インターネットサービスを提供するさくらインターネット(田中邦裕社長)は、11月10~12日、千葉県・幕張メッセで開催された日本最大のクラウドコンピューティング関連専門展「クラウドコンピューティングEXPO」に出展し、2011年の秋に北海道・石狩市で開設する予定の「石狩データセンター(DC)」をアピールした。田中邦裕社長の講演が行われたブースには約80人の業界関係者が集まり、石狩DCのコンセプトや冷却システムについての説明に熱心に耳を傾けていた。(取材・文/ゼンフ ミシャ)

(左)ブースのデザインは石狩DCの外観を想定、(右上)クラウドEXPOの会場、(右下)石狩DCの断面模型を披露した
石狩DCの建設は、データセンター事業の拡大を加速化させるための取り組みだ。さくらインターネットは現在、東京都内に4か所と、大阪に1か所の都市型DCをもっているが、土地価格の安い北海道で大幅なコスト削減を実現した郊外型の石狩DCでは、新しいDC事業の形態を切り開く。
田中邦裕社長は、「郊外型DCが主流となっている海外と異なり、日本にはこれまで東京や大阪に集中する都市型のDCしかなかった。しかし、都市型DCはスペースが狭く、運用関連の費用が高いというデメリットがある。日本初の郊外型である石狩DCの建設を皮切りに、日本でグローバル水準のDC運用・利用料金を実現していきたい」とビジョンを語る。
外気でサーバー室を冷却
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田中邦裕社長。 講演には約80人が集まった |
札幌市街からおよそ15kmの場所に建設する石狩DCは、「郊外」という立地に加え、「大規模」と「環境配慮」をキーワードに掲げている。
建設予定地の大きさはおよそ5万m2と、「東京ドームが軽く入るくらい」(田中社長)の規模だ。地上2階建ての建物は8棟まで増築でき、サーバーを収納するラックは最大4000架まで増設できる。「DCは、規模が大きくなっても建設コストはそれほど変わることがなく、むしろ大きければ大きいほど1ラックあたりのコストが下がる」(同)というスケールメリットを、建設計画の柱としている。初期投資は約40億円と、比較的低いコストで抑えられる見込みだ。
「環境配慮」の面では、冬は寒く、夏にも気温がめったに30℃を超えない北海道の気候を生かし、外気を利用した冷却システムを採用している。このシステムでは、低温の外気とサーバーからの排熱を混合し、最適な温湿度の冷却風をサーバー室に供給。一年中、サーバー室内の温度を20~30℃に保つことができる。「 “自然の力による冷却” で電気消費量を大幅に減らすことによって、環境配慮と同時に、エネルギーコストを削減する」(田中社長)のが目的だ。具体的には、電気代を約40%、運用コストを約53%節約することで、合計およそ47%のコスト削減を追求している。
今後は、外気だけでなく、風力や雪氷などを利用した冷却システムの導入も検討していくという。田中社長は、さらなる省エネ・低コストへの意気込みを示す。
今後、2~3年ごとに新DCを建設
石狩DCの建設計画の背景には、「インターネットサービスの業界で、価格に対する訴求が増え、プロバイダ間の価格競争が激しさを増している」(田中社長)という事情がある。サーバーのレンタル料が月100円前後からと、幅広い価格帯でサービスを提供している同社にとって、サービス展開の基盤となるDCのコストをどれだけ抑えることができるかが競争力を左右する。
田中社長は、「今後、石狩DCの周辺に、2~3年ごとに新しいDCを建設する」と事業計画を語る。プロバイダとして数多くのDCをもつことを武器に、クラウドサービスの事業拡大を図る戦略だ。
・記者の眼
さくらインターネットが郊外型のDCを建設する計画は、3年前から頭にあったという。最初は、岐阜県を建設候補地として検討したが、十分に広い土地が見つからず、一時期、中国にも目を向けた。しかし、中国は規制のハードルが高く、DC建設・運営に必要な免許が取得できなかった。結局、建設に最も条件がよい場所は北海道の石狩市という結論に達した。
石狩DCは、土地の広い北海道にとって、地域活性化につながるモデルケースになるといえそうだ。