【上海発】IBM中国は、中国政府系のITインフラ構築事業に注力する。内陸部に近い武漢市にグローバル・デリバリー・センター(GDC)を新設すると7月8日に発表。中国ビジネスのエリア拡大による成長を推進する。同社は、中国での交通や通信、電力などでのITサービス需要が大きいことを踏まえ、こうした公共案件の受注拡大を狙う。具体的には、同社が推し進める「Smarter Cities(スマーター・シティーズ)」のコンセプトを軸に提案活動を活発化。中国政府との関係強化を通じて他の外資系SIerとの差異化を図る。
内陸部でも“スマート”展開へ
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マルセル・グルートマン 中国区総経理 |
IBM中国のグローバル・デリバリー・センター(GDC)の中国地区トップを務めるマルセル・グルートマン・ゼネラル・マネージャー(中国区総経理)は、中国政府を相手にした事業をより重視。同国政府がITインフラ構築への投資を大幅に増加していることが、この背景にある。
公共案件獲得に向けた提案の軸には、IBMグループが世界で推進するスマート戦略だ。ITを活用して都市をより“賢く”する「Smarter Cities」など、同社グループが提案する“スマート”なITサービスを武器とする。「政府の行動計画は、ハードウェア的なアプローチを主体とするのではなく、ITサービスに焦点を当てつつある。このITサービス分野で、大きな収益が見込める」と、グルートマン中国区総経理は時勢を読む。
一般企業向け事業でも、“スマート”なITサービス提供に重点を置く戦略を強めており、交通や電力など都市インフラから民需・産業分野に至るまで、包括的なITサービスで攻略する。今回新設した武漢のGDCは、上海と大連、成都、深・に続く5番目。中国国内外に向けたITサービスを提供する。IBM中国のGDCはこれまでに沿岸部に偏っていたが、今後は内陸部への進出も加速させる。
IBM中国は、日欧米などの外資系と中国地場の企業をおよそ半数ずつビジネスパートナーとして抱えており、とくに中国地場の企業に向けたITサービス事業では大きなポテンシャルがあると踏んでいる。同社は、官需・民需合わせて、2009年度は前年度比で約10%の事業拡大を記録。今年度も同様の大幅な伸びを見込む。
ライバルSIerがひしめく中国市場だが、IBMは中国事業の経験が長く、現地情勢をよく把握しているのが強み。地元の名門大学などと連携し、優秀な現地の人を数多く採用するなど、現地でのパイプづくりに余念がない。名高い外資系SIerでありながら「自社を中国の会社として位置づける」と、グルートマン中国区総経理。今後も、現地スタッフの採用を中心に、人員体制を強化する。中国との深い関係を前面に押し出す戦略から、政府へのアプローチを図ることが読み取れる。「『人』と『拡大事業』に投資を増加させることで、中国での自社立場をよりいっそう強め、中国からすぐれたITサービスを世界に届けたい」(同)と、ビジネス拡大に意欲を示す。(ゼンフ ミシャ)