日立製作所グループのソフトウェア・サービス事業の方向性が明らかになってきた。成長余地が大きい海外市場への進出を加速。日立ソフトウェアエンジニアリングや日立システムアンドサービスなどグループSIerと一丸となってグローバルでのシェア拡大に努める。今年10月、日立ソフトと日立システムが合併して発足する日立ソリューションズは、将来的に1000億円を海外で売り上げようとする意気込みだ。SIビジネスで最大のライバルとなるNTTデータは海外進出で他社をリードする。日立グループはグループ総力を挙げて、ライバルを猛追する構えをみせている。
日立SOL、海外で1000億円稼ぐ
日立製作所の社内カンパニーの情報・通信システム社(中島純三社長=日立製作所執行役専務)と並んで、グループのソフト・サービス事業の中核SIerとしての役割を担うのが、10月1日付で発足する日立ソリューションズである。日立ソフトと日立システムの年商の単純合算ベースで3000億円規模で、SI業界トップグループの目安とされる“3000億クラブ”入りを果たす。
しかし、トップグループ入りだけに甘んじていては、成長戦略が不明瞭で、SI業界トップのNTTデータとの距離も開いたまま。そこで打ち出すのが、海外市場への進出である。10月1日付で日立ソリューションズ副社長に就任する予定の諸島伸治・日立ソフト社長は、「将来的に海外での売上高1000億円規模への拡大をイメージする」と、鼻息が荒い。日立グループのSIerで比較的海外ビジネスが堅調な日立ソフトですら、直近の海外売上高は40億円程度であることを考えると、極めて高い目標だ。
日立製作所は、グループ主要SIerの日立ソフトや日立システム、日立情報システムズを今年に入って上場廃止にして、情報・通信システム社との一体的な運営体制を強化してきた。日立グループは、スマートグリッドやスマートシティなどITを活用したインテリジェント型の次世代電力網や産業、交通システムの需要を主要ターゲットとしている。国内でも実証実験などの取り組みが相次ぐ分野ではあるが、大きな需要が期待できるのは、やはり社会インフラへの投資拡大を急ピッチで進める中国など新興国である。IBMやアクセンチュアなど海外有力SIerもこぞってスマートグリッド分野への進出に力を入れる。
従来の上場SIerが複数並列する状況では、個々のグループSIerの売り上げ規模が小さく、海外の社会インフラ関連の受注は難しかった。このためソフト・サービス関連事業を一体的に運営することで、「海外ビジネスを拡大させる」(情報・通信システム社の中島純三社長)方策を採る。海外ビジネスを伸ばすNTTデータは、積極的なM&Aなどを通じて2010年3月期に海外での売上高を750億円規模に伸ばしている。2005年3月期の同社の海外売上高がわずか55億円だったことを考えれば、5年で13倍余り拡大させた勘定になる。
日立ソリューションズは、情報・通信システム社などグループ各社との一体的な経営を推進することで、グループ全体のソフト・サービス事業でNTTデータと遜色のない海外ビジネスの推進力を得られるとみる。そのレベルまで引き上げたうえで、海外ビジネスを本格的に立ち上げる。日立ソリューションズは、2012年度に連結売上高3500億円、うち海外売上高比率10%を当面の目標に位置づけ、将来的には情報・通信システム社などグループのスマート系社会インフラビジネスへ本格的に参画することで年商5000億円、海外売上高比率20%をイメージする。
NTTデータは2013年3月期までに、海外売上高を3000億円に伸ばす計画を立てている。同じくトップグループのITホールディングスグループのTISは、今年4月に中国・天津に最新鋭の大型データセンターを全面開業。野村総合研究所も、北京や上海での事業拡大を急ぐ。従来の欧米市場だけでなく、中国・アジア新興市場でビジネスを伸ばす動きが活発化しているのが特徴だ。ソフト・サービスビジネスは今、国内から海外へと戦線が広がり、体力勝負のシェア争いがより一層激化する様相である。
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相殺せず、相乗効果で伸ばす
将来の成長余地を海外に求める日立製作所グループのソフトウェア・サービス事業だが、足下のグループ再編にはまだ不安が残る。グループの中核SIerの役割を担う日立ソリューションズは、日立ソフトウェアエンジニアリングと日立システムアンドサービスが今年10月1日付で合併する新会社。両社のビジネス領域は一部重なり、売り上げや利益が相殺されてしまうのではないかとの見方もある。相殺部分が多ければ多いほど業績へのインパクトが大きくなり、足下の業績がぐらつきかねない。
日立ソリューションズ副社長に就任する予定の諸島伸治・日立ソフト社長は、「(日立ソフトと日立システムの)重なる部分は確かにある」と、両社が相似形であることを認めつつ、一方で、「中身をみると、例えば同じ金融でも顧客が違ったり、首都圏以外の得意エリアが違うなど、意外に重なる部分は少ない」と、冷静に分析。首都圏のビジネスは両社ともエリア的に重なるが、地方をみると日立ソフトが北海道、東北、九州が強いのに対し、日立システムは名阪に強いといった具合だ。
合併して「1+1=2-αになるのではなく“+α”にする」と、相殺ではなく、相乗効果を生もうとしている。その手立ての一つがクロスセルだ。両社のもつ商材を互いの顧客に売ることで売り上げを伸ばす。クロスセルをはじめとする相乗効果で「初年度10%程度の成長を目指す」と、意欲的な目標を掲げる。増収効果は合併直後から出すとしており、最初の半年間(10年10月~11年3月)で150億円規模の増収を目指す。新会社の年商は3000億円規模であるため、最初の半年は通期増収効果の半分に相当する150億円を増やすというわけだ。
海外で売り上げを伸ばそうにも、国内の事業基盤が揺らいでは、成長はおぼつかない。足場を盤石にしてこそ、海外でのビジネスも伸びる。(安藤章司)