなどのサービス商材が大きな注目を集める現在、SIerが提供するソフト・サービスの価値は、広くユーザーに認められたといえるだろう。
しかし“多重下請け構造”や“社会の信頼に耐えうる産業”であるかどうかという点では、逆に深刻さを増してはいまいか。経済危機で国内のIT投資が低迷する一方で、中国などのソフト開発パワーが増大。多くのSIerがユーザーの要望に応える形で、低コストのオフショア開発に力を入れる。佐藤氏が危惧した通り、開発中心のSIerの多くは、大幅な売り上げ減に苦しむ。野村総合研究所(NRI)の藤沼彰久会長兼社長は、「業界全体で(国内の)人員を減らしつつ、なんとか生き残っている状態」と、厳しい状況を吐露。NRI自身も約1万人の協力会社の人員のうち、約3500人は中国の協力会社が占める。見方によっては国内情報サービス産業は足下からぐらついているとも受け取れる。
NRIは、同じ危機感を共有し、JISA会長企業でもあるNTTデータと共同で「ITと新社会デザインフォーラム2010」を今年2月に開催した。情報サービス産業自らが変革し、産業の魅力を高める活動を始めたのだ。フォーラムでは「国際競争力のある高度IT人材が絶対的に不足している」(NTTデータの山下徹社長)、「新しい情報サービス業界を別に創る覚悟で臨まなければグローバル化に勝てない」(NRIの藤沼会長兼社長)と、業界の二大巨頭が強い課題意識を顕わにした。佐藤氏の遺志は、進むべき指針の一つとして、現役のSI業界トップの経営者らに継承されている。
JISA前身である旧日本情報センター協会と旧ソフトウェア産業振興協会が発足して今年で40年。業界全体をみれば、依然として開発系の比重が大きく、ビジネスモデルの転換は容易ではないだろう。佐藤氏の言葉を真摯に受け止め、新しい情報サービス産業の創出に何が必要で、何が足りないのか。もう一度考え直す時期に来ているのではないだろうか。(安藤章司)