総務省との結びつきが強い特定非営利活動(NPO)法人であるASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム(ASPIC、河合輝欣会長)が、ユーザー企業・団体とITベンダーに向けた利用/提供の指針を着々と整備している。ITベンダーにとっては、ユーザーに向けて提案・販売するツールとして活用できる。IT業界の思惑と異なり、“緩やかな成長”を続けているSaaSを“急成長”させるには、地盤づくりが必要とみて、行動を起こしているのだ。
ASPICの調査資料『ASP・SaaS白書2009/2010』によれば、ASP・SaaS関連市場規模は、2年後の2012年に2兆円に到達。15年には3兆円に達すると予測している(図参照)。内訳をみると、これまではSaaSを提供するためのインフラ系投資額(図では「データセンター」)が圧倒的に大きかったが、今後はインフラで動くアプリケーションが伸びるとみている。15年には、その比率はほぼ同じになる。
「今後はアプリケーション市場が急成長する」。ASPICの河合輝欣会長はこう断言している。ASPとSaaSを調査し、普及させるために10年以上力を注いできた老舗団体は、その成長を疑っていない。
しかし、ASPとSaaSに関しては、セキュリティを問題視するユーザーが多く、これが普及の足かせになってきた。この問題は現在も残ったまま。これを打開するため、ASPICは09年から現在にかけて、さまざまなガイドラインをユーザーとベンダーそれぞれに用意した。
ベンダー向けには、「データセンターの安全・信頼性に係る情報開示指針」を公表。医療・介護業界と教育機関機関向けには、固有のサービス提供指針が必要だと考え、医療・介護向けガイドラインを09年に作成、教育向けは近日中に公開する予定だ。
一方、ユーザー向けには、ベンダー向けと同様に、医療・介護業界、教育機関、そして地方公共団体のそれぞれに向けて導入・利用する際に留意しなければならないポイントをまとめた資料を公開した。
ASPICの調査から判明したことがある。それは、「すでにSaaSサービスを利用しているユーザー企業・団体の約80%が、サービスの安全性・信頼性に満足している」ということ。つまり、SaaSを普及させるためには、“食わず嫌い”のユーザーに、SaaS型サービスがいかに安全であるかを認知させることが必要なのだ。
今後のIT業界は、少なくとも13年までは低調に推移し、年平均成長率は1.1%減で、マーケット規模は08年を上回ることができないというデータ(IDC Japan調査)もある。伸びる分野は限られているが、SaaSは間違いなくそのなかに入る。業界全体がSaaSの認知・普及促進策を打ち出す必要性に迫られている。その観点からいえば、ASPICは意義ある活動をしているといえる。(木村剛士)