【西安発】中国西部の再開発が熱を帯びている。中国政府の経済振興策に呼応するかたちで、ソフトウェア開発やITアウトソーシング拠点の集積が急ピッチで進行。大手日系SIerも西部進出を重視する。人件費高騰が激しい上海など沿岸部に比べて、生産コストが比較的安定している西部・内陸部地域でのソフト開発や、同地域の再開発に伴う将来的なIT投資を見込んだ先行投資を加速させる。西部再開発の最前線に位置する西安市で取材した。
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中国共産党 劉明華・工委副書記 |
取材に訪れた西安ソフトウェアパークは、沿岸部でのコスト高に苦しむITベンダーやSIerのニーズを的確に捉え、2009年は売上高ベースで前年比30%を超える成長を達成。今年上期(1~6月)は前年同期比35%増と、伸び幅が拡大した。西安ソフトパークが属する西安ハイテク産業開発区担当で中国共産党の劉明華・工委副書記は「中国国内のみならず、日欧米からの投資が急増している」と、ほくほく顔だ。
中国の情報サービス業は、これまで沿岸部中心に発展してきた。中国ソフトウェア産業協会(CSIA)の09年の集計によると、北京や上海市ならびに江蘇や広東、浙江省など沿岸に面した地域の売上高構成比がおよそ8割を占める。とりわけ上海をはじめとする高度成長地域は人件費が高騰。SAPや用友など著名なERPを扱えるSEの「人月単価は6万元(約78万円)」(大手日系SIer幹部)と、すでに日本の地方都市の水準を上回る。優秀な人材はITベンダー同士で奪い合う逼迫した状況が続いており、「人材確保は死活問題」(別のSIer幹部)と危惧されている。この点、西部地域は人件費が割安であることに加え、優秀な人材を確保しやすい。
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西安 ソフトウェアパーク 王自更主任 |
西安に開発拠点をもつ用友グループの北京瑞友科技は、同社グループ全体で約1500人の開発人員を、早い段階で2000~3000人規模へ拡大させる構想を練る。なかでもソフトの製造工程は「西安に集約させる」(同社の高岩副総裁)という方針を示すとともに、NTTデータも同社グループ会社に一部出資。日本の大手SIerの参画も活発化している。また、クラウドコンピューティングを軸としたITアウトソーシング拠点としての成長も期待されており、「ソフトパーク内のデータセンター(DC)は、すでに四つに増えた」と、西安ソフトウェアパークを統括する王自更主任は話す。広大な敷地と安定した電力、通信基盤を活用したクラウドサービスが本格的に立ち上がりつつある。
さらに西部地域の経済発展も重要な要素である。中国政府は沿岸部との経済格差を解消するため、西部地域への投資を加速。西部再開発の追い風も相まって「ビジネスチャンスは大きい」(北京ソラン計算機西安開発センターの劉誠総経理)と、事業拡大に向けたアクセルを踏む。(安藤章司)