【上海発】製造業に強いSIerの東洋ビジネスエンジニアリング(石田壽典社長)は、中国で主力商材の製造業向けERP(基幹業務システム)「MCFrame(エムシーフレーム)」の拡販を本格化させる。中国ではEMS(受託生産サービス)など、これまで在庫・販売のリスクが比較的少ない製造形態が多く、本格的な製造業向けERPであるMCFrameの販売では苦戦気味だった。だが、ここへきて中国の企業自らのブランドでの開発・生産が急拡大。「販売チャンスが増える」(同社)とみて、拡販に乗り出す。
製造業をターゲット
生産や販売、原価管理などのシステムから構成される製造業向けERPは、通常、自ら在庫や販売のリスクを負う自社ブランド製品を主力とする製造業顧客からの需要が強い。かつて、こうしたリスクが比較的少ないEMSやOEMメーカーが大半を占めていた中国では、需要そのものが限られていた。ところが、ここ数年、自社ブランド製品を開発するメーカーが中国で急増。なかには日本の製造業並みの多品種少量の生産に挑戦するケースもみられるようになったのだ。
中国現地法人の東洋ビジネスエンジニアリング(上海)は、中国のメーカーも在庫や販売の管理レベルを飛躍的に高める必要に迫られており、「MCFrameに対する需要が急拡大している」(岡文一総経理)と肌で感じている。
振り返って日本の国内市場をみると、同社の昨年度(2010年3月期)の連結売上高は、国内製造業のIT投資抑制の直撃を受けて前年度比26.3%減。MCFrame関連でも同18.2%減となるなど厳しい局面に直面している。その一方で、中国では旺盛な消費に支えられ、自社ブランド製品をメインとする製造業のIT投資が急速に拡大。この動きを受けて、同社は今年2月、これまで駐在事務所だった上海のオフィスを現地法人に昇格させた。SAPやOracle EBSなどの他社製ERPのSIビジネスも含めて、向こう3~4年で「売り上げを倍増させる」(岡総経理)と、意気込む。
中国では、これまでSAPなどの構築を共に手がけてきた関連会社の上海華和得易信息技術発展(ディールイージー)を主なビジネスパートナーとして、SIビジネスを手がけてきた。東洋ビジネスエンジニアリング(上海)の人員が限られていることから、開発や構築を伴う案件ではディールイージーがもつ約180人の人的リソースの支援を得ている。とはいえ、同社だけで販売リソースが充足しているわけではない。ビジネス拡大に向けた当面の課題は、中国でのビジネスパートナーを増やし、販路をいかに増やすかにある。
MCFrameへの需要が顕在化してきたことから、すでに日系大手SIerの数社から中国での取り扱いの声がかかっている。「今後は販売パートナーの協力を得ながら、当面は年間3~4件の受注を安定的に獲得していく」と、案件をこなしていきながら、徐々に販路を拡大していく方針だ。また昨年末には、予想外の追い風も吹いた。現地法人を設立する直前、業界団体の中国ソフトウェア協会から日系製造業向けERPでの最優秀賞を受賞。中国での知名度が一気に高まり、「地元SIerからの引き合いも急速に強まってきた」と、今後の販路拡大による売り上げ増加に好感触を得ている。(安藤章司)

岡文一総経理。手に持つのは、中国のソフトウェア業界団体から贈られた
日系製造業向けERPでの最優秀賞の楯