日本国内の有力ソフトウェアベンダーが加盟する「メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア(MIJS)コンソーシアム」は4月19日、中国・成都市で、地元ソフトベンダー団体「成都市軟件行業協会(成都市ソフトウェア協会)と、プロダクトや人材、技術などで相互協力する内容の覚書を交わした。2006年8月の設立時から掲げていたMIJSの「海外進出」がいよいよ本格化することになる。両団体では、相互の技術・ノウハウを持ち寄り、SaaSアプリケーションなどを共同開発する計画。日中の協力体制で「世界に通用する製品・サービス」の創出を目指す。
MIJS(内野弘幸理事長=ウイングアークテクノロジーズ社長)には、サイボウズやシステムインテグレータなど日本の企業向けパッケージ・ソフトで業界トップクラスの製品をもつISV(独立系ソフトベンダー)44社が加盟。成都市ソフト協会は、市内の代表的なソフトベンダーである成都ウィナーソフト有限公司など、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)や受託ソフト開発、アニメーションやゲーム開発、通信関連ベンダーなど、二百数十社で組織されている。
両団体の幹部が今年1月に成都市内で会談し、4月19~21日に開催された「第8回中国国際ソフトウェア博覧会」のなかのイベント「中日ソフトウェアアウトソーシング産業大会」において覚書を交わすことを決め、19日、両団体の代表者が出席し、調印式を行った。
両団体ではまず、双方の現状を情報交換するための「交流会(仮称)」を年数回開催する。そのうえで、技術面・人材育成面・販売面での具体策を作成。MIJS会員の1社で中国ビジネスをよく知るWEICの内山雄輝社長を、両団体の橋渡し役として成都市ソフト協会の顧問に据え、相互交流の方法を練り上げる。
内野理事長は、調印式の場で「世界に進出することはMIJSの念願であり、団体として一緒に行動する第一弾が成都市ソフト協会との提携になる。強力なパートナーシップが組めることを期待する」と語った。一方、成都市ソフト協会の程宏・常任理事は「成都市のIT産業は政府主導で発展してきた。しかし、民間レベルでの交流はまだ途上。今回、MIJSと協力関係を築き、アジアから世界を目指す取り組みを行いたい」と、両団体の協業で、MIJSの理念と同じく「世界」を視野に入れることを明らかにした。
両団体の具体的な取り組みについては、MIJSの梅田弘之理事(システムインテグレータ社長)が、MIJSの会員で構築する「製品連携」や「SaaSポータルサイト」に中国ISVの製品を組み込んで、双方の地元企業に販売することを提案。また、日本国内で主導する高品質なパッケージソフトの開発力を日中間で共有し、中国側のITスキルアップを図ることも目指す。最終的には、日中が製品面・技術面・販売面で連携し、「SaaSポータルサイト」などを利用して、世界の有力企業へ販売する仕組みを作り上げる。
梅田理事は、「MIJSは、製品間のマスターを連携させる仕組みを開発した。これがクラウド時代になるとクラウドとも連携することが必須になる。クラウドとマスター連携についてMIJSは技術・ノウハウをもっており、中国に協力できる」と、中国側の積極的な関与を求めた。
MIJSは、汎用化されたパッケージの流通が日本国内で活発ではない状況の打破と、パッケージの普及を目指してきた。一方で、「海外展開」を創設以来のミッションとしている。MIJSは中国・上海にあるクオリティの支社に事務所を構えているが、中国や海外への展開は個別ベンダーベースにとどまっている。
両団体の覚書には、表向き製品・技術面の取り組み強化がうたわれているが、最終的な着地点は「中国内へ日本国産の製品を販売する」という販路を構築することにある。成都市ソフト協会との連携で、どこまでその目的を果たせるかは未知数だが、日本国内のIT団体が成し得ていない、まったく新しい領域へ踏み込もうとしていることは確かだ。

調印式で覚書にサインする成都市ソフト協会の程常務理事(左)とMIJSの内野理事長
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中国で「売る仕組み」構築がカギ
MIJSコンソーシアムの活動は、今年8月で丸4年になる。創設以来、「海外展開」を掲げてきたMIJSに加盟する業界トップのISV(独立系ソフトウェアベンダー)に限らず、国内すべてのISVに当てはまるのは、「世界進出を果たせていない」ということだ。
日本は、欧米に比べて「スクラッチ開発」が多く、企業向けソフトの8割強を占める。「ソフトの作り込み過ぎ」がアダとなり、日本のIT産業の発展と企業のIT利活用を遅らせてきた。この実状に警鐘を鳴らし、世界に通用するパッケージソフトを開発し、「海外進出」を狙おうとしている唯一の団体がMIJSだ。
今回の成都ソフト協会との連携は、日本のソフトが世界に出るための“試金石”になることは間違いないだろう。ただ、手を組む同協会や成都市のIT産業をみると、そう簡単ではなさそうだ。調印式のあとに行われたMIJS関係者と成都市の李皓・商務局副局長との会談では、同市が最も力を入れているのが海外からの下請け(アウトソーシング)であることを聞かされ、両団体が結束して中国市場へ日本のソフトを販売する策に関する言質は取れなかった。
成都市やソフト協会は、MIJSを介して日本のソフト開発の下請け業務を数多く手がけることができとみているに違いない。この意識の変革を促し、双方の市場で双方のソフトを販売する仕組みをどうつくるのか。どの日本のISVも実現したことのない、まったく新しい流通網の構築作業が始まろうとしている。 日本国内のソフト関連団体やSIerで組織する団体は、欧米ベンダーが次々上陸するなか、指をくわえてみているしかなかった。ある団体の調査では、海外ソフトの輸入額を100とすると国内ベンダーが開発したソフトの輸出額は、10に満たない。日本のソフトの優秀さは国内企業の認めるところで、世界に出ても遜色はないはず。いまこそ、海外進出を真剣に考える時だ。(谷畑良胤)