ホスティング事業のさくらインターネットは、2011年秋、本格的なパブリッククラウド方式の大型データセンター(DC)を北海道石狩市に稼働させる。都市型DCをメインとしてきた同社にとって、都心から遠く離れた場所にクラウド型DCをつくるのは、今回が初めて。GoogleやAmazonなど世界を代表するネットサービスに勝てるだけの規模とコストを実現することで、DCサービスのシェア拡大につなげる。
最大でサーバー約60万台
──石狩市に、最大でサーバー約60万台を収容できる巨大DCを建設することを決められました。その狙いはなんですか。
田中 日本で本格的なパブリッククラウドをつくるためです。国内のDCは、クラウド先進国の米国に比べて料金が2倍ほど高い。これを世界的にみて競争力のある価格帯に抑えるには、土地が安いところに、規模で勝るDCをつくらなければならないと考えたからです。
──石狩DCは、最大で8棟まで増築可能で、1棟目が2011年秋に竣工。最初の1棟の建設費は37億円だとうかがっていますが、初期投資からして割安です。都市型DCの場合、同等規模で100億円は必要ですよね。
田中 東京23区内に同様のDCをつくった場合と比較すると、石狩DCのコストは半額以下です。とくに電力消費が大きい空調設備を抜本的に見直しました。寒い北海道の外気を全面的に採り入れて、サーバーを冷却する方式です。
DC全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った指標、PUEは1.11を想定。空調を使った従来の国内都市型DCの平均PUEはおよそ2.0であることを考えれば、電力消費量も半分近い。将来は、空調をまったく使わない方式によって、IT機器がDC全体の消費電力とほぼイコールになるPUE1.0台に挑戦する考えです。
──ヤフーグループでDC会社のIDCフロンティアは、北九州に巨大DCを建設しています。御社と同じ1棟500ラック規模で、計12棟を計画。うち2棟がすでに運用を始めているとのことですが、競合しませんか。
田中 他社へのコメントは差し控えますが、一般論として、当社の取り組みはクラウド世界大手のGoogleやAmazonを強く意識しているという点で、既存DCとは異なります。
──どういうことですか?
田中 これまでの日本のDCの多くは、顧客がDC会社の施設内に自身のサーバーなどを持ち込む方式が多かったんですね。石狩DCでは、原則として顧客のIT機材は持ち込まない方式です。顧客が持ち込むとなると、都市に立地しているDCのほうが利便性が高く、郊外型は不利。電力を大量に消費する空調についても、顧客のサーバーが必ずしも空調レスに対応した特別な設計になっているわけではないので、結局、空調を動かさざるを得ない。石狩DCの強みを生かしづらくなってしまいます。AmazonのDCにユーザーがサーバーを持ち込んだという話は聞きませんよね。
既存方式をお望みのユーザーは、当社の東京や大阪などにすでにある五つの都市型DCをご活用いただけます。
──石狩DCは、誰が売ることになるのでしょう。第一期竣工だけでも500ラックもありますよね。
田中 日本のDCは、これまで付加価値の高さで勝負してきたところがあります。大手SIerのDCなどがその典型で、設計から開発、運用までフルアウトソーシングで請け負う。料金も当然高止まりする。一方で、GoogleやAmazonは非常に安価なサービスを打ち出し、世界中に進出している。付加価値を追求するのもビジネス形態の重要な要素ですが、当社では国際的にみて、価格でも十分勝負できるサービスをつくる。そうすれば、オンラインで世界中から多くの利用者が集まってくれるはずです。とくに石狩DCの場合、原則としてサーバー持ち込みはありませんから、ユーザーはオンラインで必要なときに、必要なだけITリソースを使うという形態です。
“箱”を売るのではなく、“サービス”を売る。
既存DCの概念を打ち破る新サービスを続々と展開する。
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