ウェブ会議システム市場で国内トップシェアのブイキューブ(間下直晃社長)は、東南アジアへ進出する。マレーシア、シンガポール、ベトナムの3か国に照準を合わせ、各国でパートナーを見つけ、現地のIT企業と協業体制を確立。今夏から主に現地企業向けに、主力のウェブ会議システムなどを売り込む。また、今後はタイ、中国、韓国にも進出する計画で、一気に海外の売上比率を高めるつもりだ。目標は、2011年度(11年12月期)の全売上高計画20億円のうち、4分の1にあたる5億円をアジア市場で占める算段だ。ウェブ会議システムは国内でも長期的にみて有望だが、東南アジアでも成長すると予測。ニーズが本格化する前に営業基盤を整えようとしている。
「ウェブ会議で国内No.1」の実績武器に東南アジアへ進出
ブイキューブは1998年設立のITベンチャーで、オンラインのコミュニケーションシステム・サービスに強い。主力のウェブ会議システムでは、約10年で国内市場トップシェアの地位を築いた。調査会社シード・プランニングの調べによれば、ブイキューブの国内ウェブ会議市場の金額シェアは19.4%で、2位のNTTアイティに10%弱の差をつけている。
海外展開では、03年にロサンゼルスに子会社を設置しているが、全売上高に占める比率は数%にとどまる。今回の東南アジア進出が本格展開となる。
東南アジア市場への進出にあたり、約2年前から準備を開始していた。商社勤務が長く海外でのビジネスに強い小林敦氏を、執行役員グローバル推進室室長として招へい。「米国や欧州に比べて、ウェブ会議システムを受け入れやすい」(小林執行役員)という判断から、東南アジアに焦点を当て、09年12月にマレーシアに子会社を設立している。約半年の準備期間を経て、マレーシアとシンガポール、ベトナムを有望視し、各国で協業相手となる現地IT企業を探し、今回それぞれで戦略的パートナーを見つけた。
まずマレーシアでは、同国SI大手のハイテックマネージドサービシズとOEM契約を締結。同社がブイキューブのウェブ会議システム「V-CUBEミーティング」を自社ブランドで販売する体制を整えた。すでにマレーシアの国立銀行バンク・シンパナン・ナショナルが採用を決めている。
一方、シンガポールでは、同国の大手携帯電話事業者であるシンガポール・テレコムと提携。同社とは、中小企業向けのクラウドサービスを共同提供することで合意し、7月末から提供を開始した。また、ベトナムでは、同国大手ITベンダーのFPTグループ2社およびオリンパスビジネスクリエイツと協業し、ウェブ会議システムなどの商用化に向けた実証実験を開始する。
3か国ともに現地の大手IT企業と提携する仕組みを構築し、日系企業ではなく現地の企業を対象にパートナーを通じて販売する営業戦略をとった。間下社長は協業戦略について、「マレーシアに拠点はあるものの、営業やマーケティングをすべて当社のスタッフで手がけるのは事実上不可能。地域の商習慣を熟知するIT企業と組むのが最良と考えた」と語る。また、大手IT企業と手を組むことに成功した理由について、「国内でも受け入れられている要因となっている『使いやすさ、見やすさ』が評価されている」と説明した。3か国以外にも、今後はタイ、韓国、中国でも現地の有力IT企業と組んだうえで進出する計画を示しており、一気にアジア市場を席巻しようとしている。
国内のウェブ会議システム市場は、現時点では100億円にも満たないが、今後急成長が見込め、2012年には約150億円、2018年には1100億円程度まで伸びるというデータがある(シード・プランニング調べ)。東南アジアは「日本に3~5年ほど遅れて急成長する」と間下社長はみており、需要が高まる前に営業基盤を築いてブランドを確立、先行メリットを獲得する狙いだ。
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一線を画すユニークな戦略
ブイキューブの海外進出で注目すべきは、東南アジアの現地企業をユーザー対象にしている点と、現地の有力IT企業と組んだ協業体制を、矢継ぎ早に確立した点だ。
一般的に、日本のIT企業が海外に進出する場合、まずは日本の海外現地法人、つまり日系企業を対象にするケースが多い。だが、ブイキューブの間下直晃社長は「それでは海外進出した意味が薄い」とし、あくまでも現地のユーザー企業・団体の獲得を主眼に置いている。その前提に立って、ブランドも知名度もない弱点を補うために、現地の有力IT企業とのアライアンスを重視したわけだ。
今回ブイキューブが進出したマレーシア、シンガポール、ベトナムの3か国のGDP(国内総生産)の合計額は約40兆5000億円(2009年の実績)。3か国を合計しても日本の10分の1にも満たない。急成長中の中国のGDPが約422兆円であることを考えれば、主要東南アジア諸国のマーケットはまだまだ小さい。
それにもかかわらず東南アジアにフォーカスしたのは、「米国や欧州地域では電話会議の文化が根づいており、顔を見ながら会議を進めるウェブ会議が受け入れられにくい。その観点に立てば、東南アジアは比較的日本寄りの文化で、“Face to Face”のコミュニケーションを求めている国が多い」(小林敦執行役員)からだ。2年前から始めた緻密な調査の結果、導き出した答えという。
NTTグループ企業やOKIなどの国内大手企業や、シスコシステムズなどの外資系有力ウェブ会議システムベンダーなどを抑え、創業約10年の短期間で国内の市場を制したブイキューブ。協業相手だけをみれば、まずは東南アジア諸国で順調に滑り出したとみてよい。東南アジア市場という、未開拓な地域で、日本のITベンチャーがどの程度存在感を示せるか。金額規模はまだ小さいが、注目すべき動きである。(木村剛士)