【上海発】中国でビジネスを展開する日本や欧米のSIer/ITベンダー。中国市場の急成長とともに動きを活発化させているが、一方で事業の拡大に必要不可欠な人材の獲得・確保には苦戦を強いられている。好景気に沸く中国では、優秀な人材を獲得する企業間の競争が激しいだけでなく、多くの社員が2~3年ごとに転職するなど、会社への帰属意識が薄い傾向がある。上海に拠点を置く4社のキーパーソンに、前号の市場攻略戦略に引き続き、人材獲得・定着戦略を聞いた。
・前回から読む日立コンサルティング中国
製造や金融など、幅広い業種の企業にITコンサルティングサービスを提供。
社員の能力を明確に評価する
 |
| 陳 玲生 主席執行官 |
「われわれはコンサルティング会社なので、モノではなく、ヒトを事業の柱としている。当社にとって、優秀な人材は生命線だ。当社のコンサルタントは一流のIT企業からリクルートした現地スタッフが多い。採用にあたっては語学を重視し、英語能力を必須条件としている。当社社員が地場、外資系を問わず、どの企業にも適切に対応できるようにするのが狙いだ。
中国では、日系企業はイメージが堅く、就職先としてはそれほど人気がないようだ。そこで、当社を“グローバル・カンパニー”と定義し、社員の能力を評価する社風をつくっている。また、好業績をあげる社員を高く評価する一方で、業績が悪い社員にはトレーニングを受けさせるなど、迅速に対策を施している。このように、社員の満足度を高めていきながらクリエイティブな社風をつくる。そうした地道な対策こそが、定着対策になる」
IDS Scheer中国
ドイツに本社を置く。ビジネスプロセスマネジメント(BPM)のプラットフォーム「Aris」などを展開。
現地スタッフの採用を重視
 |
| 洪 中 総裁 |
「当社は中国の現地企業のような事業展開を目指しており、社員としてはほとんど中国人だけを採用している。このような現地スタッフを重視した人材戦略は、中国市場独自のニーズを把握し、それに柔軟に対応するために効果的だとみている。例えば、当社の主力商材であるビジネスプロセスマネジメントのプラットフォーム「Aris」のパンフレットなどの資料を、中国語に翻訳しなければならない。細かいことだが、これを通じて、現地スタッフが数人しかいない外資系同業他社との差異化を図ることができる。
もちろん、当社も高い離職率には頭を痛めている。中国は、商品を販売する時だけでなく、優秀な人材を集める際にも競争が非常に激しい。一つの施策として、多彩な業種の企業と連携し、当社製品の販売やプロモーションにあたって、パートナーが抱えている人材の力を借りている」
野村総研(北京)上海分公司
日系企業を主要ターゲットに、情報セキュリティサービスを提供。
日系企業の「いい側面」を訴求  |
情報安全事業部 長谷川 剛 部長 |
「セキュリティサービスを提供している当社にとっては、優秀な人材は欠かせない資源だ。人材育成を重視している。われわれは、日系企業向けの事業を主軸としており、現時点で日本人社員が過半数を占めているが、これから地場企業を攻めていく時には現地スタッフの採用を強化することも必要だ。
現地スタッフの採用にあたっては、さまざまな問題に直面している。中国人は能力の差が激しく、スキルの高い技術者が少ないだけでなく、2~3年後に離職することが前提のようなので、求める人材の獲得と確保が非常に困難な状況だ。
日本と中国の企業文化の違いにもネックがある。欧米式のビジネスのやり方を好む中国人にとって、日系企業の社風は馴染みにくいように思われる。当社では、チームワークや安定性など、日系ならではの『いい側面』を積極的に訴求している」
電通国際情報サービス上海
日系向けのCADシステムの販売/サポートを事業の主軸とする電通グループのSIer。
キャリアアップの速さをアピール  |
| 泉 浩之 総裁 |
「優秀な人材を獲得するために、当社は『遊び心で楽しく仕事をする』ことをモットーに掲げている。社員に大きな仕事を任せるとともに、当社ではキャリアアップが速いスピードで実現することや、将来のチャンスが大きいことを訴求する。中国人は就職先を決めるにあたって、こうしたことをとても重視するようだ。また、例えば日本での就職フェアに参加して当社をアピールするなど、日本と中国の両国で存在感を示すようにしている。その結果、『いい人材が揃っている』と自信をもっている。さらにいえば、当社で働いている現地スタッフは日本語ができる人が多いので、コミュニケーションの問題は発生しない。
離職対策は、早い段階から打っている。例えば、面接の際にすぐに離職しないように念を押すなど、会社としての期待を表明するとともに、長く当社で働いてほしいという気持ちを率直に伝えている」
・記者の目
事業の迅速な成長を見込み、人材の獲得・確保に必死になっている日本や欧米のSIer/ITベンダー。優秀な人材なしでは競争に勝てないという危機感から、あらゆる手を打っている。外資系企業は、速いキャリアアップなど、中国人が自身のキャリアプランで重視するポイントを押さえるのはもちろんのこと、自社で働くことの「ユニークな価値」をいかにアピールするかが、成功のカギを握っているといえそうだ。(ゼンフ ミシャ)