中国に進出する日系SIerが、提携戦略を加速させている。M&Aや合弁、販売代理店契約など、地元有力ビジネスパートナーとの提携を相次いで拡大。中国でのビジネスモデルの構築を急ピッチで推し進める。海外でビジネスを拡大させるには、自ずと国内とはアプローチが異なってくる。海外進出経験の乏しい多くの日系SIerにとっては未知の領域。さまざまなアプローチ手法を駆使し、中国での“勝ちパターン”を確立できるかどうかが、ビジネスの成否を決める。
急拡大する中国のIT投資を狙い、今、多くの日本のSIerが中国に進出している。しかし、先行するIBMなどの外資大手や、台頭する中国地場の有力SIerなどのライバルに阻まれ、期待するほど売り上げを伸ばせない日系SIerも少なくない。こうしたなかで日系SIerは、中国地場のSIerと組み、共にビジネスを伸ばす提携戦略を推し進める動きを活発化させている。
日本IBMのトップソリューションプロバイダであるJBCCホールディングス(JBCC-HD)は、大連、上海、広州に自社拠点を展開するのと並行して、地場の有力SIerとの協業を深める戦略に出る。大連では大連百易軟件、上海では南京の有力SIerの聯迪恒星信息系統、今年7~9月期中に拠点を設置する予定の広州では広州華智科技と組む。JBCC-HDグループがもつ製造業向けERPや運用監視サービスなどの商材を、こうした地場パートナーを経由して地元ユーザー企業に販売する。一方、地場パートナーの商材をJBCC-HDグループが中国に進出する日系企業などに販売する「ギブアンドテイクの関係」(JBCC-HD現地法人JBCN上海の小祝薫・総経理)をつくることで、ビジネスを伸ばす。
東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)やコアは、SIerでありながらも、中国では自社開発の主力ソフト製品の販売を重視。製造業向けERPやIT資産管理など、自社開発のソフトプロダクト販売をビジネスの軸の一つに据える。ウェブアプリケーション基盤の「intra-mart」や販売管理システムなどを開発するパッケージソフトベンダーのNTTデータイントラマートは、「早くから中国での販売パートナーの拡充に力を入れている」(現地法人NTTデータイントラマート上海の董磊総経理)が、B-EN-GやコアなどのSIerも、中国ではこうしたパッケージベンダーに近い動きをみせる。
SIや開発、運用といった情報サービスは、本来、顧客密着のドメスティックなビジネスである。日系SIerが中国でビジネスを伸ばすには、中国で人材を育成し、自身の“分身”をつくるほかない。NTTデータや野村総合研究所(NRI)など、資本力のある大手SIerは、現地での積極的な人材採用や経営者の育成に取り組む。NRIは中国を含むアジアで「第2のNRIをつくる」(現地法人NRI北京の伊達一朗・上海支店副総経理)と、NRIのビジネスモデルや企業文化の移植を推進。NTTデータはM&Aや合弁を積極化する。だが、“分身”づくりには時間とカネがかかり、すべての日系SIerが実現できるわけではない。業務提携や代理店契約など、複数の手法を駆使し、まずはプロダクト系の売り上げを伸ばす。さらにこれと並行して、地元出身の幹部を育成。タイミングを見計らって、M&Aや資本業務提携に乗り出す“合わせ技”が有望視される。
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現地化とアジア圏の最適化が必要
中国の情報サービス市場は、GDP(国内総生産)比率から推測して日本と同水準の12兆円規模だと、ある大手日系SIer幹部は推測する。だが、その中身をみると、ハードウェア構成比率が大きかったり、海外向けのオフショア開発比率が多くを占めるなど、日本とは様相が異なる部分も少なからずある。SIや運用サービス、パッケージソフト市場は育ってはいるものの、「純粋なSIやソフト・サービスは恐らく2~3兆円規模」(同幹部)と、分析する。
逆にみれば、今後、SIやソフト・サービス市場が中国で大きく伸びる余地が大きく、日系主要SIerは、こぞって中国進出を推し進める。だが、SIやソフト・サービスで勝ち残るには、徹底した現地化が不可欠だ。例えば、日本IBMが日本であれだけ大きなSI案件をこなせるのは、日本での現地化とグローバル規模での最適化を推し進めた成果にほかならない。優秀な日本人社員や経営幹部を多数育成し、開発はインドなどで行うことでコスト競争力を高める。日本のSIerにおいても、中国人の優秀な社員・経営層を育て、少なくともアジア経済圏での最適化を図る必要がある。
海外進出経験の乏しい多くの日系SIerにとっては、経営のグローバル化は難しい課題であると同時に、ここを克服しなければ、国内市場の飽和と同様に衰退していく危険性に直面している。ユーザー企業は、今後、海外でのIT投資比率をより拡大させる傾向を強めるだろう。海外での情報サービスに対応できないSIerは、自ずとふるいにかけられる。
日本はこれまで製造業を中心とする輸出型のビジネスモデルで外貨を稼いできた。情報サービス産業においては、ソフトプロダクトの輸出だけでなく、現地で自らの分身を担う人材を育成し、中国など進出先の地元に密着したSIやソフト・サービスを展開する必要に迫られている。(安藤章司)