【上海発】中国でビジネスを展開する日本や欧米の外資系SIer/ITベンダーが、長期的な事業拡大に向け、現地の地場企業を攻める動きを加速させている。中国の地場企業は、急速な成長に伴ってITシステムの強化を必要としており、投資を拡大していることが背景にある。では、外資系IT企業はどういう戦略で地場企業を攻めていくのか。上海に拠点を置く4社のキーパーソンに聞いた。
日立コンサルティング中国
製造や金融など、幅広い業種の企業にITコンサルティングサービスを提供。
地場企業とのパートナーシップを  |
| 陳 玲生 主席執行官 |
「中国のIT市場は、ハード/ソフトからサービスへとシフトしつつあるとみている。そうした追い風に乗って、われわれのコンサルティング事業は、2011年には前年を数倍上回る伸び率で成長すると見込んでいる。現時点で49社の顧客をもっており、その約80%を中国企業で占める。今後、ニーズが根強いスマート・グリッドをベースとするITサービスを主力商材に、地場企業と長期的なパートナーシップを築いていく。
事業拡大に向け、当社が力を注いでいるのは、中国での認知度の向上だ。中国では、日立といえば、家電製品メーカーのイメージが強い。そこで、地場企業に当社のコンサルティング事業について丁寧に説明したり、過去の実績を示したりするなどの施策を打ち、コンサルティング会社としての存在感を示す。と同時に、日立グループに属していることから、純粋なコンサルティング会社と比べてより総合的なサービスが提供できるというメリットを訴求する。日立のブランド力を武器に、IBMやアクセンチュアなどの競合との差異化を図っていきたい」
IDS Scheer中国
ドイツに本社を置く。ビジネスプロセスマネジメント(BPM)のプラットフォーム「Aris」などを展開。
BPM市場をゼロから育てていく  |
| 洪 中 総裁 |
「当社はマーケティングを重要視している。中国企業のなかでも大手企業についていえば、業務改善の観点からみてBPMプラットフォームの導入によるメリットがすぐに効果を現すと考えられる。しかし、当社の認知度がまだ低いだけでなく、ビジネスプロセスマネジメント自体が中国でほとんど知られていないのが実状だ。したがって、BPMの市場を、ゼロから育てていく必要がある。例えば、大学で講義を開いたり、セミナーを開いてBPMの説明を行うなどして、BPMの具体的なイメージを伝えている。
当社は、本社からの独立性が強く、中国市場独自のニーズに柔軟に対応できる。中国は、企業の規模(面積や従業員数)が他の国と比べて段違いに大きいので、製品の処理能力をそのスケールに合致させる必要がある。そこで、処理能力を中国の情勢に適合させることに取りかかっている。価格が他社より高くても、品質を重んじる戦略で臨む。資金に余裕がある中国企業が多いので、その企業に対して優れた品質の商材を前面に打ち出して訴求するのが商談のポイントだ」
野村総研(北京)上海分公司
日系企業を主要ターゲットに、情報セキュリティサービスを提供。
セキュリティの必要性を身近に  |
| 情報安全事業部 長谷川 剛 部長 |
「われわれは、これから営業活動の範囲を広げ、地場企業を攻めていく段階にある。これまで日本の企業を中心とした外資系企業を相手に中国でビジネス展開してきたが、現地の金融機関など、セキュリティ対策のニーズが大きくなりつつある企業にビジネスチャンスがあるとみている。しかし、地場企業を狙うにあたって、ハードルの高さを痛感しているところだ。現段階で、『なぜセキュリティの導入が必要なのか』ということを地場企業に理解してもらうことに苦労している。
その対策の一つとして、仕事中にゲームやチャットをするなど、インターネットを業務外で使う社員が多い地場企業に、アクセスのログ分析ができる中国独自のツールを提案している。つまり、地場企業にセキュリティの必要性を身近に感じさせる戦略だ。それとあわせて、向こう3・4年で中国のセキュリティベンダーと連携し、販売代理店になってもらうなど、パートナーシップを積極的に構築していきたい」
電通国際情報サービス上海
日系向けのCADシステムの販売/サポートを事業の主軸とする電通グループのSIer。
親会社と連動して攻略  |
| 泉 浩之 総裁 |
「これから地場企業を攻めていこうと考えており、ローカル市場に目をつけている。製造業や金融機関などの地場企業は、売るための仕組みとして広告の需要が高いとみており、デジタルマーケティングに必要なシステムやプラットフォームを販売していきたい。広告の分野では親会社の電通が強いので、親会社と連動して地場企業を狙っていく戦略を考えている。今は中国の販売代理店を探しているところで、市場参入の準備を進めている段階だ。
中国では、人脈が非常に重要だと感じている。言い換えれば、人脈がないと受注できない。人脈構築に向け、地方政府との連携を深めていきたい」
・次回予告
中国の地場企業を攻めるにあたっては、現地の情勢に精通している優秀な人材が必要不可欠だが、好景気に沸く中国は人材の流動性も高い。そこで次号では、この4社の現地での人材獲得・定着戦略を紹介する。(ゼンフ ミシャ)